第四話 プレイヤーの行動
気が付くと、俺は椅子に座ったままだった。しかし体の疲れは取れていて、何となくスッキリとした気分だった。
ベッドの方を見ると、カイムさんが立っていた。
「俺、一旦寝て、起きた所なんだけど、ファルスの体ってどうなってる?」
そう言うカイムさんも、俺の意識が途切れる直前よりも元気そうに見えた。
「何だか、体がスッキリしています」
俺がそう言うと、カイムさんは足元に木箱を出して言った。
「ファルス、木箱にブロックが有って、1つだけ光ってるって言ってたよな?今光ってるブロックを取り出して、お前の木箱に入れて、もう1回木箱から取り出してみろ」
言っている意味は分からなかったが、俺はカイムさんの言う通りに自分の木箱を出し、カイムさんの木箱から光っているブロックを取り出して、自分の木箱に入れた。そして入れたブロックを木箱から取り出すと、俺の手には皮製の胸当てがあった。そして木箱が消えた。
俺は驚いて言った。
「カイムさん、ブロックが胸当てに変わりました!」
カイムさんは微笑んで言った。
「やっぱりな……ベスト脱いで、胸当て着けてみて」
俺は言われた通りに青いベストを脱いでテーブルの上に置いた後、胸当てを身に着けた。
カイムさんは少し驚いた様に言った。
「グラフィックが変わった……これでただのNPCじゃ無くなったな」
俺は嬉しくなって言った。
「名前も付けてもらった、服装も変わった!もう村人Aじゃ無いんだ!」
するとカイムさんは不思議そうな顔をして言った。
「ここ、町だよな?何でお前は村人になってるんだ?」
そう言えばそうだ。ここは町なのに、何故俺は『村人A』なのだろうか。
カイムさんは少し考えた後、部屋のドアに向かって歩きながら言った。
「まぁ、プログラマーが手を抜いたか、ミスったんだろうな」
俺はカイムさんの後ろに続いて歩きながら聞いた。
「プログラマーって何ですか?」
カイムさんは振り返って言った。
「まぁ、この世界とかお前達とかを作った人だな……あんまり深く考えるな、それよりも武器屋と防具屋に行くぞ」
俺達は宿屋を出た。
「あの、カイムさん、何やってるんですか?」
カイムさんは宿屋の隣にある民家の壁際に置いてある壷を持ち上げ、地面に落とすという行為を何度も続けていた。地面に落とされた壷は「ガチャン」と音を出してから消えた。
カイムさんはその行為を続けながら言った。
「こういう所にアイテムが有ったりするんだよ」
カイムさんはさっき落とした壷の隣にある壷を持ち上げ、また地面に落とした。すると壷が落ちた場所に薬草が現れた。
「な、有っただろ?」
カイムさんはそう言うと、足元に木箱を出して薬草を入れた。薬草は木箱に入れた瞬間にブロックに変わった。
「次、タンスな」
カイムさんはそう言うと、壷を壊し終わった民家のドアを開けて入った。俺も続いて民家に入ると、カイムさんは部屋にあるタンスの引出しを次々と開けて中を調べていた。
俺は慌てて言った。
「何やってるんですか、カイムさん!勝手に他人のタンス開けるなんて!」
カイムさんはタンスの引出しを開けながら言った。
「こういう場所にもアイテムとか金が有ったりするんだよ、ゲームの基本だろ?」
俺は民家の中を見回した。すると成人女性のNPCがうろうろと動き回っていたが、何も言わなかった。
全てのタンスを調べ終わったカイムさんが成人女性のNPCに「もしもし」と言うと、そのNPCは言った。
「勇者様、魔物のせいで外に出られません、助けてください」
そう言い終わると、またNPCはうろうろと動き回り始めた。
カイムさんは俺を見て言った。
「こういうのがNPCだろ?で、壷割ったり、タンス調べたりするのが、このゲームの基本なんだよ……ファルスが居た場所が町の入り口だったから知らなかったんだろうけど」
そう言うと、カイムさんは民家を出た。俺も慌てて民家から出たが、民家に居たNPCに対して罪悪感を抱き「ごめんなさい」と言ってから民家のドアを閉めた。
