第7話 地底国の滅亡と決断
所長が織田首相に報告書を手渡した帰り道の事であった。
またしても、少し大きめの地震が起こった。
『ガタガタガタッ! グラグラグラッ! ドーン! ドーン! ドォォォオン!………・・・』
頭上から数個の岩が車に落下して来たが、運よく直撃は免れた。
だが、その地震こそが、数日後に起こる大地震の前震であった。
『危なかったな。これは詳しい分析が必要だな……』
研究所に戻った所長は、早速、地震の波形分析を担当者に指示し、自らも確認する必要があると判断した。
「所長、すみません。記録用チャート紙の交換がされていなくて、数日間の波形記録が見つかりません。それと一部水に浸かってボロボロで読み取れません」
それは、一ヶ月半は記録できるはずだったが、チャート紙の紙切れと水の浸かりで、波形データーは取れてなかった。
「なんだと! どういう管理をしているんだ! 交換用のチャート紙は、すぐそこにあるじゃないか」
そう言って、チャート紙を手で払い投げ捨てた。
折りたたみ式のチャート紙は、ばらばらと捲れ床に広がった。
「いったいどうなっているんだ。怠慢も甚だしいぞ! 至急、他の地震研究所に連絡し、波形データーをこちらに送るよう手配しろ!」
所長はずさんな管理を怒り、悔やんだ。
まもなく、他の研究所から数週間分の地震の波形データーが届き、早速分析に執りかかった。
「なんだ、この数値と波形は……P波とS波は異常値じゃないぞ。これはおかしい?」
それは、一日の平均値を表した大雑把なデータ―だった。
「これでは正確な判断は出来ない! もっと細かい秒単位のデーターを持ってきてくれないか」
「すみません。すべてのデーターは届いていたのですが、より見やすいデータ―が好いのではと、勝手な判断をしてしまいました」
所員は急いで、その緻密なデーターを揃えた。
所長は急いで、そのデーターを見て確信した。
『こ、これは……やはり倍以上、地面の上下動があるぞ』
「これを見ろ! 時折、S波が大きく振れているぞ。このままでは、近いうちにこの地底国は崩壊するぞ!」
それによると、地面は通常の倍以上、上下動していて、数日中に大地震がこの地底国を襲うという恐るべき分析結果だった。
「なんという事だ。至急、織田首相に連絡しなくては……」
所長は即、首相官邸に赴き、警戒レベル2の緊急事態発生と報告した。
「こ、これは間違いないのか?……よしっ、全閣僚を集めろ!」
一時間後、所長も参加しての、緊急対策会議が行われる事になった。
「諸君、容易ない事態だ。おそらくあと数日中にこの地底国は、大地震により周りの岩盤は崩落し、押しつぶされるだろう。
したがって、地上へ移住、いや脱出するのだ! 調査報告書によると、時空間移動装置内のトンネル内には、三つの地上への入り口があるそうだ。
どのコースを選ぶか、率直な意見を言って貰えないか」
すると、一番に防衛大臣の郷田が、意見を言いだした。
「私はあの報告書から推察すると、左側の入り口は我々の力は通じない。
結論として、右側の入り口が妥当だと思う。なぜなら先発隊として、もうすでに500台の戦車隊が、すでに地上に到達し制圧しているという事だ。
したがって、その後に続けば、すんなりと移住できるはずだ」
郷田は右側のコースを推奨した。
「やはり君の命令か! 独断で1000台もの戦車隊が秘かに時空間移動装置に入ったと報告が来ているぞ。しかもあっさり負けて、撤退したと聞いている」
織田首相は鷹派だったのだが、郷田をきつく問い詰めた。
「あーあれはこの日を想定しての軍事訓練で、左右の地上への入り口の調査を兼ねていたのです。おかげで左側の入り口は散々な目に遭いましたが、半分の500台は右側の入り口を選び成功したという事ですよ。ですから足がかりは出来ていますし、感謝してもらいたいぐらいですよ」
郷田はそう反論したが、実際、戦車隊は左右の入り口でどちらを行くべきか決められず、結局半分は左、半分は右に行ったという事実は伏せた。
