最終話 fireworksおわり
お城の大広場はヴィランの見本市のようになっていた。
下位のヴィランはほぼ全種類、メガ級は親玉の他に、獣型、ナイトタイプ、メガ・ファントムが数体ずつ。
ヴィランを倒せば、必殺技に必要な『エナジー』を回復できる。
相手の数が多いので、範囲攻撃が可能な必殺技を使って敵をまとめて倒しつつ『エナジー』を回復させる作戦を取った。
メガ級の放つ巨体を活かした直接攻撃、魔法弾、大旋風をかいくぐり、必殺技を使うために、三月ウサギに変身したシェインはひしめくヴィラン達の頭上をポーンポーンと跳ねまわり、モーツァルトに変身したタオは魔法杖を指揮棒のように高くあげてゴポリゴポリと地の底から湧き出す死の音階でヴィラン達を包み込んで、オーベロンに変身した僕は大剣に輝く惑星のようなエネルギー体を作り出して地面へ反射させ装甲の硬そうなヴィラン達から優先的に消し潰していった。
倉餅餡子に変身したレイナは必殺技を使わずに、あっちこっちへ慌ただしく移動しながら打ち漏らしを確実に仕留めていく。
残っているのは親玉のメガ・ハーピーの他に、メガ・ファントム、魔術師職、弓職など遠距離攻撃が得意なヴィラン達。
奥の方へ陣取っていたその一部を、同じく奥から援護射撃をしていたロキが接近して、至近距離で真正面から「ピィィン! ピィィン!」と射抜いていく。
メガ・ハーピーは城壁正門近くへいるロキの方へ進んでいった。
シェインとタオの支援攻撃に助けられながら、僕は背後からメガ・ハーピーに近づいていく。
が、メガ・ハーピーは突然こちらに振り向いて大旋風を巻き起こした。
世界がぐるぐると回り、どこにいったか分からない地面に激しく叩きつけられる。
立ち上がった瞬間二陣目が飛んできてまた吹き飛ばされる。
まずい。このままでは動く間もなくなぶられる。
転がるようにしてレーンを変えると、そこにはメガ・ファントムの姿が。
逃げ場が……、ない?
「トリック・ペイン・スコール」
メガ・ファントム、メガ・ハーピーのその向こう。
ロキは城壁正門前から彼の近くに散在している最後のヴィラン集団へ一本の矢を放つ。
城壁正門を背に、メガ・ハーピーを前にして、ロキは自信に満ちた笑みを浮かべ天へ向けて弓を構えた。
青と白のコントラストを持つ美しい水晶弓。
矢はつがえられていない。
「これは今日だけの特別製です。トリック・ペイン・スコール・スペシャル!」
「ピィィン!」とロキが誇らしげに弓を鳴らすと、
「ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン」
メガ・ハーピーの足元から矢が何本も真上に突き進む。
「地面から吹き出す矢がメガ・ハーピーをどんどん高くへ打ち上げていく!」
「さあ、きれいに咲いて下さい」
「ダ――――ン!」
澄んだ青空へと十分に持ち上がったメガ・ハーピーの体から、赤い光が球状に膨張して大輪を描いた。
同時に腹まで震わす轟音が鳴り響いた。
「花火だー!」
真っ先に喜んだのは、小さい僕。
「うわあ!」「大きい!」「きれ――い!」「すっげえ!」
「本日最後のメニュー。お集まり協力して下さった皆さまへのプレゼントです。まだまだ咲かせますよ!」
「ダ――――ン! ダ――――ン! ダ――――ン!」
お城の空には赤、黄、青、緑など幾つもの花火が広がっては消えていく。
僕達はコネクトを解除し、ロキ以外は大階段前に集合して花火を見上げていた。
無心で眺めていると疲れが飛んでいくみたいだ。
誰もかれもが全てを忘れるかのように、その瞬間に心を奪われる。
それはきっと次への活力になるはずだ。
このロキは、ファムもだろうけど、本当にやりがいを持って手品師を続けているんだろうな、と思った。
「たまやー」
タオが笑顔でおかしな掛け声をかけると、
「かぎやー」
シェインがおすまし顔で別の掛け声を返した。
「何、それ?」
レイナは可笑しそうな顔をする。
「俺達の故郷では花火が上がったらこう言うんだよ」
「面白そうね。エクス、私達もやりましょ」
「ダ――――ン! ダ――――ン!」
「タマヤー!」
レイナってば結構気合入れてきたね。僕も応えないと。
「カギヤー!」
