その続き


『続いてのニュースは先週5月15日、教師が生徒数名を鉈で殺傷した事件についてですが.....』


テレビのニュースから先週起こった事件の内容が流れはじめ、ソファに座ってスマホをいじっていた美咲は顔をしかめた。


「美咲〜。そのニュースつまんないから他のチャンネルにして〜」


ソファの後ろの食卓に座り、二週間後に控えたテスト問題を広げながら美咲の姉、美里はそう言った。


美咲と美里は一卵性双生児だ。

そのため外見も行動もよく似ており、色違いのリボンを付けないとどっちがどっちか分からなくなることがある。


ちなみに見分ける方法は、美咲が右利きで青のリボン、美里が左利きで赤のリボンを付けていることである。


美咲がソファから身を乗り出して、「も〜、そう言ってテスト勉強サボろうとしてるでしょ〜。」と言うと


「ばれたか...」美里は苦笑混じりに "赤色のシャーペンを左手で"握った。


「そういえば、勉強で思い出した。明後日、日向くん家で勉強会するんだけど、美咲も来る?」


私は「いいの!?行きたい!」とソファからさらに身を乗り出して言った。


「ハイハイ、美咲ならそう言うと思ったわよ。」と美里は満面の笑顔で答え、再び問題用紙に目を落とした。


私はこうしちゃいられん、とソファから立ち上がり自室に向かった。

そしてクローゼットを開け、かかっている服の中でいくつか可愛いのを取り出し、ベッドの上に並べた。



二日後



『おじゃましま〜す!』美咲と美里は"日向 遼"の家の玄関でそう発した。


「おう。狭い所だけどゆっくりしていけよ。」


「失礼します〜!」と二人は全く同じ角度で会釈をし、中に入った。


「じゃあ早速やるか。」と遼は鞄からテスト範囲のプリントと教材を取り出した。


※※※※※※※※※※※※※


「えーっと、ここの方程式はどう解くんだっけ?」と遼が言うと、


美咲が「ここの〇〇が△△になって、」

美里が「んでその△△がXXになる。あとはもう分かるでしょ?」と二人は息ぴったりに答えた。


「流石、美里と美咲だ。めっちゃ頭いいな。」と遼が褒めると、美咲は右手、美里は左手で「えへ」と自分の頬をかく。


「じゃあ2時間ぐらいたったし、なんかゲームでもして気分転換するか!」


遼がそう言い「うーん」と伸びをした後、美咲はスマホを持って横に行き、

「遼くんって〈End〉って脱出ゲーム、やってるよね?あのさ、私ここの謎解きが分かんないんだけどさ〜...」


「あぁ、ここは超楽勝だぜ。ここを...こうして...こう。」


スマホ画面の中で9枚の石板が動き道が開く。


「わぁ!やっと進んだ!遼くんありがとう!」


美咲は満面の笑みで自分の席に戻る。


横から美里が「近すぎじゃない?」と耳打ちしてきたので私は「そうかなぁ?」と曖昧に返事をした。


なんで曖昧に返事をしたのか?

何を隠そう、私は遼くんのことが好きなのだ。


遼くんと私たち二人は小さい時からの幼馴染なのだ。


私、美咲は遼くんと過ごすそんな中、遼くんにだんだんと惹かれていき...