田島所長は、郷田の意見に異議を唱えた。
「それなら、いまだに500台もの戦車隊は、なぜ戻って来ていないのですか? 私としては左側も検討したのですが、あなたの間違った地上攻撃で、とても移住させて下さいと、今さら頼めません。
それに、左側の地上は千倍もの人口と、技術と科学力もありますが、16400発もの核兵器が存在している世界では、移住できたとしても、我々の祖先と同様、滅亡が近いと思われます。
したがって、私は直進する事のみ、本当の地上世界に辿り着けると信じます。
結論として、左右の入り口は異次元世界への道で、まやかしの道であると考えます」
所長は左右の道ではなく、直進の道を行くべきと進言した。
「ばかなっ! まっ暗闇のトンネルに入ると奈落の底に落ちるぞ。なんなら、国民投票で決めるか?」
郷田はあくまでも、右の入り口を推奨した。
「郷田大臣、この国を分断させるつもりか? 今は冗談を言ってる場合じゃないぞ!」
首相は郷田を窘めたが、意見は右か直進かの二つに分かれ、齟齬な状態となった。
『いったい、どっちを選び進めばいいんだ?……そうだ、やはり田島所長ならきっと正しい道を選んだはずだ』
首相は迷った結果、所長の意見に賭けようと思った。
しかしその時、一段と大きい直下型の地震が閣議室を襲った。
『ドドドドドドッ! ガタガタガタッ! グラグラグラッ! ミシッ、ミシッ、ミシミシッ! バキッ!』
壁は罅割れ、天井の一部も落下した。
「地震だ―、逃げろ!」
閣僚達は慌て、一目散に逃げ出した。
警戒レベル2が発令されていたものの、すでに時間的余裕もなく、地底国の崩壊は近づいていたのであった。
それは、この地底国の危急存亡の時が訪れ、滅亡は避けられない運命だった。
数時間後、織田首相は苦悩の中、この地底世界から緊急脱出を決め、全機関車の準備を急がせた。
そして、警戒レベルは2から最終段階の脱出を意味する1に引き上げられた。
『ウイン・ウイン・ウイン・ウイン・ウイン・ウイン!』
パトランプと緊急警報が、地底国全体に鳴り始めた。
「慌てるな! 速やかに脱出作戦開始せよ!」
織田首相から全国民に向け、脱出指示が発せられた。
「健、博美、脱出準備を急げ! いつ大崩落が起きてもおかしくない事態だ」
所長は全所員にも脱出指示を出した。
「所長! どの道を行くのですか? 織田首相からの決断は出たのですか?」
健と博美も気になっていた。
「直進のみだ!」
所長は迷う事なく言い切った。
『だが、この脱出作戦は、相当危険を伴うはずだ……が、やるしかない』
まもなく、織田首相は所長の意見を取り入れ、直進と決め全閣僚に指示した。
しかし、防衛大臣の郷田だけは500台の戦車隊を率いて、右側の道を行こうと決めていた。
『馬鹿な連中だ。もう先発隊の500台と、今から行く戦車隊で合計1000台だ。余裕で地上を侵略出来るぞ……』
『ふっふっふっふっふっ……』
郷田は薄笑いを浮かべた。その結果、彼らには恐るべき事が待ち受けていたが、この時点では、まだ解らなかった。
時空間移動装置がある山には、民衆が地上への脱出の為、あちこちの都市から続々と集まって来た。
時刻は午後六時を過ぎ、熱光源は停止したが、高温の余熱で後四時間は、待たねばならなかった。
キャタピラー装着したすべての搬送機関車も、人々と物資輸送の為、その周辺に集められた。
『ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
「順次、急いで乗り込み開始せよ!」
まもなく、人々は機関車に乗り込み出発する事になったが、焦りと不安は隠せなかった。
動物達や鳥達も専用の貨車に移動させ、まさにノアの箱舟のような光景だったが、時間的余裕はなくなっていた。
『ドドドドドドッ! ガタガタガタッ! グラグラグラッ!』
地震はさらに、頻繁に起き出した。
そして上部の岩盤はひび割れ、時折落下し時空の穴付近にも落ちて来ていた。
