「いや、あの、オレしない方向で……」

「どうして?」

「だってオレ、DTだもん! 恋人に初めてあげるって決めてんだよ!」


 吹っ切れてそう高らかに宣言した途端、宵はもう傑作とばかりにお腹を抱えながらげらげらと笑いだした。涙も拭う。


「そういうのって、普通女の子が言うもんじゃないの? それに珍しいよ」

「初めてだぞ? ファーストだぞ? 一作目がダメなら二作目も三作目もシリーズ丸ごとダメになるだろ? 良い思い出にしたいから大切にするに決まってんじゃないか!」

「私もそうだよ。私もSJだよ!」


 SJとはつまり、処女のことであると理解するのにしばらく時間が掛かった。今どきの女子はそういう言いかたをするのだなと。しかしそうであればと。


「え、待草もそうなのか。てっきりすごいあばずれかと思ってた。『テニスラケットも良いけど、こっちも握りやすくていいわあ☆』みたいな感じの」

「もう、あばずれだなんてそんなすごいものじゃないよ。そう思われていたのは嬉しいけどさ。そ、私は男の人を受け入れたことない。指くらいならあるけど……引いた?」

「ううん。全然引かない。むしろ良いとさえ思う。このご時世に」


 愛撫を止めないままにそう言い切った。指はまだ挿入れないままに捧は彼女を素直に賞賛した。第3級同士にもなると好奇心を満たすことや快感を得たいので、恋人関係でもなくする人は多い。要はルールさえ守れば良いのだから。


「私もあなたと同じなの。好きな人に操捧げるのが、とっても夢で……」

「なんか、もっと深い友達になれた気がする」

「と、友達かあ……」


 デリカシーのない一言で傷つけたことを悟り、捧は急いで言葉を修正しようとする。ぽろりと本音が漏れることは恐ろしいものだ。


「あ、いや、ね、今ね、現在の話であって未来は誰にも予測できないって言うか、そういうことで」

「ふふっ。じゃ、そゆことで。でもやっぱりお互いが気持ち良くならないとね」


 ズボンのファスナーを下ろされ、ボクサーブリーフの前空き穴をくいと開かれると、捧の男の子が待ってましたとばかりに飛び出した。脳の酸素供給が上手くいってないような気分に陥る。


「うわ、やっぱりすんごいことになってるじゃない」


 鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。


「男の子の匂い……春野の匂い……味も……」


 舌先だけで震えるそれを味見する。さっきまで紅茶を楽しんでいたもので一度だけではなく、どんどんと間隔を短くして這わしていく。わざとらしく音も立てるので捧はもう頭がぼうっとして、力が抜けていく。


「しょっぱいね。春野ってしょっぱい」

「う、あ……汗と垢くさいだけだっ」


 そんな感想へ必死に応答する。目の前の可憐な女の子の可憐な舌が自分のを舐めているのだと実感するだけで回路が焼けきるかのようだった。捧は女の子にすることがほとんどであったので、舐めまわされるのは初めてだった。手ならあったけれど。

 愛撫していた手が止まって彼女から落ちてしまっていた。

 時間の感覚がわからなくなってくる。宵の唾液と手の暖かさだけが全身の感覚を支配している。でもやがてそれだけではなく、どんどんと陰茎に力強いものが集まっていく。


「オレがっ、オレ、が、待草のも……」

「いいのいいの。私は十分に嬉しかったし気持ち良かったし。だから楽になって。いつもの自分でしているときのように。伊達に第3級じゃないんだからね」


 その言葉でもうすべてが吹き飛んだ。彼女の奉仕に合わせて腰を動かし始め、視点をどんどんとぼかしていく。宵の艶めく舌先が何重にも表れるようになる。

 しかしそれだけではない。ほぼ見えていない状況にもかかわらずぐいっと身体を前傾させて指を彼女の秘部へと挿入していったのだ。無意識だった。感覚はすべて自分へ向かっているのに喜ばせようと膣壁に触れたり離したりを繰り返している。


「えっ、えっ、春野? あっ、えっ、んんっぁ……」

「う……う……はっ……」

「私、キテる、春野のでキテるっ、だからっ」

「オレもだめ、もうだめっ、そのままっ」


 そういう状況になっても二人は口づけさえ交わさなかった。友達同士だからだ。それでも穴の中は他人が知ってはならないような音と香りと息が溢れ返っている。粘液はとめどなくかき混ぜられ、ついに二人は。


