ふたりの秘密

その次の月曜日の登校中、コウジはミノルに何度も土曜日のことを聞き返した。


「なあ、ミノルぅ。あの日何があったんだよう。俺ぜんぜん覚えてないんだよう。昨日はなんかやたら疲れてずっと寝ちゃったし」


「なんにもないよ。コウちゃん、トオルおじさんの家に入ったら急に寝ちゃったんだもん」


ミノルはとぼけてそんなことを言った。


「そこなんだよなあ。なんで急に寝ちゃったんだろう。なあ、ミノル、なんかあったんだろ?教えてくれよぉ」


「何にもないってば。おじさんが怖くて気絶しちゃったんじゃないのぉ?」


そう言って、ミノルはからかうような表情を見せた。


「ミノル、お前このやろう、調子にのりやがって」


コウジはミノルの首をぐいっと腕でつかむと、反対の拳でぐりぐりとミノルの頭に押し付けた。


ミノルはけらけらと笑い、コウジもつられて笑っていると、3丁目交番の前を通りかかった。交番の前では灰谷巡査が立番をしていて、ふたりに気がつくと軽く右手を上げたので、コウジは慌ててヘッドロックを解いた。


ミノルとコウジも右手をあげて「こんにちは」と挨拶をして通り過ぎた。


ミノルが振り返ってみると、灰谷巡査もミノルの方を見ていた。そして人差し指を立てて口にあて、片目でぱちっとウインクをしてみせた。ミノルも、コウジに気づかれないようにウインクをして返し、それから前を向くと再びコウジにヘッドロックをかけられて、ふたりして笑いながら学校へ向かった。


校門の前には、サッカー仲間の6人が立っていて、気まずそうな笑顔をミノルとコウジに向けていた。ふたりはなんと言ってやろうかとにまにま笑い合いながら、友人たちの元へ駆け出した。


トオルおじさんは今日も、俵屋町の子どもたちを見守っている。


(了)

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トオルおじさんの電撃的な日々 野木 康太郎 @Nogiko0419

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