第16話「いつか見た青い空」3(完結)
お菓子作りがメイン作業となった調合部屋では、ちょっとした試食会が始まっていた。
昼になって、リーナのパン屋から頂いたパンを昼食に、そのサイドメニューとして、明日に出すお菓子を試食することになった。
テーブルにはとりどりのお菓子が並ぶ。それを見てはリーナが歓喜の声を上げていた。
「うわぁ、お菓子がいっぱいだよ~ぅ!」
目の中に輝かんばかりの星を浮かべては、目の前に広がる光景にうっとりと悦に入る。
「見事にたくさんあるわねぇ。去年よりも多いわね」
「リィちゃんに手伝ってもらったから、たくさん作れたよ。シエルも手伝ってくれたしね」
それほどでもないわよとカレンに褒められては頬を染めるシエルに、ニヤニヤと笑いながら
「ほっほー、あんた本当に手伝ったのね」
「なによ、カレンの手伝いをするのは当然じゃない」
「つまみ食いしてラッピングしかできなかったのに、よく言うわよ」
「私はやればできるのよっ」
「やりだすまでに腰が重いだけじゃない……おっと、重いのはその余計な胸の方かしら?」
「よ、余計言うなっ!」
思わず自らの胸を隠すように腕を抱え込む。シエルの「ブルマフォーム」以来、ティンのオヤジ発言が多くなってきているのは、気のせいか。
「カレンちゃん、居るかな?」
そんな掛け合いの中、調合部屋の出入り口からルミが顔を覗かせる。
「あ、ルミちゃん。どうしたの?」
「うん、カレンちゃんにお客さんだよ」
そう言うなり、出入り口のドアを開け放ち、ルミがそこの場を離れると、またもひょこっと顔だけが出てくる。
「カレン様!」
元気の良い声を上げ、明るい笑みを見せるのはクレアだった。そして、その向こうからシャロンが姿を見せ、深々と頭を下げる。
カレンとて、クレアと会うのは久しぶりだった。お店が忙しく、夏になる前にお見舞いに行ったくらいで、それ以来ずっと会っていなかった。
床に伏せるクレアを訪ね、部屋に通されると、彼女は明るい笑みを見せて迎えてくれた。そんな笑顔がとても可愛らしく、「本来のクレア」の姿をようやく見ることができたと感じられた。
「クレアさん! もう体は大丈夫なの?」
カレンも久しぶりに会えることがうれしく、クレアの元に駆け寄る――そしてカレンは、初めて彼女の現実を知った。
「ク、クレアさん、その車椅子……」
「そうですわ。
お見舞いに行ったときには、そんな話は聞かなかった。言わなかったのかどうかは分からないが、カレンはこれがルフィーの危惧した、「媚薬の副作用による代価」であると悟った。
「そ、そんな、どうして……っ」
「いいえ、カレン様。これは、
「でも……」
「カレン様、そんな暗いお顔をなさらないで。カレン様が悲しいお顔をされると、
「クレアさん……。うん、ごめんね」
「
そう言ってのけては、シャロンを見上げる。その目に見つめられるて、シャロンは頬を染めながら、俯き加減にそれに答える。
「もちろんですよ、クレア様。ずっとお側に居りますから」
頼もしい限りですわと、笑みを見せる。そんなやりとりを見るに、春の出来事が、まるで夢のように思えた。この二人の間には、強い絆で結ばれているのが見て取れた。
「そうだ。今、明日のお祭りで出すお菓子を品評してるんだけど、どうかな?」
「お菓子……ですの?」
「そうだよ、カレンちゃんお菓子作るのが得意だから、お祭りの出し物で作ってるんだよ」
得意げに話すルミの言葉に、リーナよろしくクレアも目を輝かせる。カレン様の手作りお菓子――これは頂かないわけにはいかない。
「それはぜひともいただきたいですわ」
「ク、クレア様、カレン様のお仕事にお邪魔するのは……」
「シャロンさんもどうですか?」
「え? わ、私もよろしいのですか……?」
「カレン様のお誘いですもの、お断りはできませんわよ」
「じゃ、決まりだね。ボクも参加するよー」
そうと決まれば、シャロンの背に回ってはルミがそれを後押しする。クレアの車椅子をみんなで中に入れると、品評会が再開された。
そこには、普段以上に賑やさが溢れ、楽しそうな声が部屋を満たしていた。やがて街の喧騒は、お祭りの雰囲気を醸し出す。
――いつか見た青い空は、どこまでも果てしなく広く透き通っていた。
マジカルファーマシー 〜まじかるルミちゃんクライシス〜 神崎 諳 @Soran_Kanzaki
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