最終話 fireworks①
「さあさあ、これからお城の大広場で『ロキ&ファム』の手品が始まるよ~! みんな見に来てね~!」
「噂の兄妹奇術師だ!」「面白いらしいよ!」「でも『運命の書』にはこんな予定なかったけど?」「本筋じゃないんだろ、よくあるさ。いいから見に行こうぜ!」
いつもの青い魔女コスチュームに身を包んだファムが元気よく熱心に呼び掛けると、城下町の人々は興味津津に反応を示した。――――――
あの後、僕達は一旦『マフィ夫婦』のいる町まで戻って子供たちを教会に預け、今度は南西に少し進んで城下町へ足を踏み入れた。
そしてすぐにお城へ向かってお役人伝えで王様にお願いした。
『お城の大広場を使って手品をさせて下さい』
『怪物がやってくるかも知れませんが、見物客は避難させて我々が退治します』
経緯を伝えると許可が下りて、支援も約束された。
あとはどれだけ人を集められるかだ。
僕達は城下町のお茶屋さんで少し休んでから、開演までの間にお城近くの
今まさにその最中なんだ。
「チラシで~す。どうぞ~♪」
「シェイン、ロキ・ファミリーに移籍ってこたぁねえよな?」
何かシェインがノリノリですれ違う人達へチラシを渡している。
「右手のチラシが、左手に移ります」
「今のはもちかえただけだろ!?」
「おや、バレましたか? ささ、ちびエクスさんも張り切ってチラシを配るのです♪」
「分かってるよ! 『ロキ&ファム』の手品をよろしくー! もうすぐはじまるよー!」
ここは城下町の中心部。
道路は平らな灰白色の石を使いきれいに舗装されていて、通りに面した建物の窓や屋根には芸術的な意匠が込められているみたいだ。
空はまだ青い。
「すごいわね! 王様の家来達も
「うん。これで人が集まってカオステラーをおびき出せれば、最後の決戦だ!」
小さい僕がもたらした敵のお話、『つぎは人のあつまるところをみんなでおそう』。
ロキが考えたのは、お城の大広場に見物客を大勢集め、そこに敵の親玉、つまりカオステラーをおびき寄せるというものだった。
僕達は
立派なお城だね。
お城の外周は荘厳な城壁で高く囲われていて、正面入り口にある分厚い木の扉は開かれている。
城壁正門の先が式典や催し物が行われる大広場だ。
小さな公園なら十くらいは収まりそうな広い敷地には全て丁寧に平石が敷かれていた。
空色に塗られた円錐型の屋根を幾つも浮かべたメルヘンなお城は、大広場を手前に抱えるようにして堂々とそびえている。
城壁正門から大広場をまっすぐに進むと、やがてお城へ上がる大階段にたどり着く。
でも大階段の両脇にも大広場と地続きでお城へ出入りできる大きな通用口があるんだ。
手品組と別行動を取っていたレイナ、タオ、シェイン、僕の四人はその通用口の物陰から、そっと大広場の方を覗いていた。
開演時間が近付くにつれて見物客が大勢集まってきたみたいだ。
「ワイワイ、ガヤガヤ」
「人がゴミのようD……」
「言わせませんよ、姉御。でも本当に沢山集まりましたね。あれ、みんなチョイ役じゃないですか?」
「そういう奴らがいっぱい集まって物語を陰から支えてるんだぜ。中には主役になりたがってる奴もいるかも知れねえけどよ!」
「それ、タオのことだね。あのロキとファムならきっとやってくれるはず。僕達も準備しよう」
「みなさまお待たせいたしましたー! 只今よりイリュージョンを始めま~す! 体を張るのは男の仕事! 兄貴が鎖に縛られた状態で爆発する木箱から抜け出しまーす!」
大広場でロキとファムの手品開幕が告げられた。
演者は大階段のやや前方に陣取り、見物客は距離をおいて三方を囲むという形。
進行役のファムは大きな木箱の上に立って、高い位置から大声を張り上げている。
その左横には大人二、三人は入れるくらいの頑丈そうな木箱がドシリと置かれていた。
そちらの方は夜空をモチーフにしたらしく、薄紫色の下地に三日月や大小様々な星型がレモン色で可愛らしく描かれていた。
ロキが入ったまま爆発するというのは、あっちの夜空をモチーフにした木箱の方だろう。
僕達は『立ってるだけで絵になるから』という理由で、妖精王オーベロン(僕)、茶屋の
……というか、多分そんな風に見えてるんじゃないかな。
「大変だ―! 怪物が襲ってきたぞー!」「怪物が出たわよ――!」
来た!
