第10話 🏹 追剥
外に出ると、すでに陽が落ちかけていた。俺としたことが、あんな
それにしても驚いたのは──親父だ。まさかあんなところに立ち寄って、大事な
〈俺が来るのを見越したかのような〉?──そうか!これは親父の残した道しるべなんだ!
幸いにも俺はすでに親父直筆の地図を受け継いだ。だが、万が一親父がそれを託せなかったとしたら…その事態を想定して他にも手がかりを用意しておいたんだ!そうに違いねえ。まったく抜け目ねえなあ、親父!
俺はそんな物思いに耽っていた。そしてそのせいで、気がつけば見慣れない路地裏に入り込んじまった。辺りはすっかり薄暗く、人影もねえ。まるで城下とは別の世界に紛れ込んじまったかのようだった。左手にはカビ臭せえ小さな運河が横たわり、その先にはみすぼらしい柳の木が一本、しけた死神みてえにぽつんと立っていやがる。一瞬吹き抜けた薄気味悪い生温い風が、にわかに柳の枝を揺らした。俺は何か嫌な予感がした。
「おいおい、こんなところで一人でボーっと突っ立ってんのは物騒だなぁ、お兄さん」
そう言って不意に物陰から姿を現したのは、痩せこけて貧相な悪人顔をした、いかにもいかがわしい野郎だった。いつからそこに潜んでいやがったのか。まったく
「誰だ?おめえは?『お兄さん』なんて馴れ馴れしく言われる筋合いはねえようだが」
とっさに返答した割には、我ながら少し気の利いた切り返しをした気になっていた。
「ふん、笑わせるじゃねえか、お兄さん。だかなぁ…馴れ馴れしくしたくって言ってんじゃねー!このド阿呆がっ!」
最初は静かな物言いだった野郎だったが、突然キレ気味のテンションになりやがった。
「ふん!要はなぁ、お前の態度次第では、可愛がってやるよ?ってことさ!」
まったく、困ったもんだぜ…こういう輩ってのは、意味の分からねえことを平気でぬかしやがる。俺はそういうのが本当に好きじゃねえんだ。本当にムシャクシャさせやがるぜ。
「で、いったい何の用だ?俺はこんな所でお前と無駄話みたいことをする気は微塵もねえんだが」
「ふん!俺だってお兄さんと『お話』したいわけじゃねえ!ふざけやがって!ただその荷物をいただくまでのことよ!」
野郎は目にも留まらぬ速さで俺の荷物に手をかけやがった。
「貴様っ、追い剥ぎか!」
俺はまるで今初めて気がついたかのような反応をした。しかし初めから分かっていたはずだ。それ以外に何があるっていうんだ。(ここだけの話だが──実は俺は、そういうウブなフリをするのが嫌いじゃねえんだ…あんまりいい趣味じゃねえかもしれねえが…)
「うるせえ!つべこべ言わずその袋を渡しやがれ!」
野郎の掴んだ力は相当なものだったが、俺は首尾よく振り切った。そしてその反動で後ろ向きになった時、後方の退路を探った。しかし…なんてこった!野郎の仲間か⁈後ろにもすでに何人か立ち塞がっていやがったんだ。それにしてもどいつもこいつも冴えねえ野郎たちだった。(俺はこの期に及んで、そんなどうでもいいことに落胆していた。)
「くそッ、挟み討ちか!」
こうなれば多勢に無勢。圧倒的に部が悪い。この際、逃げるのも恥じゃねえ…
──脇に横たわる薄汚ねえ運河に飛び込むか?
──それとも潔くコイツらと勝負するか?
どうする?俺!
弓矢物語 今居一彦 @kazuhiko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。弓矢物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます