第2話 みんなで青春ラプンツェル
僕らは生まれたとき
一冊の本を与えられる
僕らの世界、生きる意味、運命、
それらすべてが記された戯曲
『運命の書』
全智の存在、ストーリーテラーが
記述したその『運命の書』に従い、
僕たちは生まれてから死ぬまで、
『運命の書』に記された役を演じ続ける
それがこの世界のひとびとの生き方
だからさ、教えて欲しいんだ
空白の頁しかない『運命の書』を与えられた人間は、
いったいどんな運命を演じて
生きていけばいいのだろう?
風が肌をほんのりとさすっていくと、ひんやりと体温を奪っていくのを感じる。
深々とした緑の木々の中に、少しづつ黄色を差す葉がちらりほらり。
暖かな木漏れ日が、風のリズムに乗って揺れ動く。
「ふぁーぁ・・・」
タオは木に寄りかかりながら大きなあくびをした。眠気を誘う昼下がりだ。
傍らにはエクスが立ち、目の前の切り株にはレイナとシェインが座っていた。
「レイナ、あのラプンツェルって子がこの世界、この想区の主役かな?」
「たぶんそうね。カオステラーは、主役かそれに近い人物に憑依するはずだから。」
エクスの質問にレイナが答えた。
「レイナは、この想区にカオステラーがいるってわかるのに、なんで想区に入った後は、カオステラーがどこにいるのかあやふやなの?」
「ちょっとまって、だいたいこっちの方って、案内してると思うけど・・・」
いやいや、と言いたそうにタオとシェインは首を横に振っている。
そんな二人の態度にむくれながら、
「確かに、道に迷ったり、敵にさらわれたりしてるから、そこばかり目立っちゃているけど・・・」
「姉御、それはもうアウトですよ。」
「いつも思うんだが、お嬢の性能がもう少し良かったら、もっとスムーズに調律し終える気がするんだよ。だから、タオファミリーとして、俺が先導してあげようとしているんじゃないか。」
「いりません!それにそんなファミリー入った覚えがありません。」
「まぁまぁ、二人とも。それよりも、まずはラプンツェルを探さなくちゃ。」
エクスが鼻息が荒くなってきた二人をなだめた。
「そうです。新入りさんの言う通り、ラプンツェルを捕まえましょう。」
「捕まえるって言っても、あの髪の毛人形だろ。」
タオは、怪訝な顔をする。
「でも、今は彼女を見つける手がかりでしょ。私は探しに行くわ。」
レイナは、立ち上がろうとすると、シェインは制止する様に、
「姉御、ストップです。今、この森に姉御が飛び出されたら探し人が二人に増えてしまいます。」
「何言ってるのシェイン、まるで私が迷子になるみたいじゃない。」
「いえいえ、姉御の羽が生えて舞うような素敵な動きににシェイン達ではついて行けないってことですよ。」
「あら、そう」
まんざらでもなさそう顔をするレイナにタオは、
「おいおい、片手で持ちあがる軽さだなぁ」
と、やれやれといった顔をした。
「むやみに探し回ってもってことでしょ、シェイン。」
「え、あ、そういうことです。そこで、提案です。罠を張るのはどうですか。」
「そうかなるほど、で、どんな罠を張るの?」
エクスは興味津々でシェインを見つめた。
「シェインにお任せです。まずは、籠を用意して、それを棒一本で支えるんです。その棒にひもをくくりつけておき、籠の中に餌を撒いたら完成です。餌におびき出された獲物が籠の下に来た瞬間、ひもを引けばゲットです!」
「ツッコミどころ満載で、どうしたらいいのか・・・」
「いやいや、姉御、これは長年シェインが鬼ヶ島でスズメと格闘してきた経験と勘を活かせる素晴らしい罠ですよ。」
「おお、あれか、あれか!で、で、餌はどうするよ?」
なぜか、興奮気味のタオ。
「そうですね、あの手の女の子には・・・」
「おう、おう、俺は団子がいいと思うんだが、特にキビ団子!あれはそそられると思うぜ!」