『ドドドド! ドォォオン!』
『これは本震が近いぞ! 急がねば……』
所長は崩落が近いと判断し、脱出準備を急がせる事にした。
「きゃーっ! 押さないでー」
「岩が落ちて来てるぞ! 何してる早く乗れ!」
人々も我先にと乗り込みだし、パニックとなっていった。
「急げ! もう、猶予はないぞ。 岩盤の亀裂が次第に大きくなっている。健と博美はジュピター1号機で、先頭に立って首相達と民衆をまっすぐ誘導してくれないか? もちろん、ブルドーザーも同行させるからな」
しかし、健は民衆達の乗る搬送機関車が心配だった。
「軸受けの交換は済んでいるのですか?」
「もう間に合わない! だが、片道ぐらいは持つはずだ」
「そ、そうですか……」
「もし、進路が塞がれそうになれば、ドリルもしくは大砲で破壊し進路を確保してくれ。
私は時空の入り口を岩から守らなければならないから、少し遅れると思う。が、迷わず先導の任務を遂行するよう頼むぞ」
所長達は数台の装甲車に乗り込み、時空の入り口の障害物を大砲で破壊していた。
『ドン! ドン! ドン!』
「いいか、武器はこういう時に使うのが、理想だ。いや、本当の使い方だぞ!」
数十台のブルドーザーが邪魔な岩をその都度排除し、通り道を確保していた。
時空の入り口周辺は、機関から出る黒煙で次第に曇って行ったが、ある程度は時空に吸い込まれていた為、影響は少なかった。
一方、防衛大臣の郷田の戦車隊500台も続々と集結し、さっさと時空の穴に向け進行していた。
『シュッ! シュバッ!………・・・ガチャッ! ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
「いいか、まもなくだ! 我々500台の戦車隊は迷わず右に進路を取れ! すでに先発隊の500台が地上で待っているはずだからな」
郷田は武力で地上を制圧しようと思っていた。
「この地底国の崩壊を予知できなかったリーダーには、まったく付いていけない。わしこそが真のリーダーだ。高温の余熱など問題ない。分厚い装甲が守ってくれるはずだ。さあ、付いて来い!」
「皆、聞いたか、いよいよだ!」
郷田と木場隊長の声は、広範囲まで届いた。
『シュッ! シュバッ!………・・・ガチャッ! ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ! ピカッ! シュバッ! キュルキュルキュル! ゴーッ!………・・・』
戦車隊は次々と、目映い閃光を発しなら、轟音と共に、渦巻く時空に侵入し、キャタピ
ラーは地面から離れた。
時空に侵入すると、やがて、三つの入り口でもある、あのY字路が見えてきた。
それは、直進の道はまっ暗闇で、三差路には見えず、まさしくY字路にしか見えなかった。
「よし、右だ!」
木場隊長の号令と共に、全戦車隊は右にハンドルを切り右側に進路をとった。
『シュッ! シュバッ!………・・・ゴーゴーゴーッ!』
所長も郷田達に遅れを取ってはと、緊急脱出の指示を出した。
「よし、緊急脱出開始せよ!」
「今の聞いたか? 博美、我々も早く民衆達を先導して、進まないと遅れを取るぞ。でも、凄いじゃないか…いつの間にか二人乗りに改造されているよ」
所長は健から聞いていたLED電球を見た際、それに刺激を受け、さらに改造していたのであった。
健は博美と一緒の為、内心喜んでいた。
『ドドドド! ドォォォオン!』
「やばい、まだ時空入り口の余熱は高いが、もう待てない! すぐ出発するぞ。ヘッドライトオン! ドリル低速回転オン!」
『ピカッ! ピカッ!』
LED電球の白色光が、遠くまで届いた。
「凄い! 昼のように明るいわ。この車内も前のより比較にならないほど明るいしね」
博美も驚いていたが、ボイラーの温度も上がり発進の時が来た。
「よし、機関異常なし! 蒸気圧力最大で即、発進だ!」
健はレバーを前進に入れ、加減弁を引き上げた。
『シュッ! シュバッ!』