「……っ!」


 声は出さずとも背筋をびくりとさせて行為は終わった。捧はあまり自分ですることがないから、数回脈打ちながら出し続け、宵のそれが似合わない顔を汚していった。我に返った彼が彼女に着いた精液の量を見た途端、さあっと血の気が波のように引いていった。賢者タイムであるからなおさらに。


「ごっ、ごめん……っ」

「ふうーん、可愛いね。あんまり自分でしないんだ。気持ち良かったよ、すごく。さすが春野だね」

「お、オレもすごく気持ちよかったけど……」


 それにしてもいつもより圧倒的に多いので驚きを隠せない。慌ててティッシュを出そうと思ったが、カバンの中にそういう類のものはなかった。


「大丈夫っ」


 ふにゃりとしてからの遅刻してきた精液を彼女は自分の持ってきていたティッシュで拭きとってくれた。それはデリケートな所用に発売されている高級ティッシュだった。しっとりとした優しい感覚で残ったものも搾り取るように拭いた。


「これ、○んこセレブ(伏字ではない)じゃないか。すごいもの持ってるんだ。高いでしょ、これ」

「エチケットよ。エチケット。普通のだと痛いかもしれないでしょ?」

「待草顔に髪まで……なんでわざと汚れるようなことを。手で受けたり出来たのに」

「こういう風にした方が春野喜ぶかなって。口の方が良かった?」


 捧のを処理し終えると、今度は自分に着いたものを拭いていく。たまに指ですくってぺろりと舐め、頬を赤らめて微笑みを向けるものだから捧はまたどきりとしてしまう。でもそんなにすぐ臨戦状態に戻らないし、戻ってしまうにしても恥ずかしいから下着の中にすぐ収める。


「あの、お返しに君の所オレが拭こうか?」

「ううん。そんなことされたらどんなに拭いても止まらなくなるもん。だから……」

「そ、そっか」


 彼女が目の前でそこも処理する。その光景はなんとも背徳感を刺激するから捧は思わず視線を移して外を見た。トンネルの端には街灯の灯りが掛かっていて、少しずつ現実へ戻って来る気分にさせてくれる。


「じゃ、また明日学校でね!」

「うんじゃあね」


 ちゃんとすべてを終わらせてから捧は彼女を家まで送り届け、一日の終わりを感じた。他人にしてもらったのはかなり久しぶりだったので、比べて爽快感がとてもあった。ふわっと通り過ぎた春の風がとても気持ちよい。

 家に帰りついた捧は用意されていたご飯を食べ、お風呂に入り、テレビを観て時間を潰し、布団へと入った。

 今日一日のことを思い出す。本当に色々あった一日だった。咲花先生のバストサイズを予想し当てたり、入船の見事なチカンを観戦したり、宵と性行為をしたりと。濃いものだった。

 明日提出の課題はすでに終えてある。だからもう何も気にせず眠りに着けば良かった。何も気にせずに。気にせず。

 なのにどうしてなのか、捧の陰茎はそうはさせまいと、あの時と同じくらいに大きくなってズボンから脱出しようとしていた。興奮するようなことは考えていなかったはずなのに。


「おいおい、思春期真っ盛りかよ相棒さん」


 どうしようかとちょっと迷った末に、すっきりすることを決めて端末でおかずを探し始める。暗い部屋の中、画面の明かりの中を目で追う。

 しかしどうしてこうして良さそうなおかずを発見してしごいてみても、まったく気持ちよくもなく最後までイケそうな気配もなかった。視覚は確かに好みのもので満たしているのに。

 なんでだろうと気にしつつも色々なおかずに変えながらし続けるが、ただ痛いだけになってきた。それでも萎えずにものは青筋を立てながら主に一番良いおかずを示すため、ぴくりぴくりと脈打って見せた。


「……んっ」


 宵を想像して彼はその夜、回数を忘れるほどに果てたのだ。逆手に持って彼女にしてもらっているようにし、暖かく甘い蜜が絡みついていた指を舐めながら、寝ることを忘れてし続けたのだ。


(待草もしてるのかな? プロチカンを目指してるのにこんなになって、情けないかな)


 遠くでメスを知らない犬の遠吠えがした。


 

 ここは江露幕府。愛と肉欲と汁にまみれた大乱痴気時代。

性が娯楽で大きく占めるこの世界、様々な出来事がこれまでにも起こり、これからも起こるでしょう。また彼のお話になるのか、それともまた別の人のお話になるのか、それは「自由」で「誰に」でも。

 江露幕府からお伝えしました。機会があればまたお会いしましょう。私ではないかもしれませんが。

 では。

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好きにふれればいいよ、お互いねっ!~はじめての江露幕府~ 武石こう @takeishikou

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