終、恐み恐み曰す

 正門に寄り掛かっていた新は、和の姿を見つけて軽く手を挙げた。

「お疲れ」

「いえいえ」

「昨日の傷は?」

「痛みもしませんよ。新さんこそ」

「俺も問題なし」

 二人は軽い挨拶を交わして歩き始める。

「あれから、鈴はどうなりました?」

「朝起きたらなくなってた」

 新は右手を和の方に差し出す。

 鈴と、何度か鈴を引き千切られてもそれだけは新の手首から外れなかった紐も、最早存在していなかった。

 それは、つまり新が魔法少女である必要がなくなったということである。

「久世志が夢に出てきた」

「僕もですよ。雅希と新さんをよろしく、と言われました」

「俺はお前と仲良くしろと忠告された。親かあいつは」

「まぁ僕達の親なんかよりもずっと昔の人ですからね」

「どいつもこいつも人のことばっかりだ」

「あれ、自覚あったんですね?」

「……俺のことじゃない」

 和は新の右手を見て肩の力を抜いた。

 鈴が新の手から消えたと同時に、当然、久世志も消えていた。

 もう二度と会わないだろう、だけど戦いを終わらせるという目的を果たして別れて、何も悲しいことなどない。

 ただ、いつか訪れる未来での戦いで苦しまないように、と祈るばかりだ。

 と、顔を上げた和が何かに気付いて足を止める。

 新は突然動かなくなった和の視線の先を追う。

 雅希が、和と新に気付いて大きく手を振っていた。

「お前ら、もう帰りか?」

「えぇ、今からお茶しに行くんです」

「そっか、じゃ、また明日のゼミでな、和」

 また明日、と返そうとした和の手が動かなくなった。

 笑みの形を作った唇も、硬直したように動かない。

 しかし、新にとん、と背を押され、びくっと動き出した。

 新を見る和は泣き出しそうで、新は静かに和を見詰め返す。

 泣くかと思った。けれど泣かなかった。

 和は唇を引き結ぶと、雅希に向き直る。

 そして、雅希の方に走り出す。

 雅希は驚いた顔をしていたが、すぐに満面の笑みに変わる。

 一言、二言交わして、二人は頷き合う。

 くるりと新の方を振り返った和も、明るく笑っていた。

 和は雅希の腕を掴んで戻ってくる。

「新さん、雅希も一緒に良いですか?」

「あぁ」

 嫌なはずがない。新が即座に頷くと、雅希は

「よろしくな」

と言ってまた笑った。

「それで、茶ってどこで?」

「いつもの場所」

「どこだよ?」

「店の名前だ」

 なるほど、と和が笑っている。

 雅希も同じく。

 新の右手首には、もう、鈴はないけれど。

 ここにいる三人とも、もう魔法少女じゃない。

「その店、美味いんだろうな?」

「さぁ、でも僕は新さんの味覚も信じてますから」

 ね、と覗き込んでくる和に、新は頷く。

 どこかで小さく、鈴の音が聞こえた。

 

                          了

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魔法少女あらみたまさん 清見ヶ原遊市 @kiyomigahara

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