「ちょっと待ってくださいタオ兄、それもいいんですがひらめいちゃいました。タオ兄はそのままで、新入りさんは、タオ兄と向き合って見つめあってください。」
エクスはシェインに言われるまま、タオの前まで行き向き合った。
「そうです。イイですね。新入りさんはそのまま片手を前に出して、タオ兄の寄りかかってる木に手をついてください。」
エクスの手が木につく、すると、
「壁ド~ン!」
シェインが叫ぶ。
「うーん、やっぱり、タオ兄が新入りさんに壁ドンをした方がしっくりきますね。」
「なんだこりゃ?俺らが餌ってことか?このポーズに意味があるんか?」
「もちろんです。BLで壁ドン、萌ポイントが2つも入ってます。」
「びーえる?かべどん?」
タオには当然ちんぷんかんぷんだ。
「これじゃあ、ラプンツェルと一緒に三人とも捕まっちゃうね。」
と、にこやかにエクスは言う。
「もう、おふざけ禁止!」
レイナは、息荒げに立ち上がった。
「だいたい、あの髪の毛の束の様なラプンツェルをどうやって捕まえるのよ。」
「それは、簡単ですよ。姉御が持っているリボンで結べばいいんです。」
「あぁ、なるほどね。このリボン似合いそうだかから結んであげるって近づいて、そのままリボンで縛りあげちゃえばいいんだね・・・って、短いわ!」
「おおっ」
と言いながら、シェインは手を叩いた。
そこに、申し訳なさそうにエクスが、
「あのぉ、ちょっといいですか?」
「なぁにぃ?」
とってもご機嫌斜めなレイナ。
「思うに、ラプンツェルの心の隙間を埋めてあげたら、どうかな?」
「それって、ラプンツェルにとって運命の書の不満を解消してあげるってこと。」
「そうしたら、戦わないで、レイナの調律を受け入れてくれるんじゃないかな。」
「そうね、戦わないでカオステラーを止められたら夢よね。」
「今回のラプンツェルは、意外と話せばわかってくれそうですしね。」
シェインは賛成の様に、うんうんとうなづいた。
だが、タオだけは浮かない顔をしていた。
「おいおい、どっちにしても、ラプンツェルを探さなきゃならんだろ。」
「そんなの、『ラプンツェルー!!』って呼んだら出てくるんじゃない。」
レイナが言い終わると同時ぐらいに、
「呼びましたか?」
スーッと、レイナの傍にラプンツェルが現れた。
「えぇー!」
言い出したレイナが一番大きな声で驚きを表した。
逆に険しい表情で身構えたのはタオだった。ラプンツェルは、そんなタオを一瞥して、
「あらあら、レイナに呼ばれてきたのです。争う気はありませんわ。それよりも、なんですか?レイナ!」
レイナにずぃいっと踏み寄る。レイナはあたふたしながらも、
「ラプンツェル、あなたが青春したいって言ってたから、一緒に青春しようと思って・・・」
「本当に!うれしい!」
ラプンツェルは、レイナの手を取り無邪気に喜んだ。
「で、青春するには、私は何をすればいいのですか?」
「えっ?やりたいことが決まってるんではないの?」
「やりたいことは、青春です。でも、青春が私ぐらいの年頃は皆やってるってことぐらいしか分かりません。だから、教えて欲しいのです。」
レイナは、助けを求めるような目をして三人を見回した。
そこで、エクスが助けを出した。
「青春って、とらえ方が人それぞれだと思うけど、みんなで何かを一緒にすることだと思うよ。それが、思い出になるんだと思う。今、ラプンツェルは、僕らと一緒にやりたいことってないの?」
ラプンツェルは、首を傾けて天を仰ぎみた。
「そうですね。それでは・・・鬼ごっこにしましょう。」
『鬼ごっこ!』
四人の声が一斉に揃った。
「私には、みんなで一緒に何かやったってことで思い浮かぶのは、部屋に閉じこもる前にやった鬼ごっこぐらいですし、かすかに楽しかったような気がしますから・・・」
