第3話

 ——ああ、またこの夢か。

 目を開いて、そう思った。

 無数の鳥居と、真っ赤な彼岸花と、自分と、狐面の少年。それだけが存在する世界。

 東真はずっと、この夢を見続けている。夏祭りや神社、学校など、別の場所や異なるシチュエーションであったとしても、最終的にはこの無数の鳥居と彼岸花の空間にやって来る。そして、狐面の少年が楽しそうに笑って消えるのだ。

 今日もまた、そうだった。

 狐面の少年が、東真の数メートル先、果ての見えない鳥居と彼岸花の列と薄闇の中で笑っている。楽しそうに、或いは何かを掻き消すように。

『かくれんぼ、しようよ』

 くすくす、くすくすと。無邪気に笑う。かくれんぼ、なんて。この鳥居と彼岸花だけの世界でどうやって隠れると言うのだろう。空も見えないような、閉塞に満ちた世界で。

 何処からか鈴の音が聞こえる。ちりんちりんと、何かを呼ぶような音。それはどこか哀しげに耳に響いた。

『きみが、おにだよ』

 くすくす。笑って、東真の方に指をさして。少年はくるりと背を向けて、遠く遠くへ走り去っていった。待ってくれ。手を伸ばそうとするも、夢であるからか、動かすことが出来なかった。ただ呆然と、薄闇に呑まれて行く少年の後ろ姿を眺めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

葬華 虚月はる @kouduki-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る