第一話 初めての一歩
『勇者』は「もしもし」しか言わない。
『村人A』の俺は「ここはエラメルドの町です」としか言えない。
しかし、目の前に居る『勇者』は全く違う事を言った。
「どうしてお前の声が聞こえるんだ、俺の耳に!メッセージウィンドウにも出てない言葉が!」
俺も全く違う事を言った。
「分かりません、自分でも分からないんです!俺の声は貴方の耳に聞こえているのですか?」
『勇者』は頭を抱えながら言った。
「俺は今、『話す』というコマンドを使っていない、頭の中で考えた事がお前に聞こえていて、お前の声が俺の耳に聞こえている……どういう事だ?俺は頭がおかしくなったのか?」
俺は『勇者』の言っている意味が分からなかった。
「コマンド?『話す』?頭の中の考えが俺に……俺の声が耳に?」
『勇者』は俺の腕を掴んで言った。
「この先にセーブポイントがあるから、とりあえず行くぞ、バグかもしれない」
『勇者』は俺の腕を掴んだまま歩き出した。俺は腕を掴まれたまま、動けると決められている範囲の外へ足を踏み出した。
『勇者』に腕を掴まれたままの状態でしばらく町を歩いていると、目の前に台座に置かれた透明な水晶玉が現れた。
『勇者』が言った。
「バグかもしれないから、とりあえず別のスロットにセーブする」
その時、微かに「キーン」と澄んだ音がした。
『勇者』は俺の顔を見て言った。
「今から一旦ゲームの電源を切って、10分後に今セーブしたデータをロードする、どうだ?」
俺には『勇者』の言っている意味が分からなかった。
「どうもこうも、何も無いですよ」
『勇者』は不思議そうな顔をして言った。
「さっきセーブしてからゲーム機の電源切って、10分経ってからデータをロードしたんだけど、お前はどの位待った?」
「いえ、待ってないです、『ロードする、どうだ』と言われただけです」
『勇者』は腕を組んで少し考えてから言った。
「要するに、俺がゲームをしていない間はお前達の世界の時間は止まって、ロードが終わった瞬間に時間が動くのか……じゃあ、今、俺の声は聞こえるか?」
俺は戸惑いながら言った。
「聞こえますよ」
すると『勇者』はしばらく無言になった。
俺は『勇者』に問い掛けた。
「どうしたんですか?急に黙って……どうしたんですか?」
『勇者』は不思議そうな顔で言った。
「お前、さっきまで何か話してたか?後、俺の声は聞こえていたか?」
「いえ、貴方は無言になって、俺は貴方に話し掛けていました」
俺がそう言うと、『勇者』は腕を組みながら言った。
「どうやら俺がコントローラーに触っている時だけ、俺の頭の中で考えた事がお前に聞こえて、お前の声が俺の耳に聞こえる、という訳か」
『勇者』は楽しそうに口角を上げて言った。
「ちょっと宿屋にでも行って話をしよう……ただのレトロゲームだと思ってたのに、こんな事が起きるとは思わなかった……お前、俺に付いて来い」
俺は『勇者』と一緒に町の宿屋に向かって歩き出した。
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