「いつから、閉じこもっているんだ?」
タオはぼそっと言った。
「それでは、ラプンツェルさん。鬼ごっこやっちゃいましょ。姉御もタオ兄も、新入りさんもやりますよ。」
シェインは片腕をぐるんぐるん回し、やる気満々だ。
「鬼ごっこ一緒にやってくれるんですね。わぁ、楽しくなってきました。それでは、鬼を決めましょう。」
ラプンツェルも嬉しそうに笑顔で言った。
「それじゃ、まずは俺が鬼をやるぜ。」
「ちょっと、タオ兄、なに先走ってるんですか。鬼族のシェインを差し置いて鬼をやるなんて、順序が違うんじゃないですか。」
「いやいや、とりあえず鬼役は俺に任せとけって。」
バチバチっと火花を散らす二人、見てる限り子供だ。その様子を不思議そうに見ているラプンツェルは、
「鬼って、取り合いになるほどのものでしたでしょうか?」
「はっはっはっ、この二人だけ特別だよ。鬼を皆がやりたがったら、我先に鬼に捕まりに行っちゃうから遊びとしては破綻しちゃうよ。」
エクスは苦笑いしながら言った。あきれ顔のレイナは、
「もう、いいかげんにして!ここは先に言い出したタオでいいじゃない。シェインは我慢しておきなさい。」
と、一喝した。
「姉御~シェインから鬼を取らないでください・・・」
「うわぁはははぁ!俺様が鬼だ!お前ら覚悟しろよ!」
「はいはい、ほら、鬼がはりきっているから、みんな逃げるよ。ラプンツェルもいい?」
レイナの問いに、ラプンツェルは、頬を紅潮させ嬉しそうにうなずいた。
「それじゃ、よーいスタート!タオは百数えたら追いかけてきてね。行くわよ!」
なんだかんだ、レイナも楽しそうに走り出した。それに続くようにエクスとラプンツェルが駆け出した。
シェインはジト目でタオを見ていた。
「ずるいです。ラプンツェルを捕まえるチャンスなのに・・・」
「おいおい、ここは兄である俺に任せとけ。あっという間にラプンツェルをとっ捕まえて本体の場所を吐かせてやるぜ。安心して逃げろ。てか、お嬢を一人で逃げさせてる方が心配だ。」
「わかりました。姉御をしっかり見張っておきます。」
シェインはしぶしぶ言うと、ジャンプして木の枝を掴んだ。すると、勢いのまま蹴上がり、木から木へと跳ねていく、さながら忍者の様であった。
「九十九、ひゃーく!よっしゃ!俺の活躍を括目しろ!わははは!」
高笑いしながら、走り出すタオ。元々の運動神経が良いのか、野性的なのかすぐにトップスピードへと到達すると、木々の間をスピードを落とすこともなくすり抜けていく。自信を持つだけのある走りで、本当にあっという間にラプンツェルの背中を捉えた。
「そんな、走りにくそうな服で、逃げ切れると思うなよ。」
そう口にすると、また一段ギアが入って加速していく。3メートル、2メートル、1メートル次第に距離を縮めていく。走りの勢いのまま腕も伸びていき、ラプンツェルの肩に手が掛かる。
「ほら、捕まえたぜ!」
と、口にしたのもつかの間、手は宙を切っていた。
「残念でしたね。うふふふ」
ラプンツェルは、タオの背後に立っていた。
タオはすぐに振り向き、手を伸ばして捕まえようとする。
しかし、またその手は宙を切っていた。また、後ろ、今度は右横、タオを中心に嘲笑うが如くラプンツェルの笑い声が多重に木霊した。
それを、イラつきながら追いかける。さながら等身大のもぐらたたきの様だった。
やがて、
「それじゃあね、鬼さん。」
そう言うとラプンツェルは、パタパタと背負向けて逃げて行った。
タオは、大きく息を切らして追うことができず、手を膝についていた。
「アンタ、大口叩いた割にはだらしがないわね。」
タオが顔を上げるとレイナが近づいてきていた。
「悪かったな。」
「ハイハイ、選手交代。アンタは少し休んでなさい。」
