KINOKO

奥田啓

第1話

KINOKO





「にいちゃんだめだって。漁ったら叔父さんに怒られるよ…」

俺が家の中を手当たり次第探ってるのを弟は隣で不安そうに見ている

「そんなこといっても俺らが餓死したらどうすんだよ…もう3日も飯食べてないんだぞ…!おまえも探せよ」

そうやって声を上げると、ないエネルギーがまた減っていく。

横腹が痛むのを無視しながら、金目のものか、何か食べ物がないか懸命に探す。

俺たちの両親は数年前不慮の事故で亡くなった。

父方の叔父に預けられることになった。

彼は左官屋を営んでおり、子供はいなかった。

最初は優しかったのだが、俺らがきてから事業が傾き倒産。

結婚を考えていた女の人にも逃げられ、酒に溺れ荒れた。

俺らがきたからだと、疫病神だと言い放ち、それから暴力を振るうようになった。

怒らせないように怒らせないようにと日々を過ごすが、些細なことで彼の機嫌を損ねるので何を気をつけたらいいかわからない。

今回もなににふれたのか、激怒し飯を与えないでいた。

もう俺たちが悪いというか、日々の鬱憤を俺たちで解消しているように思える。

鬱憤もなにも仕事もろくにせずに家いてばかりなのだが。

「たける、あっちの部屋を探そう。あの野郎の部屋が一番怪しい」

俺はたけるにむかって指示をする。

気弱なたけるは俺の顔を見ながらも

叔父の部屋に向かった。


こっちにあるとしたら…

たしか仏壇のところに近づくといつもピリピリしてたな。

もしかしたらあそこに…

望みをかけて、仏壇に近づき引き出しを開けようとすると

グッと体が後ろに引かれる。

なんだと思ったら後ろに叔父がいた。

「てめえなにやってんだよ」その冷徹な顔と声がおれにぶつかる。

何か言おうとすると

破裂音と痛みのあと体が右に大きく持ってかれる。

「勝手にいじるなっていったろ、大人しくしろっておれいったよな。」

強くを張り手をされた頬を抑えながら

「何も食ってねえから」というと

「飯抜きになったのはおめえらのせいだろ?悪いことやったら償うのがあたりまえだろうが、ああ?」

「あんたが些細なことでキレるからだろ…」

おれはつい言ってしまった。

その言葉は激しい暴力の引き金だと分かりながら。

「誰がおまえら養ってると思ってんだよ!!!」

怒号とともに腹を強く蹴られた。

何も食べてないから体液しかでない「てめえらがきてからろくなことねえのに親族全員おれにおしつけて黙ったままだしよふざけんじゃねえくそくそくそ!!」

蹴りは激しくなる。

朦朧とするなか、逆さになった視界の隅で

叔父の部屋にむかった弟が覗いていた。

逃げろ、声に出さずいった。

その様子を見逃さなかった叔父は

振り向いて

弟を見つけた。

「てめえも隠れてたかおい…」

わななく弟を助けたいが

体が言うこと聞かない

怒りのボルテージがあがり

さっきよりも強く張り手をされ、ドアに激しくぶつかる弟。

弟は声にならない声をあげてのたうちまわる


倒れる兄弟を見下ろしながら「おまえらにはさらに罰を与えなきゃな…」

そういうと邪悪な笑顔を浮かべた。

おれはそこで意識が薄れていく。




次に目がさめると揺れる車の中だった。

隣では弟が眠っていた。

腕が後ろ手で紐で結ばれ動かせない。

窓の外をみるとまわりは真っ暗で車のライトで照らされてるところしか明かりがない。

どうやら山道らしい。

一体何をされるのか。

強くて震えが止まらない。

隣で弟も目がさめる。

状況を察したのか、なにも喋れずにいる

やがて車が止まる。

叔父が扉をあけ

俺たちをむりやり引っ張り

地面に転がった。

まわりは林で真っ暗だった。

そのまま叔父はすぐに車に乗り込み動き出す。

「ちょっとまってくれよ!」大声を出す。

運転席の窓が開き、叔父が顔をだす。

「おまえらはそこから徒歩で帰ってこいよ、まあ帰れたらの話だけどな」

なにがおかしいのかケタケタとわらいながら車を動かす

おれは必死になって車を追いかけたが

痛めつけられたのとなにも食べてないないのが重なってすぐに地面に倒れてしまった。

体が言うこと聞かない。

その間に車は暗闇の奥に消えていった

「くそ!まてよ!なんでこんなとこに!」


たけるが寄ってくる

「にいちゃん…」

「くそお…あいつ…飲まず食わずの俺らをこんなところに置いてきやがって…おれらを捨てたんだ…」


