第8話

 そしてアタシ達はファミレスに来て、食事を終えようとしているわけだけど。

 食事の間中、アタシの隣に陣取ってるセンパイがキャピキャピかしましくタツヤに向けて話してるだけで、アタシは何一つおもしろくない。

 ――タツヤも、なんかニコニコして聞いてるし。おもしろくない。

「トイレ行くんで、ちょっとどいてくれませんか」

 あからさまにイヤそうな顔をタツヤに見せないようにしながら睨んでくるセンパイを無視して、席を離れるアタシ。

 ……話の腰を折りたかっただけなんだけどね。

 長く二人きりにさせたくなかったし、一旦トイレに入ってすぐ席に戻ろうとした時。

「先生、お願い、私と付き合ってください……」

 聞こえてきた声に、立ち止まった――昨日の今日で、さっきの今だぞ――超展開すぎるだろ。

「あー、それは無理だなぁ。ごめんな」

 思わぬ衝撃に固まっていたアタシを元に戻したのは、あっさりと断るタツヤの声だった。

「な、なんでですか? 私、魅力ないですか? かわいくないですか?」

 慌てて食い下がるセンパイの様子が、ちょっと愉快だった。

「いや、そんなことないと思うぞ?」

「じゃあなんで……」

「教師と生徒だからってのもあるけど、俺、好きな子いるからさ」

 そういうと、胸ポケットからお守りを取り出し、見せるタツヤ。

 あれって確か、アタシの母さんがタツヤに作ったっていう――じゃあ、タツヤが好きなのって――?

 そう思って見ていると、今度はそのお守りの中から小さなビニール袋を取り出した。

「これさ、小さい頃にもらった『けっこんゆびわ』なんだ」

 ――それは、アタシが保育園の時に折り紙で作った指輪だった。

「大きくなったら結婚しようって、約束したんだ。だから、安野とは付き合えない」

「な、なにそれ……そんな、子供の約束……」

「うん、そうだな。もう随分昔の話だし、その子はもう俺のこと好きじゃないかもしれない。

 けど――俺は、まだ好きなんだよね」

 穏やかに微笑みながら、それでもキッパリと言い切ったタツヤに、呆然としているセンパイ。

 アタシも、呆然としている。

 まだ、持っててくれたんだ……約束も、覚えて……。

「……ッ、……私、帰ります」

 そう一言だけ残して、早足で席を離れ店を出ていくセンパイを見送ってから、アタシは席へ戻った。

「おかえり、マキ。安野、帰っちゃったんだけど……俺たちも帰ろうか?」

「……うん、帰ろう」

 家に、帰ろう。

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