ツバメ

クラス

第1話 ツバメ


 ツバメと共に空を飛んだ、とても大切な思い出。


 赤道の少し北にある島国スリランカに私は仕事に来ていた。久しぶりの休日に、雑事を忘れスリランカの大地を楽しむために、何処までもゆっくりと歩いていた。


 見渡す限り人も建物も無い農道をぽたぽたと歩く。頭上の太陽がさんさんと輝き、雲一つ無い真っ青な空が世界を覆っていた。


 見渡す限りの広大な大地には、果てしなくつづく小麦の稲穂が風にゆれいてた。私は雄大な波が駆け抜ける、大海原の上を裸足で悠々と歩く、心地よさの中にいた。


 しばらく歩いていると、大きな木作りの古めかしい建物が見えてきた。その建物は二階建てぐらいの屋根が七・三に分けられた、かやぶき屋根のような建物だった。


 西側に窓があり屋根は小さく駆け登るように、東側はゆっくりとした勾配で地面近くまで屋根が流れていた。


 まっすぐに伸びた道なりに歩をすすめ建物に近づいていく。すると、建物の周りで黒い小さな点が舞っているのが見えてきた。心に芽生えた好奇心が外へ出ようとして声が漏れる。


「あれは、なんだろう?……」


 心の中で、好奇心と心地よい歩きの天秤がゆれる。


 そして、私は青に包まれた空と黄金色の波と不思議な舞を見ながらゆっくりと歩いていった。


 遠くから見えた黒い点は、空を舞うために生まれてきたかのような、流線型の体にまっすぐに伸びた翼。


 それは無数のツバメだった。


 まるでレースのように競い合いカーニバルのように編隊を組んで空と大地を繋ぐ大きなループを作っていた。

 私は古めかしい建物の横に着き、ツバメたちの舞を見上げる。


 無数のツバメたちは東側の流れるような屋根に沿って斜面を急上昇し、西から来る風に乗って舞い上がるように高くまで上昇した。


 空の頂点でゆっくりと弧を描きながら来た方向に向きを変えて急降下を始める。凄いスピードで急降下して地面すれすれに私の横を高速で駆け抜けていく。そして、高速でユーターンして、また流れるような屋根に沿って急上昇する。


 無数のツバメが高速で私の両サイドを駆け抜ける。

 あまりの速さにツバメを目で追うことができない、その場で立ち止まって妖精のような彼らの舞に目を奪われていた。


 ツバメたちは、競い合うように、遊ぶように、いろいろな角度で飛び、いろいろな頂点でゆっくりと回り、私の側を、まるでスラロームの棒を回避するように避けながら飛んでいた。


 彼らにとって私は遊具のひとつになっていた。


 私はツバメたちの舞を見初めてどのぐらい時間がたったのだろう、時を忘れるほどの見つめていた時、無数のツバメが私を中心に回り始めた。その瞬間、私の心は体を離れ一羽のツバメとなって飛んでいた。


――あそぼう、ねえ、あそぼうよ。


 無数のツバメたちに誘われ、私は力いっぱい羽ばたき彼らに追いつく。そして、屋根を駆け登る。屋根が途切れた瞬間、私の体は上昇気流に包まれ高く高く、高く高く登っていく。


まるで、空の彼方の雲の上に行くように登っていく。そして、ふわりと綿の上に乗ったようにゆっくりと飛んでいた。下を見ると、遥か下に小さな私がこちらを見ていた。


 そして急降下、大地に向かってぐんぐん、ぐんぐんスピードを増して急降下する。(あ、危ない)と思ったその時、大地が流れるような速さで私の下を流れていた。


 前には人間の私が立っている。人間の私を流れるようなスピードで回避した。新雪の急斜面を滑り降りるスキーヤーのようなわくわく感とスリルが私を包み込みむ。(楽しい!)そして、また屋根を登る。


 いろいろな角度で空を登り、いろいろな高さでゆっくりと回り、いろいろな方法で人間の私を避けた。変化の激しいスピード感、上昇気流に包まれて空へ、高みでの浮遊、回避のスリル、こんなに楽しい時間が有る事を知らなかったように、幾度と無く空に登って遊んだ。

 西の空に日が落ちてきた頃、ツバメたちが。


――もう帰る時間だよ、今日は楽しかったね。


 と、口々に挨拶をしていた。私も(楽しい時間をありがと――)と呼びかけた。そして、ツバメたちは元の私を中心に回り始めた。私もその輪に入った瞬間、私は人間の私と重なり、ツバメたちを見ていた。


 ツバメたちは私の周りから徐々に離れ、日が落ちた西に向かって飛び去っていきました。ツバメたちを見送りながら、彼らと過ごした時間が楽しくすばらしい体験であったこと。そして、もう別れなければならない寂しさを胸に、目に一杯の嬉し涙をためながらツバメたちを見送っていた。


 私の心にダイヤモンドにも負けない輝きの思い出ができた。

 歳をへた今も、その輝きは変わらずに心の中で光っている。



(了)

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