第三話 状態確認と願い

俺はカイムさんに自分が知っている事の全てを話した。

自分はNPCと呼ばれる存在で、気が付いた時に決められた姿で決められた範囲内のみで動く事が出来る。NPCと呼ばれる存在は自分以外にも複数存在しているが、NPC同士で会話をする事も触れ合う事も出来ない。NPCが話を出来るのは『勇者』と呼ばれるプレイヤーのみだが、プレイヤーは「もしもし」「はい」「いいえ」しか言わない。おそらくカイムさんが言っていた『話す』という行為が「もしもし」に該当するのだろう。そしてNPCがプレイヤーに話せる言葉も決められている。

このゲームの世界では『魔王』という存在が居り、『魔王』が世界のあらゆる場所に『魔物』を放ったせいで、住人や各国の王が困っている、という事になっている。

その『魔王』を倒して『魔物』を消滅出来るのはプレイヤーだけであり、NPCはプレイヤーに協力する為に存在する。中にはプレイヤーの仲間になり、指示に従って『魔物』を攻撃するNPCも存在する。

『魔物』は町や城の中には基本的に入ってこない。だからNPCは全く危機を感じていない。しかしプレイヤーに話しかけられた時に『魔王』を恐れている様な言葉を話す。場所によっては『魔物』が町や城に入って来る事があり、その場合、NPCはすぐに殺されるが、その事をその町や城に居るNPCは知っている。それはすでに決められている事だからだ。

NPCである自分が知っている事は、他のNPCも知っているだろうと思われる。

分からない事は、プレイヤーが『魔王』を倒すとゲームはエンディングを迎えるが、その後NPCがどうなるのかという事と、何故NPCであるはずの自分だけが自由に動いてプレイヤーと会話が出来るのかという事だけだ。


ここまでを一気に話すと、俺は疲れた気がした。『疲れる』という意味は知っているが、感じた事は無かった。体が重くなり、何もしたくなくなるという感覚を初めて味わった。それは非常に嬉しい事だった。


俺が話し終わると、今度はカイムさんが話し始めた。

カイムさんは暇つぶしをする為に中古ゲームショップで攻略本と一緒にこのゲームを買った。このゲームはレトロゲームと呼ばれる古いゲームだが、一応多くの人に名は知られているゲームらしい。

プレイヤー名を登録した後にゲームが始まると、この国の王の前に居て、『魔王』の討伐を命じられた。すでに幼馴染の男「ライ」とその姉「メイ」が仲間になっていた。年齢はカイムさんと幼馴染の男が17歳、その姉は18歳らしい。

王からは少しの金と安価な武器・防具が渡された。それを装備して城を出て、城下町で「ソラ」という仲間を得て、町の外で『魔物』を倒して町の宿屋で体力を回復する、という事を何度か続け、レベルと金を増やし、装備品を武器屋と防具屋で新調してからエラメルドの町に来て、そしてこの有り得ない状況に遭遇した、という事だった。


カイムさんは言った。

「とりあえず俺の目標はこのゲームのクリアなんだけど、ファルスはどうする?せっかくだし、何かやりたい事はあるのか?」

俺はずっと前から叶えたかった事をカイムさんに伝えた。

「このゲームのエンディングの後を知りたいです、俺達NPCがどうなるのかを……だから、カイムさんに付いて行っても良いですか?お願いします!このゲームの最後を自分の目で見たいんです!」

カイムさんは楽しそうな顔をして「良いよ」と言った後、俺の体をジロジロと見た。

「俺と仲間になるNPCは装備品を変えると見た目も変わるけど、他のNPCって皆同じ格好だよな?表情も一緒だし……ファルスから見て、他のNPCってどう見えるんだ?仲間になるNPCだけは最初から見た目が全然違うけど」

俺は今まで動けた範囲から見えた他のNPCを思い出しながら言った。

「子供なら子供、成人の男なら成人の男、成人の女なら成人の女、といった具合に、皆それぞれ性別と年齢に合わせて全く同じ服を着ています、俺は成人の男なので白いシャツに青いベスト、青いパンツを履いています……顔はそれぞれ違っていて、個性はありますが、無表情です」

カイムさんは言った。

「これはどう見える?」

突然カイムさんの右の足元に木箱が現れた。

「えっと、木箱がカイムさんの右側に出てきました」

俺がそう言うと、カムイさんは言った。

「今、コマンドで『道具』を選んだんだ……中に何が入ってる?」

俺は椅子から立ち上がって木箱を見ると、蓋は無く、中には手のひらサイズの白い立方体のブロックがいくつか入っていた。

「何だか、白いブロックがいくつか入ってます」

俺がそう言うと、カイムさんが言った。

「どれか1つ、手に取って箱から出してみて……えっと、他と何か違う物があったら」

俺がいくつかあるブロックの内で光っている物を見つけ「光っている物があります」と言ってから手に取って箱から出すと、カイムさんは「ふーん」とだけ言った。

カイムさんは少し考える様な仕草をした後、俺に言った。

「さっき取った物を元に戻して、ファルスにも木箱が出るか試してみてよ、えーっと、『道具』とか念じてみて」

俺は言われた通りに『道具』と念じてみた。すると俺の右の足元にも木箱が現れた。

「カイムさん、俺にも木箱が出ました!」

俺が驚きながらカイムさんにそう伝えると、カイムさんは頷いてから言った。

「明日、ファルス用の武器と防具を買いに行こう、服装を変えないと他のNPCと間違うし、モンスターと戦うだろうから……とりあえず今日は寝るぞ、仲間の体力も少ないし」

カイムさんは椅子から立ち上がり、武器や防具を身につけたままベッドに入った。そこで俺の意識は途切れた。

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