勢いよく蒸気が左右から出て、ジュピター1号機は発進した。
『ガチャッ、ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
キャタピラーは地面をしっかり踏み付けながら進み出した。
周りは機関から出る大量の黒煙で、非常に曇っていたが、まもなく、高温の余熱が全機関車を襲った。
「熱くなって来たが、きっと大丈夫だ。皆、後少しの辛抱だ。頑張れ!」
余熱が冷めるまで、二時間ほど早かったが、全員何とか耐えた。
「よし、時空の入り口が見えたぞ! ドリル高速回転開始!」
しばらく進むと、目映い閃光を発しながら、轟音と共に、渦巻く時空のトンネルに侵入し、キャタピラーは地面から離れた。
『シュッ! シュバッ!………・・・ガチャガチャガチャッ! ピカッ! シュバッ! キュルキュルキュルッ! ゴーゴーゴーッ!………・・・』
そして、先導のブルドーザーと民衆達の機関車も同じく侵入した。
まもなく、振動と揺れが襲ってきたが、気にせず一直線に飛行し進んだ。
『ガタガタガタッ! グラグラグラッ! ゴーゴーゴーッ!』
その内、七色に輝くY字路に見える三差路に到達し、時空の入り口が左右に見えてきた。中心部の入り口は真っ暗闇だったが、迷わず一直線にその暗闇の中に、全車両を先導し進んで行った。
「左右のトンネルは異次元への入り口だ! 一切無視し直進しろ!」
先導の1号機から全車両に再度、言い渡された。
「見ろ、最新型のLEDヘッドライトが、真っ暗闇のトンネル内を隅々まで照らしてくれているぞ。これはほんと助かったぞ。地上の所長に礼を言いたいぐらいだ」
『ピカッ! ピカッ!』
しかし、郷田達が率いる500台の戦車隊だけは、迷わず右に進路をとり、続々と進んで行った。
「馬鹿な奴らだ。右こそが我々が求めていた地上だ。あの真っ暗闇に進むと、奈落の底に落ちるぞ!」
そうして、郷田らは新たな異次元に入っていった。
『ゴーゴーゴーッ!………・・・』
健達が進行した時空こそが、本当の地上への出口だったのだが……
* * *
その頃、地底国では巨大地震が度々起こり、所長達はブルドーザーで落下して来た岩を破壊し排除していたが、地底国の最後は数分後に迫っていた。
「ドドドドドッ! ガタガタガタッ! グラグラグラッ!」
「崩壊が一段と進んでいるぞ。よしっ、我々も時空に突入するぞ!」
『シュッ! シュバッ! ガチャッ、ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
全車両が時空への入り口付近のトンネルに入った瞬間、ついに、断層が大きくずれた。
その為、本震でもある最大M9の直下型大地震が起こり、上空の岩盤が一斉に地底国の都市に落ちて来た。
『ドドドドドドッ! ドドドドドドッ! ドドドドドドッ! ドォォォオン! ドォォォオン! ドォォォオン!………・・・』
それは、地底国最後の崩壊だった。
当然、時空間移動装置の場所にも岩盤は落ち、一瞬に破壊され時空の穴は塞がった。
すると、地底の時空の入口付近から次第にトンネルも消えて行き、岩がその空間を埋め出したのであった。
左側の異次元でもある時空の裂け目から、21世紀に繋がるトンネルも、まもなく、消えゆく運命だった。
『ドドドドドドッ! ドーン! ドドドドッ! ドォォォオン!』
それは、所長達の乗った車両に着々と接近していた。
「急げ! 時空間移動装置が破壊され、後ろのトンネルが岩で塞がれて来ているぞ」
『シュッ! シュバッ!………・・・ガチャガチャガチャッ! ピカッ! シュバッ! キュルキュルキュルッ! ゴ―ゴ―ゴ―ッ!………・・・』
「やったぞ! 時空に侵入成功だ」
所長達の車両も、目映い閃光を発しながら、轟音と共に、渦巻く時空のトンネルに侵入し、まもなく、七色に輝く異次元でもある、三差路の左右の入り口付近に到達した。