カイムさんは壷を割り、タンスを調べ、NPCに話し掛けるという行為を繰り返しながら武器屋と防具屋に近付いて行った。俺はカイムさんから少し離れた場所でその光景を見ていた。ここはゲームの世界で、カイムさんの行動はゲームをする上で必要な行為である事は理解したつもりだが、何となく嫌な気分になった。
「とりあえず防具屋に行くぞ」
カイムさんはそう言うと、防具屋のドアを開けて中に入った。俺も慌てて後に続いた。
カイムさんが『防具屋の主人』に「もしもし」と声を掛けると、そのNPCは言った。
「何か買いますか?それとも売りますか?」
カイムさんは「買う」と言った後、虚空を見つめながら言った。
「うーん、全部金額が高いな……ファルスには今の光景はどう見える?」
俺は防具屋を見回してから言った。
「カイムさんは虚空を見つめていて、カウンターに居る防具屋の人は手にメニューを持っています……カウンターの向こう側の壁に色んな防具が並べてあって、それぞれに値段と名前が書かれた紙が貼られています」
カイムさんは腕を組んで少し考えながら、防具屋を見回した。その時に何かに気付いて、俺に言った。
「ファルス、カウンターの横に人が通れるスペースが有るよな?そこからカウンターの中に入って、一番高価な防具を取って来い」
俺の体が一瞬固まった。要するにカイムさんは俺に泥棒をさせる気なのだ。俺は抗議した。
「いくらなんでも、それはマズいでしょ!ちゃんとお金を払って買わないと駄目ですよ!」
カイムさんはまた虚空を見つめながら、俺の声が聞こえていない様に言った。
「鋼の鎧を5個持ってきて、4個を俺の木箱に入れて、1個をファルスの木箱に入れて……重かったら1個ずつ持ってきて良いから」
俺は渋々カウンターの中に入り、鋼の鎧を1個ずつ持って、カイムさんの木箱に入れた。入れた瞬間、鎧はブロックに変わった。それを繰り返し、最後に1個の鎧を自分の木箱に入れてブロックに変えた。
カイムさんは木箱に手を入れて鋼の鎧を取り出すと、一瞬にして装備した。銀色の胸当てはカイムさんの体から紙の様に剥がれ落ち、木箱に入ってブロックに変化した。
カイムさんはまた虚空を見つめながら言った。
「今、他の仲間にも装備させてるから、お前も鎧を装備しろ」
俺は木箱からブロックを取り出して鎧に変えると、一旦床に置いてから皮製の胸当てを外し、鎧を身に着けた。胸当てを木箱に入れるとブロックに変わった。
カイムさんは虚空を見つめながら言った。
「ファルスはパーティーのリストに入ってないから、物の受け渡しはファルス自身が木箱の中身を動かさないと出来ないし、装備もファルス自身でやらないといけないみたいだな……後、手に入れた物は一旦木箱に入れないと所有した事には成らない様だ」
カイムさんは『防具屋の主人』に「もしもし」と声を掛けた。NPCが「何か買いますか?それとも売りますか?」と言うと、カイムさんは「売る」と言ってから木箱から胸当てを取り出してNPCに渡した。すると微かに「チャリン」という金属音がしてから、胸当てが消えた。
カイムさんは隣にある武器屋でも同じ事をした。その武器屋にも最悪な事にカウンターの横に人が通れるスペースが有ったからだ。俺は抗議する事が面倒になり、言われるがまま従った。
カイムさんは笑顔で俺に言った。
「これでこの町で買える高価な装備は全部整ったし、所持金も増えたし、ファルスも全然NPCに見えないし、この装備ならモンスターとも戦えるだろうから、お互いにラッキーだな」
俺は素直に喜ぶ事が出来なかった。
村人Aの俺が勇者と旅立つ事になった 秋葉啓佑 @akibakeisuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。村人Aの俺が勇者と旅立つ事になったの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます