青春!ラプンツェル

汰つ人

第1話 青春探しのラプンツェル

 「青春しましょ!」


 後ろから突然話しかけられた銀髪の少女は、肩までの髪を上下に揺らし振り向いた。

 驚きの青く見開いた目には、髪が今にも地面につきそうな長い髪の少女が映ていた。その髪は亜麻色の大きな三つ編みに花飾りをあしらい、それはそれは美しい髪だった。

 長い髪の少女は端麗な顔から笑顔をのぞかせながら、

「ねぇ、青春しましょう。あなたのお名前教えて。」

「えっ、なになに」

 銀髪の少女は、あたふたするばかり。その前に、黒髪の少女がきりっとした目で半身を入れてきた。

「人に名前を聞く時は、自分から名乗るものですよ。」

「えっそうなの?」

 長い髪の少女は、目を丸くしながらも、

「私はラプンツェルといいます。」

 素直にお辞儀をして答えた。

 それにたいして黒髪の少女は、表情を変えずに、

「これはこれは、シェインといいます。で、こっちの姉御は、姉御です。お見知りおきを。」

「ちょっとシェイン!なに勝手なこと言ってるの!」

「いや、姉御だから。」

 銀髪の少女は、ほほを膨らましながら顔を赤らめていた。

「私は、レイナ!レイナです!」

 ラプンツェルは、

「外の世界は楽しいですね。」

 とつぶやくと、クスクスと笑っていた。

「で、ラプンツェルさん、なんで青春したいんですか?」

 シェインは、ラプンツェルの笑いを遮るように聞いてきた。

「うふふ、私と同じ年の子たちは青春してるって、本に書いてあったの。甘酸っぱくて思い出になるって。だから、青春やってみたいの。」

 ラプンツェルは無垢な笑顔を見せながら、二人に目配せした。

「青春したいって言われても・・・姉御、よろしくです。」

「まって、そこ私にふる?」

 困惑した二人をみて、ラプンツェルは同じように困惑の表情をのぞかせはじめていた。

「青春できないんですか?」

「そんなことないわ。ごめんなさい、ラプンツェルは友達とかいないの?」

「私、ずっと部屋に閉じこもっていたから、最近までおばあ様以外の人に会ったことないの。」

「ピカン!シェイン知ってます。前に行った想区で覚えました。」

 目をキラキラとさせ、シェインは指を立てた。

「ひきこもりですね!」

「シェイン!失礼でしょ。この服装と感じは、箱入り娘よ!」

 そんなことを言われた、ラプンツェル自身はちんぷんかんぷんだったが、二人の掛け合いに、また、クスクスと笑い出した。


「おーぃ」

 聞こえてきた声の方を見ると、青髪の剣を背負った幼顔の少年が走ってきた。

「あら、エクス。何か手がかり見つけたの?」

 エクスは、レイナの近くまで走り寄り、少し息を切らしていた。

「うん。タオがカオステラーを知ってそうな人を発見したから、レイナに会わせたいって。」

「さすがタオ兄、仕事が早いです。」

 と、シェインは誇らしげだった。

 すると森の陰から、灰色髪の後ろ毛を縛った精悍な顔立ちの少年が村人風の男を連れて歩いてきた。

 灰色髪のタオは、レイナ達に向かって歩みを進めていると、後ろからついて来ているはずの男の気配が感じ取れなくなっていた。後ろを振り向き確認すると、そこにはおびえた表情で男が立ち止まっていた。

「ラ、ラプンツェル・・・」

 男がかすれた声で言い終える、その時に、タオの横を勢いよく長い蛇のようなものがすり抜けていく。瞬間的にタオは身をひるがえし距離をとると、そこにはうねうねと動く亜麻色の髪があった。