『ここが運命の分かれ道のY字路か? なるほどな……やはり思った通り、あちこちに小さな亀裂が走り、内部から七色に輝く光が漏れているではないか。ということは、この場所の左右のトンネルは道ではなく、大きな時空の裂け目じゃないか。異次元に入るのは当然だ』
所長は自分の理論は、間違っていなかったと確信した。
「惑わされるな、直進のみだ!」
所長は時空のトンネル内を見渡した後、迷わず進路を一直線に取り暗闇を突き進んだ。
『ゴーゴーゴーッ………・・・』
一方、右に進路を取った郷田達戦車隊は、地上に接近したらしく、前方は少し明るくなって来た。
「やったぞ! あれは出口に違いない。全速力で突き進め!」
『シュッ! シュバッ!………・・・ゴーゴーゴーッ! キュルキュルキュル! ピカッ! シュバッ! ガチャッ、ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
目映い閃光と轟音と共に、キャタピラーが地面に接して、地上に出る事に成功したが、前方には火山が噴火し、マグマが流れ出してきているのが見えた。
『ドーン! バーン!』
「おう、これは間違いなく地上だ。見た事もない空も見え、森も林も川もあるじゃないか。あの小規模の火山噴火ぐらいは問題なさそうだぞ」
『シュッ! シュバーッ!』
「さあ、外に出るぞ」
着いた場所は小高い場所だった為、下を見下ろすと、平野が広がり遠くには密林も見えた。
「ここは湿気が多そうだ。異様にムシムシして暑いな……」
郷田達が、よくよく周りを見てみると、先発隊の戦車らしき物体が多数見えた。
「えっ、あれは……」
しかし、それらはすべて、破壊され錆つき朽ち果てた姿だった。
「どういう事だ。何が起こったんだ? 先発隊は全滅していたという事か?」
郷田達は訳が解らなかったが、その周りに散らばる人骨を見て、全員に驚きと恐怖感が襲ってきた。
「うわ―っ、ここは人骨だらけだ!」
『ドン……ドン……ドン……ドン!………・・・』
すると、なにかの足跡音が、次第に大きく聞こえてきた。
「な、なんだーあの音は? ここはやばいぞ。だが、いったい何処だ?」
やっと、この地上世界が、危ない世界だと気付き始めた。その時、
『ギャオーッ!』
彼らを、巨大な影が覆った。
『えっ、なんだー?』
すぐそばには、数十匹の肉食恐竜、ティラノサウルスが群がっていた。
それは人間を餌とする為、郷田達を襲って来たが、空からはプテラノドンが飛び交い、やはり人間を餌として襲って来たのであった。
「殺られてたまるか! 全戦車隊は攻撃開始だ。撃て!」
郷田は全戦車隊に叫んだ。
『ババババババッ! ドン! ドン! ドン!』
その弾丸は空と陸の恐竜達に向け放たれ、数匹に命中した。
『ギャオーッ! ギャオーッ! ギャオーッ!』
「おう、やったぞ! 続けて撃てー撃てー!」
しかし、恐竜達の数は多く、弾薬が切れるのは時間の問題だった。
そして、数多くの戦車隊は恐竜達に襲われ、体当たりで横倒しとなって行き、次第に戦闘能力は弱体化して行った。
「うわっ、助けてくれ!」
「逃げろ―食われるぞ!」
「退却だ!」
「逃げるな! 戦列を立て直せ!」
もはや、戦車隊の統率は崩れ無に等しかった。
「撃て、撃て、撃ちまくれ!」
郷田は慌てふためき、木場隊長や隊員達も逃げ惑ったが、もう時空のトンネルはすでに存在せず、後戻りも出来ない状態になっていた。
それは、二度と地底へは、戻れないという事であった。
「こ、これは……我々は道を間違っていたという事か?………・・・」
『ドーン! バーン! ドォォォオン!』
火山も次々と噴火して行った。
『こ、こんなはずでは………・・・』
結局、郷田達の五百台の戦車隊は、6000年前の中生代白亜紀の恐竜時代に入っていたのだった。
* * *
その頃、健達が目指した地上は異次元世界につながるトンネルでは無かった為、まもなく確実に出口に接近して行った。
「前方が少し明るくなって来たぞ。間違いなく出口だ。スピード上げて突き進め!」