ファムと小さい僕は二人で横並びになっている。
ファムが視線を
「変な風習だね? エクスくん。たまや~」
「……。か、かぎや~」
小さい僕は少し恥ずかしそうに、でも小さな体をファムの方に擦り寄せて彼女の掛け声に応えた。
「ご観覧頂きまして誠にありがとうございました。クフフ、またの開演をどうぞお楽しみに~」
花火をやるのは王様にも内緒だったみたいで、『火の粉が舞う』だの『うるさい』だの小言を言われてしまったけど、特にけが人もなく見物客は無事に帰って、お城は静かになった。
僕達は最後の仕事をする為に、ロキ、ファム、小さい僕と一緒にお城の大広場に残っている。
陽が沈みかけて、四方を囲う城壁が赤く染められていた。
「ありがとう、ロキ、ファム、小さい僕。みんながいたからカオステラーまで辿りつけたし、最後は、ロキが助けてくれなかったらちょっと危なかったよ」
「お疲れ~。良かったらまた遊びに来てね。多分私はいつ会ってもこんな感じだから、ニシシ」
「本当、安定の不愉快さだわ! いつかギャフンと言わせてやる!」
「ちびエクスさん。『手品メモ』の最後を開いてみて下さい」
「何だよ? ペラペラ。あれ? 何かかいてある?」
「シェインのコインマジックレシピです。その通りにやればお茶の子さいさいです」
「よけいなことするなよ! つぎはもっとびっくりするやつ見せてやるからな!」
「楽しみにしてます♪」
「小さい僕。今は非力かも知れないけど、悔しさをバネに練習すればきっと強くなれるから。それに自分の弱さを知ることもいい経験だよ」
「言うことがじみ」
「がふぁ!」
「でも、弓と手品のあいだに、すこしならぼくとうのすぶりをしてやってもいいよ」
「そう、ありがとう」
小さい僕はツンツンした顔で照れくさそうにしている。
みんなのやり取りに顔をほころばせていたロキは、少し歩み出て僕の正面に立った。
口元に笑みを残したまま、目が思慮深い色に変わる。
「大きいエクス君。あなたが言う『もう一人の私』についてですが」
「はい?」
「それが『私』であるなら、大事な人の魂を救済したいと願うでしょう。手段を間違え、道を踏み外すこともありますが。もう一度『もう一人の私』の声に耳を傾けてみて下さい。あなたの『迷い』の正体はそこに眠っていると思います。けれどどうか飲み込まれることのないように。答えは、あなた自身が見つけなければいけないのでしょうから、ね」
「分かった」
(僕は、心のどこかでロキと向かい合うことを怖れていたのかもしれない。このロキはそれを見抜いていた。ロキ、次にあったら……)
「じゃあ、調律をはじめるわよ」
敵の親玉であるカオステラーは、物理的に倒しただけでは完全ではない。
レイナの持つ神がかった力によって、想区を律するカオステラーという歪んだ形をストーリーテラーという正しい形へ組み換え直すことで事態は収束される。
その力は『調律』。
ゆえにレイナは『調律の巫女』。
レイナが術式の文言を唱えると、光がレイナを包んで、やがてそれは想区全体に広がって、森も海もお城も人も記憶も、想区にある全ての存在を本来の形へと再構成していく。
これで『なれの果てのシンデレラの想区』は完全に調律された。
目的を終えて、僕達はこの想区を旅立たった。
白く霞む『沈黙の霧』の中。
上も下もない霧につつまれた空間を、僕達四人は手をつないで進んでいく。
「ロキとファム。また彼らの手品を見に行きたいな」
「カオステラーが現れたらね。私達にはそれが最優先よ」
レイナはシビアだ。
「くーっ! やっぱ兄弟仁義ってのはいいもんだなぁ! え? シェイン?」
「マジうぜぇです。あまり浮かれると虹色のタオ兄に変えてやりますよ?」
「何だその俺、かっこいい!」
「できるならシェインもレインボータオ兄を希望です」
「それはスタイリッシュね。さ、次のカオステラーを退治しに行きましょう」
「またね、小さい僕」
僕達はカオステラーに襲われている次の想区を目指して、先の見えない霧の奥へ進んでいった。
奇術師は誇らしげに弓を鳴らす 水辺無音 @muon09
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