それがどんな答えでも

「ちょっと有里依、聞いてちょうだい」


「さくら、どうしたの朝から…」


朝、登校するとさくらが私の席でスタンバイしていた。

何事だろう。


「実はさっき悟にね『今度図書館以外の場所に行こう。どこか行きたいとこ考えといて』って言われたのよ」


「へえ、良かったじゃん」


ていうかそんなに毎回図書館行ってたんだ…。

そっちの方が驚きだよ。


「でね、この場合私はどこに行きたいと言えばいいのかしら」


「私が知ってると思う?」


「だよねーっ。有里依に聞くのは間違ってるとは思ってたんだけどさあ」


なら聞くな。

彼氏どころかまともに恋愛したことのない私がデートスポットなんぞ知っているわけがない。

それでも…そうだな、私が行きたいところでいいのなら答えられるかな。


「私が行きたいところでもいい?」


「うんうん、お願い!」


「私だったら海が良いなあ、もしくは川」


「…この時期に?」


「たしかにちょっと時期外れかも」


「有里依は水場好きよね。しょうがない、あ、沙斗子!ちょっといい?」


さくらが呆れたようにため息をつく。

そこに沙斗子が登校してきた。

田無君とデートしてる沙斗子ならなにかいい場所を知っているかもしれない。


「おはよう、さくらちゃん、有里依ちゃん。どうしたの?」


「いやー実はさー…」


さくらが事情を沙斗子に説明する。

沙斗子はうんうんと頷きながら聞いている。

これはいい答えが期待できそうだ。


「んー、それは別にさくらちゃんが行きたいところを言えばいいと思うけど?」


「そうなんだけどねー、なんにも思いつかないのよ」


「なら駅前のショッピングセンターは?」


「悟が買いものとかに興味あると思う?」


「じゃあ遊園地」


「あ、それデートっぽい」


「もしくは映画とか」


「それもありだね!」


さすが沙斗子。ちゃんと真っ当な答えを出してくれる。

ていうかそれはもしかしなくても沙斗子が田無君と出かけた場所では…?

もういっそのことダブルデートとかしちゃえばいいのに。

…私のことは気にしなくていいからさ…。


「沙斗子ありがと!遊園地か映画の方向で考えてみるよ」


「どういたしまして。さくらちゃんと追瀬君が楽しめるならどこでもいいと思うよ」


「…ほら、そうするとまた図書館になっちゃうからさ」


「そんなにしょっちゅう一緒に図書館行ってるの?」


「有里依…2週間に1度は出かけて100パーセント図書館に行ってるよ」


「仲良くていいじゃん」


「そんな微妙な慰めはいいからさ」


あははとさくらが力なく笑った。

そうか、そんなにしょっちゅう2人で出かけてたのか。

仲良くていいことじゃないか。

毎回図書館てのはどうかと思わなくもないけど。


そこで予鈴が鳴り担任が教室へ入ってくる。

さくらと沙斗子は自席に戻っていった。



放課後、調理室でいつもどおりさくらと料理に励む。

今日のメニューは雑炊だ。

なぜに雑炊…?理由はわからないが決まったもんは決まったので大人しく雑炊を作る。

具材は鮭と大根、人参、葱を細かく刻んだものだ。

お米を研いで炊きつつ、野菜を刻む。

鮭はさくらが焼いている途中だ。


「そういや、さくら。追瀬君にデートの場所の話したの?」


「うん、したよ」


「どうなった?」


「遊園地になった。悟、遊園地行ったことないんだってさ」


「そうなんだ?珍しいね」


そう言えば追瀬君の家って両親共働きって言ってたっけ。

だからなのかな。


「ね、だから遊園地行ってみたかったんだって」


「ちょうど良かったじゃん。楽しんでおいでよ」


「うん!あ、鮭こんなもんでどうかな」


「良いんじゃない?粗熱とってほぐそう」


「ご飯は?」


「あと10分くらいで炊けるよ」


刻んだ野菜を私とさくらの土鍋にそれぞれ入れる。

さくらは鮭をまな板に乗せてほぐす作業に取り掛かっている。

鮭がいい感じにほぐれたころ、炊飯器がピーッと音を立ててご飯が炊きあがった。


「後は全部混ぜて煮るだけね」


「ご飯もう少し蒸らした方がいいかな」


「そうね、ちょっと待とうか」


ご飯を軽く混ぜて蒸らす。


「遊園地、いつ行くの?」


「今度の土曜日」


「土日は混んでるかもね」


「でも学校休むわけにはいかないからね」


「そうだよね、それが学生のつらいところだ」


「まあ、混んでてもそれなりに楽しんでくるよ!悟、絶叫系大丈夫かなあ」


さくらがくいっと首をかしげる。


「どうだろうね。パッと見大丈夫そうだけどね」


「私絶叫系好きだから乗って回りたいんだよね」


「あー…たしかにさくらはそういうの平気そう」


さくらなら絶叫系ならなんでもいけそうだ。

コースター系からフォール系までなんでもござれ…みたいな。

私も絶叫系は平気だけど、落ちるやつだけはだめだ。

あのお尻がふわっとする感じが怖くて仕方ない。


「ご飯もういいんじゃない?」


「そうだね、じゃあ土鍋に移そうか」


ご飯を土鍋によそって別に沸かしていただし汁をかける。

後は軽く塩を振って煮るだけだ。


ちなみに今日は追瀬君と藤崎君は呼んでいない。

メニューが雑炊だとね…。

しばらくたつといい感じに煮立ってきた。


「もういいかな」


「うん、大丈夫そうだね。火、止めちゃうね」


土鍋を鍋敷きの上に移動してお茶碗を取ってくる。

さて、後は食べるだけだ。


「「いただきます」」


うん、なかなか美味しい。

思ったよりも量があってお腹いっぱいになった。


「じゃ、洗い物して帰ろう」


「そうね。思ったよりも美味しかったわね」


「ねー。やっぱりだし汁使ってたからかな。家で作るときって普通にお湯入れちゃうもんね」


しゃかしゃかと洗って片付ける。

さくらと連れだって駅まで歩いて帰る。


「遊園地デート、楽しいといいね」


「そうね、悟が楽しんでくれたらいいな」


「2人でめいっぱい楽しんでおいでよ」


追瀬君が楽しんでくれることはもちろんだけど、さくらにも楽しんでもらわなきゃ意味がないと思う。

2人のデートが上手くいきますように。

さくらの照れたような笑顔が可愛かった。

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恋に恋するお年ごろっ!! 水谷なっぱ @nappa_fake

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