四
普段真面目に凛と仕事している女の人もあんな風になってしまうんだなあと考えると、心の中でスケベ心に薪が焚く。
駅前から離れていくのに比例して人気は少なくなっていく。彼女の家のルートでは学校を通り過ぎないので、より顕著に。歩いているうちにすっかり夜、灯りは街灯だけになり、公園の前に差し掛かっても子供の声がまったくしなくなっていた。
「ああっ、あのっ!」
上着の裾を掴まれれば脚を捧は止める。ぎゅっと握られた小さな手の先をたどればもちろんの宵がいる。だから彼は問いかける。
「どうしたの?」
彼女は何も言わずにぐいぐいと引っ張るだけなので、抵抗する意味を見いだせなかった捧は従順についていく。公園の広場へとたどり着けばそれが解除されたから、もう一度、
「どうしたの?」と訊く。
広場には中央に一つだけの大きめの灯り塔があって、その下に二人は立っていた。上からそそぐ光と下に落ちている首が表情をわからなくしている。手を前でもじもじさせたまま一言も発しない。正確に表せば言葉を出していないだけ。
「ゆっくりして良いよ。待つから」
急かすことは出来ない。彼女が踏み切るまでずうっと待ち続ける覚悟を持っていた。彼は鈍感な男の子じゃない。わざわざ引っ張って連れてきて言うことは一つに決まっている。
性行為に関しては大らかな江露幕府の社会だが、だからといって恋愛が滅びたわけではない。そういうことに対する恥じらいは誰にだってある。
そう、性は娯楽なのだ。人が人であるための娯楽なのだ。
ちなみに強姦などの性犯罪はちゃんと取り締まられている。性に大らかだからこそ、それはもうかなり厳しく。逮捕されて有罪になってしまった人がどうなるか。というのもまた本筋に関係ないのでご想像にお任せします。
「……好き、なの」
どれくらい時間が経ったのか定かではないが、捧はその間暇つぶしもすることなくじいっと動かなかった。実はちょっとオーバーに瞬きをも我慢していた。
「どこがとか、なにがとか、顔とか性格とか、私の言葉じゃ説明できないくらい好きなの、好きなんです。ずっと、一年生の頃から。だから同じクラスになった時はとっても嬉しくて、だからもっとお話ししたかったけど、でも私意気地なしで出来なくて……」
一年以上抱いていた思いを告白し終えれば、頭が上がってきいっと大きな瞳が捧を逃さない。あまりに綺麗なので瞳の中に恋い慕う男子の姿が映っている。
「ありがとう。すごく嬉しいよ」
ぱああと開花しそうになるが、捧は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「……でも、ごめんなさい。オレ、その思いに応えて上げることは出来ない。その、あんまり待草さんのことを知らないから、すぐ恋人っていうのはどうもすうっとしなくて」
「じゃ、じゃあ友達からでいいんです。春野くんのその気持ち、わかるから」
ここできっぱりと突き放すのも優しさだろうけれど、捧はそうとどうも信じられなかった。だからその提案はすんなりと受け入れ、心の底から笑みを生み出した。
「うん、わかった。じゃ、友達。オレのことはまあ好きに呼んでくれて良いから。友達なんだし、喋り方も楽なのでいこうよ」
「じ、じゃあ春野?」
「なんだ、待草」
顔を見合わせぷっと爆発させるとそのまま笑い声が広場にした。そこからしばらくもう砕けた口調で二人は自己紹介を含めた会話をし、距離をほんの少しずつ縮めていった。
「捧って変な名前だろ? 読みにくいし言いにくいんだよな」
「そうかもしれないけど、私は好きだよ。捧って両手で抱えるっていう意味のはずだから、色んなものに優しくなれるって解釈できるし」
「待草ってロマンチストなんだな。そんなの言われたの初めてだからなんかこう、嬉しいけどうわって感じもする。照れるとは似てるけどまた違った感じの」
近くのブランコへ座りつつ。
「ね、実は春野の家こっちじゃないでしょ?」
「あれ、ばれてた? そう、あっちだよオレん家。近いからあの高校行ってんの」
「もう、そういうことするからいけるんじゃないかって勘違いさせるんだよ」
「いやだって、夜道を女の子一人で帰らせるわけに行かないだろうよ。それにオレの帰り道と違うんだけどとか言うと、悪い気にさせるし」
喋れば喉が渇くから、二人ともジュースはもう空になっていた。ストローから終わりましたよとお知らせがする。そろそろ帰る頃合いかなと紙パックを捨てに行こうとするとまた裾で引き留められた。
頬をりんごにし、女の子していた宵がそこにいた。りんごジュースの味を捧は忘れる。
「はぁっ、んっ……」
