第23話 入浴は至高の贅沢

 下士官兵以下の地位の人間は、入浴に制限がかけられていた。特殊な条件を満たした者を除いては、3日に一度。そこで、軍港などに整備や寄港で寄ると、常日頃不自由している風呂に「ゆっくり浸かってこい」という、親心から入湯上陸という名の外泊が許可される。(理由は単純で、艦船に積み込める真水の量は、限りがあるため)上等下士官の場合で、その人員の3分の2が、その他の下士官で2分の1が一晩おきに、兵隊だと4分の1が4日に一晩。最下級の兵隊だと、外泊はなく週に一度半舷上陸が許されている。士官クラスも例外はなく、上陸するまでは自由に入浴が出来なかった。現在の海上自衛隊は、海水から風呂を沸かす技術や、コストはかかってしまうが、海水から真水を作り出す技術を確立しているため、そこまでのものではないが、真水の貴重さに変わりはない。この入浴上陸こそ、海軍軍人にとっては唯一無二の外出、外泊の機会であった。喧嘩などはもちろん御法度である。一度問題を起こせば、貴重な外出の機会を失ってしまう事になりかねない。当時は海軍に入れば、飯はうまいし給料は高い。海軍軍人以上の収入を庶民が手に入れるのは、難しい時代であったから、身の危険がある仕事とは言え、庶民には人気のある仕事であった。ましてや、大和のような連合艦隊の旗艦ともなれば、まるで一流ホテルに宿泊したかのような錯覚に陥る豪華な食事が、提供され、当時は珍しかったエアコン完備の快適な艦船であった。その居心地の良さから、ホテル大和と揶揄されていた程である。階級が低いうちは、何かと苦労が絶えないが、それは帝国海軍の専売特許ではない。下っ端の下積み時代は、どんな世界にもある。軍隊の場合は、階級社会で少しばかり分かりやすいというだけの話でしかない。

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ホテル大和~史上最高にして最低の戦艦~ @yamady

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