第二話 初めての名前

宿屋に着くと、NPCの『宿屋の主人』に『勇者』が「もしもし」と声を掛けた。

すると『宿屋の主人』は「4名ですので120ゴールドです」と言った。

俺は『勇者』の周囲を見たが、『宿屋の主人』と『勇者』と俺の3人しか宿屋のカウンター近くには居なかった。

不思議に思った俺は『勇者』に問い掛けた。

「4名ってどういう事ですか?」

『勇者』は少し考えてから言った。

「今、仲間が3人居るんだけど、戦闘時とか、この後に出来る基地とか飛行船に入らないと画面に出て来ないんだよ……後、お前はパーティーに入ってないみたいだな、リストに出てない」

『勇者』は『宿屋の主人』に「はい」と言うと、微かに「チャリン」という金属音がした。

『勇者』は俺を見て言った。

「とりあえず空いてる部屋に入るぞ、俺がベッドで寝ない限り一日は終わらないから、ゆっくり話せる」

俺は歩き出した『勇者』に付いて行った。『勇者』が1つの部屋のドアを開けると、ベッドが1つ、テーブルが1つ、テーブルを挟んで向かい合った状態の椅子が2つ置いてあった。『勇者』と俺が部屋に入ると、俺はドアを閉めて椅子に座ってから言った。

「とりあえず、勇者さんも椅子に座って話しませんか?」

『勇者』は少し困った顔をしながら椅子に座って俺と向き合った。

「とりあえず椅子の上に乗ったけど、座ってる風に見えるか?」

俺は「座ってます」と言ってから、どうやら俺が見ている光景と『勇者』が見ている光景は違うのだろうと思った。それはそうだ。この世界はゲームで、俺はゲームの中の存在で、『勇者』はプレイヤーなのだから、『勇者』を操作している人間が居るはずだ。その人間が俺と同じ光景を見ていると考える事は不自然だ。

『勇者』はテーブルに両肘を付け、重ねた両手の上に顎を乗せて言った。

「とりあえず……お前の名前は?」

俺も『勇者』と同じポーズで言った。

「名前はありません……あるとしたら『村人A』です」

『勇者』は笑顔で言った。

「じゃあ、名前付けてやるよ……えーと、今日からお前は『ファルス』だ」

俺に『ファルス』という名前が付いた。NPCの中で特定の名前が付く者は極僅かしか存在していない。俺はとても嬉しく感じた。

「で、俺は……プレイヤー名の方が良いかな?『カイム』という名前にしてある」

カイムさんは真剣な顔で言った。

「とりあえず、ファルスが知っている事を全部話してくれないか?その後、俺の事も話すから……ちょっと確認したい事がある」

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