制圧
“
腐敗した日本の各重工、兵器、医療業界、政治団体などを背景に育ったと言われており、イスラム系過激派や国粋主義者とのつながりも深いのだという。
ローズルのコードネームを持つ男もまたそうした企業連合体の腐敗が産んだのだという。
中東で少数民族を率いて戦ったとも言われているが、その詳細は明らかになっていない。
塗りつぶされた記録がある。多くの国がそうであるように、日本もまた非正規戦が常になりつつあった世界の潮流にのって、秘密作戦を行ってきていた。アフリカ某国を襲った異常な大寒波の年に決行された作戦などは、その始まりであるのだと言う。異常な大寒波により引き起こされた大飢饉。とあるテロリストがこの気に乗じて一部部族をけしかけた。日本、米国が行った作戦はもはや闇に葬られてしまっているが、隊長である飯田は内容について知っていた。
「敵襲!!」
男が大声を張り上げて警報装置をオンにするや、漆黒を抱いていたダム付近でサーチライトが灯った。
陽炎伍型もあれば、装甲車両もいる。軍用トラックもとまっていた。ある機体は武器を抜いてカメラアイに光を灯し、ある機体はドラムマガジンを備えた分隊支援火器を抱えて片膝をついた。装甲車両が持ち場につかんと走り始めて、戦闘ヘリが脅威に立ち向かうべくエンジンを回転し始めていた。
「敵の方角は!?」
「敵勢力の数はどうした!」
「どこにいるんだ!」
状況は混乱を極めていた。ダムから程近い地点にある工場地帯に展開中の小隊からの連絡が途絶えたかと思えば、無数の銃声が飛び交ってきたのだ。完全なる奇襲だった。まさか上空からの投入部隊であるなどとは思わず、まさか裏切りものが出たのかと懐疑に駆られる構成員もいた。
飯田は丘の稜線に機体を隠すべく匍匐前進で接近していた。バトルライフルのモードをフルオートに切り替える。
『無線通信封鎖解除。敵周波数帯の想定範囲に対する電子攻撃を開始する。02、安部装備はどうか』
無線に反応があった。安部のオハンが盾を構え、地面をズシンズシンと踏み鳴らしながら前進してきていた。さながら相手に見つけてくださいと言わんばかりに。
『敵は固まっているようですね。対戦車ヘリが厄介だ』
『お任せを』
銃身を土に埋めた匍匐姿勢をとっていた円月改が、片膝立ちとなり銃身を構えなおした。
『ECM開始。第一目標、敵対空装備伍型、3機』
01こと不如帰の頭部パーツが変形する。望遠レンズが手前側にせり出てくると、アンテナ型パーツが露出する。目に見えて連携力を失い精細を欠いた構成員たちへ、02ことオハンが前に進み出る。
『接近する。支援をお願いします』
オハンのレッグスライダーが白煙を上げた。コンクリートを火花と共に弾き飛ばしながら、巨体が滑らかに前進を開始する。
アサルトライフル弾が矢継ぎ早に放たれるも、大型防盾に阻まれ効力を発揮しない。ロケットランチャーを抱えた兵士達が正面から盾を破らんとするが、盾備え付けの爆発反応装甲が作動し、空中で汚い花火を咲かせるだけだった。
「回り込め! 所詮相手は一機だけだ!」
「俺がい ぐあああっ!?」
盾の防御をかいくぐらんと迂闊な一機が進み出た。次の瞬間胸部を貫かれ地面に転がっていた。
構成員の一人は光学的に強化・補正された暗視装置の中央で閃光を見た。それが敵の狙撃であると悟るよりも早くモニターごと数十m彼方の後方へと肉片となって吹き飛ばされていた。
『
大和田な生まれつきの鋭い視線をさらに研ぎ澄ましてモニターを睨んでいた。特殊な改造を嫌いあえて対応能力の強化と出力強化に重点を置いた円月改が次の目標を捕らえていた。発砲。マズルフラッシュが暗がりに花開く。三連射。対空ミサイルを抱えた敵円月伍型が仰け反って動かなくなった。
『対空ミサイル持ちを破壊。リロード。ちっ、隊長ヘリが来ますぜ!』
大和田の機体がマガジンを銃身を傾ける反動で放り捨てると、新しいマガジンを差し込みながら立ち上がった。
サーチライトを抱えた対戦車ヘリが離陸していた。レヴァンテインという兵器の普及によって超高速で移動できるでもなく、ミサイルへの有効的な備えを持たない対戦車ヘリは役割を奪われつつあったが、それでもレヴァンテインの死角となる上方からのトップアタックを繰り出し障害物をものともしない飛行能力を備えているために、十分な脅威として働くのだった。
『スモーク散布!』
オハンの肩部スモークディスチャージャーからスモーク弾が角度をつけて放出される。敵戦闘ヘリが有するミリメートルレーダーの目は不如帰が封じているとはいえ、赤外線探知からは逃れられない。あくまで敵の視界を遮る対応策に過ぎなかった。
