合法詐欺

合法詐欺

「はいもしもし」

「もしもし俺、俺」

「どちら様かね」

「俺です」

「俺といっても誰かわからん、昔からそう言って騙す詐欺が絶えないんだからな」

「ははは、聡明な方だ。話が早い。俺は確かに、貴方の親族でも知り合いでもない」

「何、じゃあ詐欺か」

「いいや、俺は『俺』なのです。誤魔化してはいません、特定の誰かを名乗ろうとしていたわけではありません。詐欺ではありません」

「確かにそうだ。確かにお前は俺としか言っていない。正直な奴だ」

「ありがとうございます。実は俺は、正直に俺として名乗って、貴方にお金を貰おうと思ったのです」

「何、やはり金が狙いじゃないか」

「はい、そうです」

「何者であれ金はやらん。私の金が減るなら詐欺と同じじゃないか」

「いえ、違います。俺のしているのは合法で、詐欺は違法です。俺は何も間違った事はしていません」

「それはそうだが」

「どうか、どうかお願いします。俺にお金を譲ってください」

「なんとまあ、清々しい奴だ。おい、だったらいい話がある」

「え、本当ですか」

「実は私は幸福になれる壺を持っているのだ。その壺のお陰で幸せにやっている。どうだ、これも何かの縁。特別にこの壺を譲ってやらんこともない……」