『シュッ! シュバッ!………・・・ゴーゴーゴーッ! キュルキュルキュルッ! ピカッ! シュバッ! ガチャッ、ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!」
目映い閃光と轟音と共に、時空から無事脱出に成功し、キャタピラーが地上の地面に接した。
「やったー抜けたぞ!」
そして、そのまま前進し、出口から出る事に成功し、地上で所長達が来るのを待った。
『シュッ! シュバーッ!』
「急げ急げ! 追い着かれるな!」
一方、時空の破壊は徐々に進み、その消えた隙間には岩が入り込み、所長達に迫りつつあった。
「出口が見えたぞ。加減弁最大に引き上げスピード上げろ!」
所長達は、どんどん時空のトンネルが破壊されていたものの、何とか間に合い、地上への出口へと突き進んだ。
『シュッ! シュバッ!………・・・ゴーゴーゴーッ! キュルキュルキュルッ! ピカッ! シュバッ! ガチャッ、ガチャガチャガチャッ! ガチャガチャガチャッ!』
結果、所長達の車両も閃光と共に、消えゆく時空のトンネルから抜け出し、キャタピラーが地面に接し、無事、地上へと脱出に成功した。
「やったぞ! ここは間違いなく地上だ。しかし、危なかったな。後少しで時空の破壊に追い付かれたかもな?」
後ろを振り向くと、もうすでに渦巻く時空のトンネルは消滅し、岩のみ存在していた。
それは、二度と地底へは、戻れないという事を意味していた。
「シュッ! シュバーッ!」
全車両からは織田首相ほか人々が順次降りはじめて、お互い握手したり抱き合ったり喜びの歓喜をあげていた。
健と博美も1号機から降り、所長達と再会した。
「心配していましたが無事で何よりです。この地上は我々の求めていた世界ではないでしようか?」
健は、すがすがしい空気を吸い大きく深呼吸した。
「ふ― こんな美味い空気を吸ったのは初めてです」
「その通りだな。そうだ、織田首相が礼を言いたいそうだぞ」
所長は健と博美を首相に合わせた。
「君達の活躍で、祖先がいた地上に出る事が出来た。本当にありがとう。おそらくこの新世界の地上にいるのは我々だけだろう」
織田首相も新鮮な空気を思いきり吸っていたが、蒸気機関の黒煙が気になった。
「しかし、この黒煙はなんとかしないと……」
「でも昔、ここで核戦争が起こっていたなんて、とても信じられないですね」
健はもう二度と同じ過ちは犯してほしくないと、強く進言した。
「そうだな、ここは異次元では無く、間違いなく祖先が住んでいた世界だ。が、50万年の時が有害物質を除去し、理想の環境を取り戻していたんだと思う。
しかし、これからこの環境を維持するのは大変だぞ。なんせ、また同じ人間が住む事になるのだからね」
『…………』
鷹派的な首相は少し悩んだ。
「大丈夫です。私達がこの地上を守ります」
博美は健の手をしっかり握り言いきった。
「そうだな。君たち若い世帯が居たんだったな」
首相は若い世帯に未来を託した。
『しかし将来、過った指導者が出てこないとも限らないからな? 残念ながら人間は非常に知的で知性にもすぐれ、あふれる愛情表現も豊かという利点があるが、故に過ちを繰り返すという悪いDNAが永遠に引き継がれている。それだけが私は心配だ………・・・』
織田首相は内心思った。
彼らの目の前には、富士山らしき高い山があり、広大な草原と湖もあり、様々な花と蓮華の花が咲き乱れ、木々からは果物の果実の甘酸っぱい香りが漂っていた。
動物達や鳥達も、貨車から降ろされ放たれた。
そして、喜び勇んで飛び出し、草原に向け走り去った。
後に膨大な海も発見され、山や海から齎す豊富な幸で、より恵みを受ける事は間違いなかった。
まさに、ここは楽園的な世界だったのだ。
さらば地底世界、自然が溢れる地上よ永遠に………・・・
〔了〕
地底からのメッセージ 朝田 昇 @a777hmts
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