城壁正門近くの見物客が異変を知らせてくれた。
「早っ!? 兄貴は木箱の中なんだけど。まあいいや。エクスくん、みんなをお城に誘導するよ。戦うまでが私達の戦い!」
「うん!」
「そ~れ、みんな羽ばたけ~!」
足台にしていた木箱の蓋をファムが思い切り引き上げると、
「「「「バサバサバサッ」」」」
木箱の中から十羽近い白い鳩が一斉に勢いよく飛び立った。
城壁正門からは陸戦ヴィラン部隊が、城壁の上からは空戦ヴィラン部隊が僕達の方へと迫ってくる。
鳩たちはそれらの前で激しく動き回り、進行を遅らせた。
「クルルル~。ハト、ハト」「ジャマ、ジャマ」
見物客たちは大階段から城壁正門までの道を空けてくれて、僕達はそこを外側に進んでヴィラン達の足止めに加わる。
その隙に、大階段横にある二つの通用口からお城の内部へと見物客に避難してもらう計画だった。
誘導係を任されたのはファムと小さい僕だ。
「みんなー! てきが入口にいるうちに、おしろの中へにげるんだー!」
「手はず通りね」「急ぎましょ」「順番に、順番に」「坊や、頑張って偉いわね」
「ぼうやじゃないってば、もう! みんな、おしろへー! おしろへー!」
城壁のすぐ内側で防戦しつつ後ろを振り返ると、誘導係の熱意と見物客の規律正しさの賜物か、避難は順調に終わろうとしていた。
前線にいた僕達四人は大広場へヴィラン達を誘い込むようにして徐々に後退し、元いた大階段手前まで戻って、ファム、小さい僕、ロキ(夜空をモチーフにした木箱の中)と合流した。
「全員お城に入れたみたいだよ!」
木箱の上に乗って注意深く鳩の方へ気を配るファムに任務終了を伝える。
「承知。さあ戻っておいでー」
「「「「バサバサバサッ」」」」
ファムが両手を高く伸ばすと鳩たちは一斉にワーッと帰ってきて、ファムの両肩や茶色い木箱の上に収まった。
「来たわ! あのメガ・ハーピーがカオステラーよ!」
ブギー、ゴースト、ナイト、ウイング、メガ級に混じって、城壁正門から悠然と前進する一体を、和装で眼鏡をかけた倉餅餡子の姿を借りてレイナが指さした。
メガ・ハーピー。
人と鳥が合わさった大人の三倍はある巨大な怪物で、両手の代わりに大きな翼を持ち、両足には鳥と同じ爪を付けて強力な武器として使う。
必殺技は翼を使った大旋風と足の爪で獲物をかみ砕くような下降キックだ。
性別は全て女性で、凹凸の激しいボディラインを隠さない野性的な服装の上、両目を細い布で覆っているので、何とも背徳的な色気を漂わせている。
親玉に遠慮してか、ヴィラン達の攻勢は中断していた。
僕達四人はファムと小さい僕を背にしてヴィラン達と対峙する。
メガ・ハーピーは周りのヴィランに怖れられつつ、ほとんどヴィランしかいない大広場を怪訝そうに左右見渡しながら、こちらへ向かって宙をゆっくり進んできた。
「何ダ、コレハ? 人ガ捕マランゾ! ン、メルヘン ナ木箱ナド飾リヤガッテ。忌々シイハ! クッソタレガ! コウシテクレル! ガシャーン!!」
絡みグセの悪い女性のような声を発するメガ・ハーピーは、八つ当たり気味に夜空をモチーフにした木箱へ下降キックをくらわせ、蹴り潰した。
「あっ、その木箱には兄貴と大量の爆薬が……」
後ろからファムの心配そうな声が聞こえたかと思うと。
ドッカ――――――――ン!!
「ば、ばくはつしちゃった!? ロキは!?」
熱い爆風に耐えながら、小さい僕が慌てふためく。
すると、もうもうと立ち上る噴煙の底から青い人影が「ゴロゴロゴロッ」とすごい速さで地べたを転がり回って、その勢いで一気に大階段の五、六段目まで回転し続け、そこでピタッと止まった。
「はっはっはっはっは! 我は不死身なり――――! ゲホゲホ」
「ロキ――!」
お城の正面に位置する大階段の段上で、右手に持った水晶弓を高く掲げその先の空を仰ぎ見るようにポーズを決めるロキへ、小さい僕は嬉しそうに声援を送った。
「ロキだ!」「イリュージョンよ!」「怪物に爆発させる仕掛けだったのね! すごいわ!」「その割には煙出してちょっと焦げてないか?」
「見物の人たちが!? お城の窓やバルコニーから見てくれてる!」
「あちゃー。私の合図で爆発させる予定だったのに」
ロキは少し焦げ目がついて乱れた青い髪を手ぐしで整えながら、メガ・ハーピーの前に歩み寄った。
「随分とお美しい親分さんですね? 一応尋ねてあげましょう。何故こんなことを?」
「金儲ケシテ大海賊ニナルタメダ。餓鬼ヲサラッテモ誰モ買ワナイ。大人ヲ狙エバコノ様ダ。何トイウ退屈デ平和ナ想区!」
「我々といれば退屈はさせませんよ? 但し、子供たちとその家族を心配させた罪は、トリックや幻だけでは済ませませんがね」
どうやら海賊が欲をこじらせてカオステラーにとり憑かれ、派手に暴れ回っていたらしい。
「あなたに救済できますか?」
ロキが戦闘開始の口上を述べた。
最終決戦の始まりだ。
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