第7話

「たっだいまー!」

 今日もいつも通り、まずアタシの部屋に帰ってくるタツヤ。

「おかえり」

「えっ!?」

 めちゃくちゃ驚かれた。

「……ただいまぁ」

 そして、めちゃくちゃいい笑顔を向けられた。なんか、なんだろう、ちょっと悔しいこの感じ。

「すぐ飯作るから待っててな」

 部屋を出ていく背中を見送って、また本に目を落とす。

 朝から一ページも読み進んでいない本に。

 ――と、その時。

 アタシの部屋の呼び鈴が鳴らされた。

「?」

 タツヤが鳴らすはずないし、そもそも戻ってくるのが早すぎる。

 いぶかしみながら玄関を開けると――

「せぇんせ、こんばわぁ♡」

 媚びを含んだ甘ったるい女の声。

「ゲッ……」

「え!? ちょっと、アナタ誰よ!?」

 お互いに驚く、アタシと安野センパイ。

 この女、もしかしてタツヤをつけて来たの?

「矢野先生はどこ? 確かにこの部屋に入ったと思ったのに……」

 遠慮なくアタシの部屋に入り込もうとするセンパイ。

「おい、勝手に入んな!」

 慌てて部屋から押し出して、後ろ手にドアを閉める。

「アナタ、ウチの生徒なのね。一年生、先輩の命令は聞くものよ。先生を出しなさい。いるんでしょ?」

 カーテンレールに掛けられている制服を見たらしいセンパイは、居丈高に言い放った。

「はぁ? 何言ってんの?」

 タツヤがこの部屋に入るとこを見てたのか――そして、隣の部屋に戻るところは見てなかったと。階段、建物の反対側だし。

 よかった、このまま追い払ってしまおう、と思った矢先。

「どうしたんだ?」

 騒ぎを聞きつけて、ひょっこりと顔を出すタツヤ。

 ほんとコイツは……!

「あ、せんせぇ♡」

 態度を豹変させて、甘えた声を出すセンパイ。キモい。

「あれ、安野? なんでここに?」

 アタシとセンパイを交互に見て首を傾げてから、パッと表情を明るくするタツヤ。

「もしかしてお前たち、友達なのか?」

「はぁ!? なんでアタシがこんなヤツと――」

「そう、そうなんです! 私たち、昨日お友達になって~」

 否定しようとしたアタシを制して、とんでもない嘘をつきやがったこの女。

「マジか! そうか、友達できたのか、そうかそうかぁ」

 うぅ……タツヤがなんかすごく嬉しそうで否定しづらい……。

 アタシ、友達とかいたことなかったしなぁ。

「マ……柏が今日学校休んだから、様子見に来たのか?」

「そうなんですよぉ~」

 ニコニコ笑って言うタツヤに、胡散臭い笑顔で答えるセンパイ。これ以上タツヤ喜ばすのやめてよ、罪悪感で死にたくなる。

「なぁ、これから三人でどっか飯にでも行こうぜ。安野、時間は大丈夫?」

「はい、是非! あ、でもぉ、柏ちゃんは今日学校休んだんだし……家にいた方がいいんじゃなぁい?」

 柏ちゃんなんて呼ばれる筋合いはない。チッ。

「別に、ズル休みなんで大丈夫です」

「おーい、教師の前でズル休みってハッキリ言うなよ」

 アタシだって別に言うつもりなんてなかったけど……タツヤとこの女を二人きりになんてさせるものか。

「じゃあ、ちょっとだけ待っててな。シャワー、浴びてくるから」

 さっさと部屋に引っ込むタツヤ。

「アタシも着替えるから」

「え、ちょっ……」

 そして、何か言いたげなセンパイを無視して、アタシもさっさと部屋に引っ込んだ。外で待ってろ。

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