飯田が命令を下すよりも早くオハンが盾を地面に突き刺しアサルトライフルを握り、円月改が空に照準を向けていた。
『撃ちかたはじめ! 前に出るぞ』
不如帰の肩部大型アンカーガンが作動。匍匐姿勢のまま水平発射されたそれが地面にめり込んだ。次の瞬間不如帰が目にも留まらぬ速度で突進していた。
レバー操作。フットペダルを蹴る。不如帰がアンカーを解除。地面を膝で蹴るや、対戦車ヘリの下方に滑り込み片膝のまま発砲した。戦闘ヘリがくの字に折れ曲がった途端に風船を突いたかのように空中で弾けとんだ。爆発。ローターが独楽のように回転しながらあらぬ方角に飛んでいく。
曳光弾が夜陰を舐める。優美な鋭い放物線を描いて戦闘ヘリに殺到するや、遅れて汚い爆発炎へと変貌させていた。
「敵数は!?」
「十以上と想定! 支援を!」
フルオート射撃。あっという間にワンマグを使い切ったオハンが、盾の隅から相手を伺いながらマガジンを交換する。再射撃。低間隔に設定された
単純なことであるがレヴァンテインも所詮は手足の生えた戦闘車両でしかない。戦車が敵よりも重装甲・大火力の砲を備えた戦車と遭遇した場合、まぐれ当たりを祈るか、側面後方に回り込むか、スコープを覗き込む目を瞑るか以外の選択肢がない。オハンが構える盾と装甲はおよそ現在運用されているレヴァンテインの火器全てに耐えうるように設計されている。正面からの撃ち合いにかけて敵う機体は一部の試作機を除いて存在しなかった。そして側面と後方は精鋭たる二人が守っていた。
砦のように構え、跳ね上がる銃身を盾側面に押さえ込むようにして射撃するオハンに対し、敵は側面からの攻撃に切り替えようとしていた。
『データリンク順調。ドローン、目標追尾中。コンテナの裏に一機』
『03。見えた』
円月改が発砲。コンテナに裏に隠れ機会を伺っていた一機の胸元を吹き飛ばす。
『RPGを持ったやつがいる。距離150』
草むらの影に隠れていた兵士が
『02、撃つ』
オハンがアサルトライフルを下ろすと盾に装着してあったショットガンを握りポンプを操作した。発砲。キャニスター弾が草むらごと歩兵の肉体をズタズタに引き裂き血の花に変えた。
飯田は目標である対空兵器の沈黙を確認すると、通信を繋いだ。
『CP、コウノトリ、こちらウィザード01。対空兵器沈黙。敵勢力予定数を超えるも撃破。残り5機を確認。支援求む。送れ』
遥か遠方。およそ30km離れた上空にF-35の三機編隊が高度を上げつつ接近していた。翼に日本国旗の象徴たる日の丸が冷たく輝いていた。下部ハードポイントにミサイルを搭載している。ステルス性を殺してでも相手を倒すとでも言わんばかりに。
隊長機が増速すると、寮機も増速した。
更に距離を離した山脈の上空には円盤型のレーダードームを背負った航空機が飛翔していた。
『CPからの許可を確認。こちらコウノトリ。データリンク確認。敵数5。ムニン隊、攻撃開始。攻撃開始』
F-35、更に増速。アフターバーナーの青い火が墨色の空を切り裂く。
『ムニンリーダー了解。
三機が一斉に空対地ミサイルを発射。すぐさま転進。超音速に達したミサイルは不如帰からの観測データを元に誘導されていく。各レヴァンテインが搭載しているレーダーが不明物体の接近を感知したときには全てが遅かった。失楽園を名乗るテロリストの機体はロケットモーターを使いきり終端誘導の最終段階に入っていた対地ミサイルの餌食となった。
爆発。ウィザード隊の目の前で爆発が起こった。遅れてミサイルの飛翔音が響き、四方八方にレヴァンテインだったものが散っていく。腰を抜かす兵士もいれば、両手を挙げる兵士、逃げる兵士もいた。
戦場で数少ない生き残った照明が点滅していたが、ややあって、元通りの光線を取り戻した。煤の化粧を纏った巨人が薬きょうを脚部でプレスしながら歩み寄る姿があった。
『こちら日本国日防軍。テロリストに告ぐ。降伏しろ』
飯田の声が戦場に響き渡った。ヘリは撃墜、レヴァンテインはことごとく大破。もはや逃げる道などない兵士たちへ、ばかばかしいサイズの砲が向けられていた。
不如帰の頭部中央に位置する望遠レンズが甲高く静かな嘶きを上げる。周囲を警戒していたドローンが機体にまとわり付く様は、もはや悪魔のようだった。
『ウィザードより、CP。制圧完了。支援部隊の到着を乞う』
飯田は言うと額の汗を拭った。
戦慄のレヴァンテイン/ほととぎすは眠らない 月下ゆずりは @haruto-k
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