広場の大きな遊具。山のようになっていて表は登ることで滑り台にもなるものだ。それには貫通する様に地面に平行な穴が空いてある。大人が入るのではなく、子供用の小さなトンネルだ。そこから宵の吐息がしていた。
「キスはだめだから」
「オレは友達にしないよ」
丁度トンネルの真ん中の、外の灯りがまったく入らない位置で二人は絡んでいた。入船のを見た後であるから、捧はいつもよりもじっくり時間を掛けて彼女に優しく触れている。
二人は友達の関係だ。まだそれになって浅いが間違いなく友達だ。そしてお互いに唇を求めることはなかった。この社会にしては珍しいことだけど。
宵のブラウスはボタンがすべて開けられていてはだけている。覗く下着は白く通気性の良さそうなスポーツブラで、控えめな胸を隠していた。きっとこのくらいのサイズの方がテニスはしやすい。そして捧は下の隙間から手を差しこみ、彼女の胸を撫でている。
暗いはずなのにそれでもはっきりとわかるくらいに宵は全身が紅潮していた。捧も自分の鼓動が激しいこと、時期にしても暑いことを感じ、ズボンに隠されたものを膨らませていた。
実は捧、スポーツブラを相手にするのは初めてだった。こんなことになるならもっと事前に勉強しておくべきだったと本気で後悔していた。彼は視覚にも説得力を持ちたい性格だったので、なんとしてでも彼女の隠されていない胸を見たかった。
(ホックらしきものはない、ということはこのまま上か)
直感を信じたのが正解だった。布の部分を上にずらすと、その通りに動いて露わになった。若さみなぎる健康的な胸に思わず「おお……」と漏れる。
「やっぱり運動って大切なんだな……」
「なに言ってんのっ、よぉ」
「いや、こう元気ですって感じのおっぱいだから。ふうーん、ほぉー、いい! これいいよ!」
ぷっと宵が失笑するが、捧は気にせずに舌で遊び始める。普段は手だけが多い彼にしては珍しいことだった。
「なんかくすぐったい、よ」
愛でたいという気持ちが抑えられずに捧は左右均等に味わっている。制汗剤やボディーペーパーだけでは取れきれなかった汗の匂いが鼻腔を満たしていく。自分の汗臭さはかなり嫌な気分になるのに、彼女のものは瓶詰にして芳香剤として部屋に置きたいくらいに思える。
「もう、そこばっかり……っ」
「じゃあ、どこが良いの?」
「春野、性格悪いだなんて知らなかったっ」
人気のない公園の広場、遊具の穴の中、年頃の男女の密接した呼吸。捧はいつでもエチケットとして爪の手入れは欠かさず行っていた。だからスカートをまくって大切な所をいじってみても彼女は痛がる素振りを見せなかった。我慢しているようでもなく、ただ捧の指を感じられたことに支配されて嬉しそうだ。
しっとり濡れていたけれども、挿入することはなく表を撫でたり押したりつまんだりする。
「はぅ、ん、ん、ん、いぁっ……春野の指、あったかい……私にどきどきしてるの?」
「女の子のここに触って、どきどきしないやついないだろ。お豆さんもあるのにさ」
「おっ、お豆さんてなあに? んんっ」
「しっとりとしてぬっくりとした、陰核」
「なんでっ、そんな解剖学的なの、よっ……」
カタカナで言うのには妙な照れがあった。でも結局示しているものは同じだから意味があるのかと言われればないように思える。
意地悪な質問をしてきた彼女に対し、捧はその部分を転がした。するとそこが一番気持ち良いのか、ぎゅっと捧のシャツの腕の部分を握る。穴の中で反響して宵の妖しい声が大きくなっている。外にもよく漏れるようになっているかもしれない。でも止めるつもりはなかった。
「ね? 実は私もこれなんだ」
必死にかばんの中から取り出して見せてきたのは、第3級性乱者のカードだった。つまりそれは性交解禁を示すもの。併せてぴっと袋に入った避妊具も提示し、それは捧ももらった無料配布のコンドームだった。
「第2級じゃないから、もちろん飲んでるよ」
「いや、でもっ」
「我慢出来ないでしょ? ほら、すんごくぱんぱんだもん」
「そうなってるけど、あの……」
「私のあそこみたいに濡らしてるんでしょ? 春野だけ我慢してるなんてなんだか嫌だもん。一緒にしよ」
同じ第3級同士だからしても何もおとがめはない。どちらかが下のランクであれば違法になるけれども、そうではないのに捧は内心すごく最後までしたくなかった。
いやヤれるならばヤりたいというのが本音だ。捧も男として当然の本能を持っている。
彼女に指摘されたように男自身はこれ以上射角が上がらないくらいにまで準備を整えていた。下着とズボンの抵抗が厳しいために痛く、機能確認のための潤滑液が銃口を濡らしてもいる。
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