負の遺産

夏秋冬

負の遺産

 西暦40xx年、41世紀の世界では、資源を無計画に採掘して浪費し、豊かな生活を享受する時代は過去のものとなっていた。化石燃料は枯渇し、太陽光、風力、水力、地熱といった自然エネルギーに頼るのみで、そのエネルギーで支え切れる人口には限りがあった。地球人口は数世紀を経て減少し、10億人ほどとなって安定水準に達した。

 だが文化、科学技術は継承され、エネルギー、食料の争奪を端緒とした戦争も終わり、平和な時代が訪れていた。


 しかし日本国では大きな負の遺産を継承していた。それは原子力発電所から排出された放射性廃棄物である。22世紀に稼働が中止されるまで日本人は原子力発電を使い続けた。その間彼等は繁栄を謳歌したが、21世紀の原子力規制委員会は放射性廃棄物を百万年間管理し続けることを書類に記し、それを子孫に申し渡しただけであった。

 狭い国土に廃棄物を抱え、管理を放棄すれば国土が失われる可能性があり、現役世代には何の過失もない責任が押し付けられたまま大きな国内問題となっていた。


 しかしここに大きな科学技術の革命が起こった。タイムマシンが発明されたのである。科学技術省は歴史を遡って放射性廃棄物の問題を解決することを企図した。


 原子力エネルギーの発見と発明は主に欧米で始まったものである。科学技術省は原子力技術が生まれることを阻止しようと考え、アインシュタインを、オットー・ハーンとリーゼ・マイトナーを、オッペンハイマーを過去に遡って殺害することを検討した。が、他国の歴史に関与するわけにはいかない。そこで彼等は20世紀に遡って日本国内に建造される原子力発電所を建設途上に破壊することで放射性廃棄物が生まれることを阻止しようと考えた。


 国防軍の精鋭がこの任務にあたり過去へと送られた。しかし彼等は間違って21世紀初頭へと辿り着いてしまった。そこで彼らが見たものは、歴史に残る福島原発の事故であり、その惨事を経験してもなお原子力発電を推し進めようとする過去の同胞達の姿だった。

 未来から来た、廃棄物を押しつけられた彼等には21世紀の日本人が狂っているとしか思えなかった。


おしまい

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負の遺産 夏秋冬 @natsuakifuyu

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