「えっ捨てたって…」

「こんな夜中まで走ったってことはかなり遠いところまで連れて行かれたんだよ…野垂れ死するのを待ってんだあいつ…くそ…くそ…」

深刻さに気がついた弟はべそをかきだす

「いやだ…いやだ…」



「ぜってえいきてかえるぞ…」

「えっ?」

たけるは涙で濡れた顔を上げる

「こんなところで死にたくねえ…まともな生活おくるんだ俺たちで…」

「う…うん」

「夜じゃ無理だから今日はもう寝よう…まともに進めやしない」

そういってそこらへんにスペースを作って二人で寝る。




朝起きても林ばかりの山奥で

彷徨い続ける。

腹の痛みが意識を朦朧とさせる。

ガサガサと気を掻き分けながら進むと

葉っぱが積もったところになにか生えている。

フラフラと駆け寄ると

おいしそうな松茸が生えていた。

ふたりはみあわせると

「にいちゃんこれ…」

「ああ…やべえ松茸だよ…やった」


ふたりは慌てて引っこ抜いて

むしゃぶりついた

食べていくと体に血が廻ってく。

おぼろげだった意識がすこしだけ鮮明になっていく

すると松茸をみると

真緑の斑点の多いきのこに変わっていた。

「うわあああ!!」

おれはあわててそれをてからはなす

たけるは2本目に突入している

「たけるそれは松茸じゃない!食うな!!」きょとんとしたたけるの手から緑のキノコを奪い捨てる

「なにするのさ!」

それは松茸じゃねえ!おれら幻覚見てたんだ弟はハッと気がつくと

意識がはっきりしたのか地面におちた緑のキノコをみて驚いている。

「これやばいんじゃないの…ぼくたち大丈夫かな…」

「いまんとこ何もないけど…たけるは大丈夫か?」

「う、うん…なんとも…」

「食べられるやつだったのか…いやでも色やばいよな…まあいい、いこうぜ」


たけるはキノコを気にしながら俺についてくる。


体にへんなものとはいえ食べ物を入れたせいかすこしだけ体が動くようになった。

やがてかきわけかきわけていくと

街の景色が見えるところまできた。

たけるは「にいちゃんみてみて!」といってはしゃぎ走り出す

降りるだけであとは人のいる場所に行けそうだな…はやく休みたい…

たけるがどんどん進むのでちょっとまてと大きい声で呼びかける。

すると向こうにいた弟が突然消える

弟の叫び声が聞こえたとともに

走り出す。

「たける?!どうした?!」

叫んでもどこにもいない

少し進むと

途中が足元の崩れやすい場所になっていた。

下を見ると弟が倒れている。大きな木の枝に体を貫いてブラブラと体を揺らしている



声なき声をあげた。


せっかくここから出られるはずなのに

やめてくれよやめてくれよ

なんでだ

下に駆け下りて

弟のところにいく

たけるは体を大きく木の枝が貫いていた。

泣きながらおろすとぐったりとしてただでさえ白い体がさらに真っ白になり血の気がないような姿をしている

身体中から血が流れている。

自分の服を破き、抑える

「ああとまれ…血止まれよ…」

小さな布では体力にでる血には追いつけず布はすぐ血をたっぷり吸ったものになる。

周りにあった葉っぱを急いで集めて、とめようとするがそれも叶わず。


「ああ…なんで…くそ…

なんでこんな目にあってばっかなんだ…ちくしょう」

弟はピクリとも動かない。

俺のたったひとりの家族

なんで全部奪っていくんだ。

地面に顔を埋めて泣き腫らしていると

後ろから声がかかる

「にいちゃん?なにしてるの?」

ハッと見るとたけるがきょとんとしてこちらを見ている。

Tシャツが血で汚れている。

「えっ…おまえなんで…」

さっきまで真っ青なかおをしていたのに

なんともない顔をしている

これも幻覚なのか…?

「僕ちゃんといるよ。」

「おまえ、崖から落ちたのになんで…」

体を触ってみるが、

傷口がふさがっている

さっきよりもむしろ健康的なように思える。

なぜ…何が起こった…?

すると弟の腕になにかある。

「ちょっと腕見せてみろ」

腕を取りみると

✖️と1が書かれている

「なんだこれ…?」



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KINOKO 奥田啓 @iiniku70

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