第9話

「マーキちゃん。ぎゅーっ」

 家に帰り、動揺する心をなんとか誤魔化そうと本を開くと、いきなり背後から抱きついてきた。

「ちょ……じゃ、邪魔、なんだけど。本、読めないじゃん」

 心臓が今にも口から飛び出そうなほどドキドキしていることに気づかれたくなくて、憎まれ口をたたく。

「マキちゃん冷たぁい。本とワタシとどっちが大事なのよ!」

「……本」

「マジか。まぁ、そうだな。読書は大事だな、うん」

 そう言って大人しく離れるタツヤ。納得しちゃったのかよ。

「…………ウソだよ」

「!?」

 本を閉じて、今度はアタシから抱きつく。

「な、なになに、マキ、どうし――」

「本より、タツヤの方が大事」

 わかりやすくうろたえるタツヤにしがみつくようにして、その耳元に、小さく囁く。

「本より好きだよ――たぁちゃん」


 今はまだ、これだけ言うのが限界。

 ――もうちょっとだけ、待っててね。

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今は、これだけ 津島沙霧 @kr2m

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