束縛

木亥

束縛

俺は約六年、あらゆる物に束縛され続けてきた。これからも、少なくとも三年は束縛され続ける。 

 今から俺を束縛してきた四つの物について話そう。

 1.学童

 俺が小五の時、親の都合で学童に連れて行かれた。俺の他の子供達は皆、俺より年下だった。俺は、当時は、学校の友達と遊ぶことがほとんど出来なくて、嫌でたまらなかった。俺は小学校を卒業するまで、学童に連れていかれた。 

 今思えば、あの頃の束縛はまだましなものだと感じた。

 2.部活

 中学校の時、俺はバスケ部に入った。入ったきっかけは、友達の誘いだった。俺は当時、運動部的なものに関しては皆無だった。背も低かった。だが、気が付けば、俺は部活に入っていた。 

 練習は当然きつかった。さらに、夏休みは休みがほとんどなかった。そのため、家族でどこかへ行くということも減った。辞めようと思った事も何度もあった。だが、辞めずに三年間続けた。 

 続けられた理由は、当時はわからなかったが、今はわかる。それはなぜか。答えは三つ目の束縛にあった。一つ目と二つ目の束縛を遥かに上回る恐ろしい三つ目の束縛に。

 3.人権侵害

 三つ目の束縛は滑り止めで受かった高校で起こった。 

 その高校は、偏差値が低い故に、学力が低い生徒たちが多かった。さらにはその学校の生徒は、精神的暴力で立場の低い生徒を支配していた。加害者は、大半が学力の低い生徒だった。また、奴らは、学力だけでなく、精神年齢も低かった。 

 俺は、運悪く、その被害者だった。俺は、この学校では学力はいい方だったが、それが逆に馬鹿にされる原因となった。俺は理不尽に馬鹿にされた。色々な事で馬鹿にされた。俺に似たような被害者も三人くらいいた。その三人はいつも一緒にいた。俺はその三人組からだいたい離れていた。なぜなら、彼らと一緒にいた時に彼らが被害に遭うと、俺も、その巻き添えを食らうことがわかっていたからだ。 

 人権的に束縛されたことにより、俺は人格がねじ曲げられ、性格も暗くなり、自己中心的になっていた。俺は、昔はいつもニコニコしていたそうだ。そんな汚れ無き心が、自分だけ助かればいいと思ったり、学力が低いと心の中で人を馬鹿にしたりと、そこまで腐っていくとは、自分でも悲しく感じた。 

 俺は加害者より、被害者にさせた奴を憎んでいる。高校生活が終わった今も、憎しみは消えない。被害者にさせた奴というのは中学校時代に同級生だった奴のことである。あいつは俺の悪いところをばらした。おかげで、加害者達に精神的暴力を受けたり、加害者ではない人達に避けられたりした。友達もいなかった。その時にわかった。俺が三年間、中学の部活を辞めなかった理由が。友達がいたからだ。学童にも友達がいたから学童の頃の束縛もましだと感じた。 

 精神的暴力による支配により、多くの被害者は、不登校になったり、学校を辞めたりしていった。だが、俺は、学校を辞めなかった。俺の唯一の救いである先生のおかげである。また、退学したら、将来、したい事ができないと思ったから学校を辞めなかった。こうして、俺は、人権的束縛による苦痛の三年間に幕を閉じた。だが、俺には、四つ目の束縛が待ち構えていたのだ。 

 4.孤独と空虚

 俺は晴れて行きたい専門学校に進学し、寮生活を始めた。ある日、俺は、ネットを繋げたいということを相談した。だが、親にはあっさりと断られた。理由は、高校時代の家での過ごし方だった。 

 俺は、高校時代、学校でのストレスを発散するために、家ではパソコン漬けの生活が続いた。そのため、パソコンはしばらくの間、寮室に持ち込めなかった。今はパソコンはあるが、ネットに繋いではいない。俺も生活を改善して、スマホ漬けになることは減った。だが、専門学校で生活している間三年間、ずっとネットが使えないのは長すぎる。一年ならまだいいが、三年間ずっとだ。俺は、自作曲、自作動画を投稿したかった。面白い動画が投稿されていて、自分も動画投稿したかったからだ。高校時代で馬鹿にされた分、認めてもらいたかったからだ。俺と共通の趣味を持つ友達もいない。親はそんなに俺を孤独と空虚という閉鎖的な空間に閉じ込めたいのだろうか。閉じ込められれば閉じ込められる分、そして、馬鹿にされた分、承認欲求は抑え切れなくなる。 

 俺が俺らしさを良い意味で発揮したことなど束縛されてから一度もない。俺とは何なのか、考えてみたものの、わからなかった。俺がわからなければ、誰にもわからない。俺は皆無の塊で出来ているのかもしれない。俺のイメージカラーは黒だと最初は思った。だが、透明どころかイメージカラーすらないのかもしれないと感じた。 

 ある日、俺はなにも魚がいない水槽に近づいた。なにもいないと思ったが、石の家にこもっている一匹の大きな黒い魚が隠れていた。その時、彼は、俺と同じ孤独と空虚という閉鎖的な空間に閉じ込められているのだと感じた。彼は、仲間とも会えずに、たった一匹石にこもったまま一生を終える運命にあるのだ。ひょっとしたら俺もこうなるのかもしれないとますます悲しくなった。 

 5.その後

 専門学校生活が終わっても、決して解放されるとは限らない。むしろ、三年後にも必ずすぐ他のものが俺を束縛するのだと思っている。俺は一生、あらゆるものに望まぬ束縛をされて生きていくのだと感じた。 

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