まぼろし~!! 『ホロフェルネスの首を斬るユディト』

 

 バラバラ殺人は、女性の方が多いらしい。

 

 いきなり何の話だと思われた皆さま、こにゃにゃちは。竜堂嵐です。

 覚えておいででしょうか? 今を去ること12月8日。近況ノートにUPした『誰かわたしを慰めて! 全力で慰めて!!』を。

 その嘆き通り、今回大阪にカラヴァッジョの『ホロフェルネスの首を斬るユディト』は来ない……。しかし、嘆いてばかりもいられない。


 といわけで、すでにまぼろし~!! になったこの絵について取り上げたい。


 そもそもの出典は旧約聖書外典の『ユディト記』。

 ご存じの方も多いと思うが、話を要約すると、町に攻め込んできた軍の大将ホロフェルネスを、未亡人のユディトが酔いつぶし、その首を掲げ、町を救った。しかも、彼女は憎き仇にその身を委ねなかったのだ……、という敵将を討ったことより、むしろ貞節を守ったことの方が称賛されているかのようなお話なのだが、それにしても、この絵のユディト。ネット上の解説によると『緊張感漂う』その顔が。

首をきりきりしながらのそのお顔が。ほんっっっとーに、イヤそうなのである。


 構図の都合ではあろうが、あたかもホロフェルネスこと、おっさんの汚い死体から距離を取りたいと言わんばかりの腕を伸ばした姿勢と、眉をしかめたその表情が『なんで、あたしがこんなこと』と言ってるようにみえて仕方ない。

 というのも、この絵のユディト。

 カラヴァッジョが、かのベアトリーチェ・チェンチ(※)の処刑に触発されて描いたとの噂のせいか、未亡人のわりに、ものすごく若くて、その若さはむしろ少女の域。隣の、もはやじじいだかばばあだか、よくわかんない侍女(侍女というからには、ばばあだろう)の効果もあって、余計に若く見える。

 後に描かれたジェンティレスキの同名の絵画とは、どえらい違いである。(ちなみに、ジェンティレスキの方は、ちゃんと30代くらいの未亡人っぽく見えるし、侍女の方がむしろ若い)


 効果音も、カラヴァッジョが『キュッキュッ』なら、ジェンティレスキは『ごりごり』。骨が砕かれる音が聴こえてきそうなほどである。

 で、最初の一文。『バラバラ殺人は~』に返る。

 司法解剖の先生の著書によると、バラバラ殺人が女性に多いというのは、女性の力では死体をそのままでは運べないという物理的な理由が原因らしい。死体の損壊もそう容易くはできそうにないし、なぜそんなおぞましいことが平気でできるという意見もあるそうだが、殺人を犯したときの心境は、なんとか死体(犯罪)を隠蔽しなければならないという思いで気が動転しすぎて、案外やってしまう女性が多いそうだ。


 無論、ユディトに死体を隠す必要はない。

 しかし、首は掲げねば敵将の死を知らしめることはできない。

 でも、カラヴァッジョのユディトは、本当はやっぱりこんな汚れ仕事はやだったんだろうなあ、と思う一枚である。(ジェンティレスキのユディトは分かりませんよ)




※ベアトリーチェ・チェンチ

 16世紀、イタリアの貴族女性。享年22歳。暴君であった父の異常な暴力と性的虐待に耐え兼ね、訴え出るも何も手を打ってもらえず、家族と恋人と共謀し、事故に見せかけて父を殺害したといわれる。事情を知っていた周囲からの散々の嘆願にも関わらず、死刑が確定、執行されたため、法の裁きというより、チェンチ家の財産を没収したいがための判決だったのではないかとの噂が立ち、彼女の死は、教皇庁、ひいては教会に対して、長きに渡る不信と批判のきっかけとなった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ど素人の美術鑑賞 竜堂 嵐 @crown-age2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