「助けてくれ!」

 叫んだ男に、大蛇の様に巻き付いていく。

 あっという間に男は髪の毛に包み込まれてしまった。

 一瞬の出来事に、体が動かず見ているだけになってしまったレイナ達。


 クルルルぅ・・・

 さっきまで助けを求めていた髪の毛の中から、不気味な声が漏れてくる。

 うごめく髪の毛の間から赤黒い巨大な手が現れ、その隙間から暗い暗い闇がのぞかせていた。

「やめろー!」

 そう叫んだエクスが、白いページが連なる本を取り出し、光輝く栞を挿んだ。

 その瞬間みるみる姿が変わり、小柄ながらもしっかりとした体つきの別の少年に変貌した。

 ジャックと豆の木のジャックだった。

 ジャックの姿となったエクスは一足飛びにラプンツェルに近づき、右手に持っていた鏡のように光る片手剣を横一文字に振り切った。

 ぼとっ・・

 鈍い音が地面から聞こえる。

 凍り付いた一呼吸の間を置き、

「きゃー!」

 耳をつんざく悲鳴がこだました。

 レイナの瞼は痙攣しながらも目は一点、足元に転がるラプンツェルの頭部を凝視していた。

「やりすぎです。新入りさん。」

「い、いや、でも、髪の毛だけを、切っんん・・」

 表情の固まったまま、言葉にならない言葉でエクスは、シェインに答えていた。

 すると、

『本当におばあ様の言うとおり、男の方って乱暴で、野蛮なのですね。』

 地面にころがっている頭だけのラプンツェルが、エクスの顔を睨みつけながら言葉を発していた。

 一同は、一層の驚きに輪がかかり、動きが凍てついた。

『何している!避けろ!エクス!」

 タオが叫んだ。

 その声に、ラプンツェルの頭に注視していた三人の氷がとけた。顔を上げた三人の目には異様な光景があった。

 切られた首から直に髪の毛が生えてきて、それはまるで海中で揺らめく巨大なイソギンチャクの様だった。

 その触手は、まさにエクスを襲うところだった。

「エクス!」

 レイナは、咄嗟にエクスに抱き着き地面に押し倒した。その瞬間、髪の毛の動きは止まり、今度はゆっくりと自分の頭部を拾い上げた。

「ジャッキーン!ドッキング!」

 言ったのは、シェインだった。

 ラプンツェルの首は、何事もなかったようにつながった。

「あーあ、あなたも、あそこの方の様にヴィランになって頂こうと思ったのに・・・」

 髪の毛に捕らわれていた男は、既に髪の毛から解放され、異形の者となっていた。

 全身を闇で覆われ、手と足先は乾いた血の様に赤黒く、目は暗闇の中で光る灯火の様に目立っていた。

 レイナはエクスの傍らで座り込みながら、ラプンツェルに聞いた。

「どうして、こんなことするの?」

「あら、私はただ青春というものをしたいだけなのに、意地悪ばかりするからですの。それよりも、レイナや、シェインも姿を変えることできるの?」

「えっ、えぇ」

「へぇ、やっぱりそうなんですね。別に髪の毛ってわけじゃなさそうですし・・・」

 と、シェインの体を上から下へとゆっくり探るように見ていた。

「ねぇ、姿を変える方法、教えて。」

 ラプンツェルは、それ自体が髪の毛と思えぬほどの笑みを見せていた。

 シェインは斜めにびしっと手を挙げて、

「ヒーローは、変身できるもんなのです。シャキーン」

「で、どうするの?どうするの?」

「そうですね、まず、高らかに変身って宣言します。そして、懐から、」

「そこまでにしときな。今は、それどころじゃねぇ。」

 タオが、ヴィランと対峙しながら、シェイン達との間を詰めていた。

「それに、敵にむざむざと教えることでもねぇよ。」

 そう言われて、しゅんとするシェイン。

「敵だなんて、酷い言われようですね。」

 ラプンツェルは、ゆっくりとタオのいる方に歩いてく。

「それでは、こうしましょう。変身せざるようにしましょう。」

 パン!っと手を叩く。

 そうすると、どこからともなくヴィランが集まってきた。

「みんな、意地悪な方々とちょっと遊んであげて!」

 そう言うと、姿を現したヴィラン達が勢いよく襲いかかってきた。

「こりゃ、さすがにヤバイかな。」

 タオはつぶやき、白いページの連なる本を取り出し、光り輝く栞を挿んだ。すると、みるみる獣人化していき、鋭い牙とふさふさのしっぽが生えてきた。顔つきも険しい獣となったが、服装は気品のある装いをしていた。

 美女と野獣の野獣、ラ・ベットに変身した。

 これに続き、シェインも栞を本に挿んだ。シェインは逆に体は華奢になっていった。さらに幼くなり赤い頭巾をかぶった。そう赤ずきんに。

「まぁ!なんて素敵なの。」

 ラプンツェルは、感嘆な声を上げていた。

 その輝かせた目の先には、黄金のティアラと真っ白なドレスを身に纏ったレイナがいた。その足元にはガラスの靴、シンデレラだった。

 タオはヴィランの攻撃を盾で受け流しながら、右手に持った斧でかち上げていく。まるで地面からヴィランを次々に引っこ抜いていくようだった。

 そんな引っこ抜かれて空中に浮いたヴィランに追い打ちをかけるかの如く、火の玉が襲いかかる。

 ズッドォン!

「たまや~。みんな花火にしてあげます。」

 シェインは両手でクルクルと杖を回していた。ものすごく息のあったコンビネーションでヴィランの数を減らしていく。

 一方、エクスは片手剣でヴィランの集団に切りかかっていくが、集団の戦いに慣れていないのか、うまく攻撃を避けられずケガが絶えなかった。

 しかし、傷つくそばから、みんな治っていった。レイナは、エクスが傷をつくるたびに片手杖を振りかざしていた。

 ある意味不死身なエクスはモーゼの様にヴィランの海を切り開いていった。


 やがて、その場にいたヴィランをすべて駆逐し終えるのにそんなに時間を必要としなかった。

「さぁ、親玉はどこだ?」

 タオがあたりを見回した。

 ラプンツェルの姿はいつの間にかなくなっていた。

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