見上げると、木の上にはシェインが立っていた。
しょうがねぇなといった顔で、タオはレイナの手をタッチした。
レイナはラプンツェルの逃げた方へ歩いて行った。
すると、大人が5人ぐらいでやっと手が回りそうな程の大きな幹に、ラプンツェルが寄りかかっていた。
「レイナ、そっちに鬼がいなかった?大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。」
そう言うと、ラプンツェルとの距離を縮めていった。
「今です姉御!リボンの出番です!」
レイナはシュッとリボンを引っ張り、端と端を両手に持って駆け寄った。
「ラプンツェル、このリボン似合いそうだから結んであげる!」
ラプンツェルは、走ってくるレイナを軽く身をひるがえし避けた。
「ありがとう、でも、今は遠慮しておく。だって、レイナ鬼でしょ。」
「あちゃ~」
木の上で、シェインは手で顔を隠した。
ラプンツェルは、そのままレイナに背を向けて逃げ始めた。
「ラプンツェル、ちょっと待って!」
「姉御は、そのままラプンツェルを追いかけて下さい。」
シェインは、そう言うと姿を消した。
「大丈夫?」
エクスは座り込んでいるタオに声をかけた。
「おう、もう落ち着いたよ。マジあの女、見かけによらず素早いぜ。」
「髪の毛だからね〜」
「よく考えてみろ、俺の髪なんか一月に一寸も伸びないのにあの伸び縮み異様だろ。」
「カオステラーだからね〜」
「まぁ、とりあえず作戦だ。なにか考えねえとな。お嬢にはたぶん無理だろうし。」
「レイナだからね〜でも、シェインもついてってるから、もしかしたら捕まえてるかもね。」
「いや、無いな。もうすぐあれだ、助けてタオ様って来るぞ。」
と、言っていると木々の上から声が聞こえてきた。
「タオ兄、ラプンツェルがこっちに来ます。準備を!」
「おっしゃ!ほれみろ!」
タオは、嬉しそうに飛び上がり戦闘でもするかの如く構えた。
「で、どっちからだ?」
「何やってるんですか。壁ドンですよ。か・べ・ド・ン!」
シュッと、木の上にいたシェインが軽やかに降り立った。
「はぁ?」
タオは、なんじゃそりゃあてな顔でシェインににじり寄る。
「ハイハイ、そういうのはイイですから。新入りさん、そこの木に寄りかかって!」
シェインは、テキパキと指示をしていく。それは、まるで映画監督の様だった。
「新入りさん、軽く胸の前で手を組みましょう。そう、祈るみたいに、イイですね〜。ホラ、タオ兄も時間が無いんだから、さっさとする。」
こうなったシェインは止められそうもなく、タオも渋々従った。
「ねぇ、さっきと配置が逆だよ。」
エクスは、軽く見上げる形でタオの顔を見ていた。
「これ、顔近くないか?なんか恥ずかしいんだが・・・」
タオは木に手をついてるのだが、軽く肘を曲げて二人の顔の距離は相当近くなっていた。
「いいですか、ラプンツェルが来ても、このままの姿勢で見つめ合ってて下さいね。言うなら、動かないでってことですから。」
恥ずかしそうに顔を赤らめる男二人を覗き込む様に、シェインはニンマリとして言った。
やがて、森の奥から人が来る気配を感じて、シェインは木の上に戻っていった。
ラプンツェルは、目の前にある異様な光景に首をかしげながら、近づいていった。
「あなた達は、何をなさってるんですか?」
それに対して、なんの反応も見せずシェインの言いつけを守るタオとエクス。
「もしもーし、それは今流行ってる事なのですか?」
ゆっくりゆっくりと、様子を伺いながら歩を進める。
右から見て、左から見て、二人の間を下から覗き込む様にしゃがんだ。
その時だった。
「ちょっと!あなた達、男同士でなにやってんにのよ!」
横の藪からレイナが勢いよく出てきた。
ガサガサ、バサーン!