あぁ、もう言わなくていいや。


まぁ、とにかく私はそういう恋愛相談を美里やインターネットなどに聞いているため、相手の気の引き方をある程度マスターしたのだ。


本音を言うとこういうのを知り尽くした自分が怖い。


遼はふと、

「そうだ二人共。さっきスーパーに行った時プリン買ったんだけど、食べる?」


二人は『いいの!?』とまったく同じ動きで振り向いた。


遼は「おう」と冷蔵庫からプリンを三つ取り出し、二人に渡した。


美咲は何口か食べ、「美味しいね!」と遼に問うと「そうだな、お前達と食うプリンは格別にうまいよ」と言い、満面の笑みでプリンを頬張った。


美咲は3人で居るこの時間が昔から大好きだったのだ。


しかし、その大好きだった時間はもう、美咲の手の届かないモノとなってしまうの事をこの3人はまだ知らない。



※※※※※※※※※※



美咲はその日の夕方、母におつかいを頼まれて市場にいた。


途中本屋に立ち寄り、目的の本を購入し店を出ると、人ごみの中に見覚えのある姿、遼くんがいた。


美咲は声をかけようと駆け出した時に、遼が隣にいる誰かと話しながら歩いていることに気付いた。


美咲は「誰だろう...」とその姿を確認し、硬直した。



遼くんの隣に居たのは、美里だった。



二人は楽しそうに笑顔で市場を歩いている。


まさか。美咲はそう思いながら後をこっそりとついていった。


二人は市場をうろつくと、やがてゲームセンターへと入っていった。


さらにその後を追うと、プリクラコーナーに入っていくのが見えた。


しばらくすると、カーテンの中から

カシャッというカメラのシャッター音が聞こえてきた。


美咲は中が気になり、カーテンの隙間からマナー違反だが、遠目で覗いた所で、




美咲は見てしまった。



二人がカメラのシャッターがきられる前に




二人が互いの唇を重ね合わせている所を





「え....」


美咲はその場で固まった。


だんだんと心臓の鼓動が速くなっていき、息が荒々しくなってくる。


本当はその場に座り込むほど、足の力が抜けていたが、美咲はそんな事を忘れ、ゲームセンターを飛び出した。




私はとにかく走った。



途中、通行人にぶつかって何か言われたりしたがすべて無視し、私は走り続けた。



気がつけば私たち3人がよく遊んでいた公園にいた。


汗か涙かわからないものが頬をつたう


私はこの時思った。


私はなぜ悲しいと思うのだろう?


なぜ私はこんなにも怒っているのだろう?


二人だけで居たのに嫉妬したから?


姉が私より先に彼氏ができたから?


その相手が遼くんだったから?



私は何がしたかったのだろう。



遼くんともし付き合っていたら...


姉に自慢したかった?


二人で漫画とかにあるデートをしたかった?


彼と笑いあいたかった?


このままずっと付き合って結婚したかった?



ハハ...なに考えてるんだろ...私...



「人はこれを俗に"絶望"という、違う?」


突然背後からそう言われ、美咲はおそるおそる振り向いた。


あなたは...誰...?


「さぁ。僕はただの"警告"だよ。たしか前は...タクミ?とか呼ばれてた気がしてた。まぁ、その呼んでいた人はこの前消えたんだけどね。僕の警告を無視したから。

ニュース?とかそういうやつでは"事件"として取り扱っていたけどね」


え...まさか...それって...


美咲の頭に前にテレビで流れていたあの事件が思い浮かんだ。


「彼女は僕の警告を信じなかった。むしろお酒でも飲んで酔っ払ったの?とか言ってきた。

なんで彼女は僕の事を無視したのかな?

いつもの日常を破壊されたくなかった、またはそれが壊れるのを信じたくなかったのかな?

まぁ、彼女が僕を無視した所で災難が降りかかるのは彼女自身だったけどね。

彼女はなにをしたかったのかな?

そこまでして何かを認めたくなかったのかな?」


さぁ...私にはわからないわよ...


「君はそうやって涙を流しているけど、一体君はなにがしたいのかな?

泣いてたってこの世の中は何も変わらないよ?変えるには何かをしなくちゃダメなんだよ。さぁ、一体君は何がしたいの?」




私は...わたしは...





※※※※※※※※※



「ただいま〜、ごめん遅くなった〜」


美里が自宅のドアを潜り、リビングへ行くとそこには美咲が土足で立っていた。


「美咲!何してるの!?土足じゃない!はやく脱ぎなさいよ!」


「………」


「ねぇ!美咲!?ちょっと聞いてる!?」



「 」



「え...?ちょっといまなんて...」


と、美咲は急に頭をおさえながら駆け出すと、自宅を飛び出していった。



それ以降、彼女は帰ってこなかった。



※※※※※※※※※※※



「美咲がいなくなって六日か...」


ある日の午後、とある喫茶店に遼と美里の二人はいた。


「うん。最初は友達の家にでも泊まりにいったのかな〜って思っていたけど三日たっても帰ってこなかったの...

いまも警察の捜索が続いてるけど、時間の問題かな...」


「そうか...見つかるといいな...」


「うん、そうだね。遼くん」


すると、遼が「そうだ」と何かを思い出し、鞄からプリントを取り出した。


「学校の課題なんだけど、分かんない所があってさ、教えてくれよ」


「うん、いいよ。」


美里は筆箱の中から"青色"のペンを取り出した。


「え〜っと、ここの方程式は...」


「あれ?美里、お前って右利きだったっけ?」



「ハハハ何言ってるの遼くん?

私ってもとから右利きだよ?」



「そうだったっけ?まぁ、いいや。続きを教えてくれ」


「オーケー、遼くん!」




三人の思い出は、ずっと




これからも







【完?】

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終わり フクSAN @fukusan

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