「うぉー!なんじゃこりゃ!」
「なんなの、これ!て、どこ触ってるのよ!」
ドコッ!
「ぐふぅ、ごめん、レイナ、わざとじゃないんだ・・・」
蔦で編まれた大きな網の中ではしゃぎまくる男二人と女一人。
それを呆れ顔で眺めるシェイン。
「なんで、ラプンツェルさんを後ろから追ってた姉御が、そこから出てくるんですか?」
「しょうがないでしょ!藪があけたら、男同士でキスしてるじゃない!」
『してない!』
エクスとタオは声をそろえて言った。
「それよりも、早くこの網どうにかしてくれ。」
「もう、肝心なラプンツェルさんに逃げられるし、無様です。タオ兄。」
シェインは網をほどきながら言う。
その後ろから、クスクスと可愛らしい笑い声がこぼれていた。
「ホント、愉快な人達ですね。でも、鬼が四人いるみたいで、4対1ではズルくありません。そこで、私も・・・」
そう言うと、ラプンツェルは手を叩いた。すると、ラプンツェルの横にまったく一緒のラプンツェルが現れた。そして、その横にも、またその横にも、間違え探しをした所で絶対間違えが無いと言い切れるラプンツェルが登場した。
「おいおい、四つ子かよ。」
「そんなわけないでしょ。」
レイナ、タオの頭を軽く小突いた。
『さぁ、これで勝負です。』
ラプンツェルの声が四重奏かの様に響いた。
「ちょっと待って下さい。これでは、完全に鬼ごっこではなく、どちらかと言うと、サバゲーです。」
『サバゲー?』
シェインから出た初耳な単語に、ラプンツェルは疑問と興味が合わさって、複雑な表情をしていた。
「そう、サバイバルゲーム。武器の能力を最大限使った戦ゲームです。」
シェインの目がキラキラし始めた。
「こういうのはどうでしょう。ラプンツェルさん側とシェイン達のチームでそれぞれ大将を決めて、その人を捕らえたらそのチームの勝ちってルールでサバゲーをやってみませんか?」
「私のチームには、ヴィランを入れてもいいの?」
「ええ、4対4じゃなくてもいいです。その代わりシェインに大将を決めさせて下さい。どうですか。楽しいですよ。」
「目新しさが満載で楽しそうですね。やらさせていただきます。」
ラプンツェルの目もキラキラして、にこやかな笑顔を見せていた。
「それじゃ、決まりですね。では、大将を決めさせてもらいます。シェインのチームはもちろん、姉御です!」
「えぇ!わたし!」
網から脱出したレイナが驚きの表情で立っていた。
「そして、ラプンツェルさんのチームはラプンツェルさんの本体、髪の毛の複製じゃないあなたです。」
「あなた達に、見つける事出来まして?」
「やってみないとわかりません。それに、ゲームですから。」
「そうですか、でしたら楽しみましょう。但し、こちらも本気で行きますよ!」
四人のラプンツェルが片手を天高く伸ばすと、辺りから、ヴィランが現れた。そして、バキバキ!と木々を倒す様な音が次第に近づいて来る。
やがて、音が目の前まで来ると、木々の間から巨大な鎧を纏った手が現れ、巨大な足と全身が順に現れた。
「メガ・ゴーレム!」
その巨軀はシェインの倍はあり、頭から爪先まで全て鎧に包まれていた。腕や足も人の胴体より太い正に巨人だった。
レイナはそれを見て鋭い表情となり、闘いの目つきとなった。
「シェイン、メガ・ゴーレムまで出してきたけど、なにか作戦はあるの?」
「とりあえず、新入りさんを貸して下さい。タオ兄は、姉御をお願いします。捕まったら負けなんで。」
「オーケー、まかせとけ。」
「みなさーん!そろそろいいですか?」
ラプンツェルはにこやかに手を振った。
シェインは何も書かれてない運命の書、空白の書と光り輝く導きの栞を取り出した。
「そうですね。では、始めましょうか。行きます、よーいスタート!」
シェインのかけ声と共に、一斉に動き出す。
メガ・ゴーレムは一直線にレイナに突進んしていく。それを読んでいたタオは野獣ラ・ベットに変身して、盾でその動きを止めにかかった。
「重い・・・」
弾かれそうになりながらも、必死に押さえ込む。
「いつまでも、守られていられないわ。」
レイナは、空白の書に導きの栞を挟んだ。すると、金髪にウサギの耳の様な黒いリボンが映え、青を基調としたファンシーな衣装となった。手には片手剣を携えた不思議の国のアリスと変身した。
手にした片手剣で、メガ・ゴーレムの鎧のすき間、肘関節に突き立てた。
「助かる。力が緩んだぜ。おりゃ!」
タオはメガ・ゴーレムの腕を盾で押し上げた。
レイナは、ガラ空きとなった胴体に向かって剣で切りつけた。が、しかし、すぐに押し上げた腕がレイナに向かって降りてきた。
「うわぁっと。」
レイナは、素早く横に避けた。
シェインは、その様子を横目で見ながら、
「新入りさん、メガ・ゴーレムはタオ兄と姉御に任せましょう。一緒について来て下さい。」
そう言うと、ラプンツェルを追いかけはじめた。エクスは、その後をジャックの姿でついていった。
四人のラプンツェルは蜘蛛の子を散らす様にバラバラに逃げて行く。そのうちの一人に目星をつけたのだが、その行き先をヴィラン達が遮ってくる。
シェインは、空白の書に導きの栞を挟んで変身した。
黒髪はウェーブのかかった金髪になり、花飾りを所々に着飾った妖精の姫エルノアに姿を変えた。
手に持った弓と矢で、ヴィランを撃ち抜いていく。
「追って下さい。新入りさん。」
エクスは、剣でヴィランをなぎ払いながら、ラプンツェルに追っていく。
シェインは、合間合間に矢を撃ってラプンツェルの進行方向を制限していき、やがてエクスの前にはラプンツェルの姿があった。
「捕まえますか?」
「迷わず斬りつけて下さい!」
シェインのその声に、ほどける様に崩れていくラプンツェルを一瞬早く、エクスは袈裟斬りした。
バサッ!二つに分かれる体。しかし、そのまま地面に落ちると、ほどけて姿を消していった。
「消えちゃいましたけど・・・」
「いいんです。次、行きますよ新入りさん。」
そう言うと、シェインは、またラプンツェルを探しに森へと入って行った。
はぁはぁ、エクスは肩で息をしていた。
三人目と四人目のラプンツェルを相手していた。流石に二人相手に、しかもタオもやられた素早いモグラたたきラプンツェルバージョンで斬りつける事もままならなかった。
そんな中、シェインの集中は次第に高まっていく。
次の瞬間、シェインの弓から緑色の一筋の光が走った。それはまるでレーザーの光の様にラプンツェルをまっすぐ捕らえると、木の幹に押し当てた。
エクスは、そのチャンスを逃さず、ラプンツェルを斬りつけた。
「おっ、調子イイじゃねぇか。」
メガ・ゴーレムを倒した、タオとレイナも合流した。
「さぁ、シェインのチームがだいぶ優勢ですよ。」
えっへんといった感じでシェインは得意げな顔をした。
「そうですね。今までいろいろと戦て来た事がわかります。でも、今日はもう日が暮れそうですので、また、明日続きを致しましょう。ごきげんよう。」
そう言うとラプンツェルは、手を振ってシュッと姿を消した。
「うぉい、逃げられちまったぜ。」
タオはラプンツェルの立っていた場所に駆け寄る。
「そんなことはないわ。明日になったら、また、青春しよって現れると思う。逆にコレが続くんじゃないかと思うと、ゾッとしちゃうわ。」
そう言って、レイナは身震いをした。
そんな二人を見て、エクスとシェインは笑顔で顔を見合わせた。
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