第3話千榛と言うしょーじょ
やられた。もしくは殺られた。
またもや。またしても。再び。再度。……どの言葉を尽くしても出てくる言葉は“連敗”
何度目の黒星か、だなんて数えると悲しくなってくる。本気で。
千榛めええぇ…!と中学二年生のうはうは女子ライフの本日の一ページもこうして目の前のそっくりさんもといドッペルさんにぼこぼこにしてやられた。いや基本千冬が勝てる相手なんてそうそういないけれども。勝てるのは持ち前のお祭り根性とテンションの高さだけだけども。
………何か問題でも?
「千榛ううううううぅ…!これ、何入れおったきさまぁあああ…!」
「七味」
「んんんんんああああああ…!それ以外も入れただろおおおおお!なぜだあああああんああああああ……っ」
「二次元任せに定評のある俳優さんみたいになってる千冬可愛くない」
賭博負けよろしく。死んじゃうノート拾った新世界の神よろしく。弱肉強食を謳う包帯マンよろしく…と言うかそれらを見事演じきる某俳優さんのように千冬は世を嘆き悲しみ恨みながらコップを握りしめて訴えたのだけど。
対面に座るマイペース飄々な千榛にはもれなく効果はなかった。イエスノーダメージ。千冬には大ダメージ☆
大袈裟に言うならば頬こけた青白い顔で怨霊だってドン引きしてくれそうな空気を醸し出して見ているのだけれど全くなにも。千榛の表情に変化はなく。
千榛と言う転校生はいつでもどこでも無表情だ。冷淡、淡白、飄々と言った表現がよく似合う。ちはる、だなんて響きだけで言うなら春風愛らしく……な印象も抱いていたのに違う。全く違う。
しかも味覚もおかしい。あの舌は自分と同じ構造なのだろうかと本気で疑ってしまうレベルだ。レベルマックスだ。所謂チートと言うやつだ。
「おしょーゆ」
「は?」
「いや、だからおしょーゆだよ。七味以外にいれた美味しい調味料」
………いや。
いやいやいやいやいやいやいやいや!いくらチート様でも!日本の宝であらせられるお醤油さまを!戯れに!使用するとは如何なものか!
がったんっ!と机に手をついて勢い良く立ち上がり千冬はびしぃっと千榛を指差した。犯人はあなたですね奥さん!と自信満々な探偵さながら。
「食べ物で遊んじゃ行けませんって教わらなかったか千榛っ!しかもお醤油!日本の宝!おっけえ?あんだすたん?」
「諸々におかしい日本語使いの千冬に言われても……じゃあ日本語は日本の宝じゃないんですか?って言われたらどうするの?千冬」
「うっぬぅ…!確かに?確かに日本語上手じゃないって言うのは認めるけども……!」
「田舎のお袋さんが悲しむよ。きちんと学校で日本の宝、日本語をマスターしなきゃだね、千冬。頑張ろうね」
「……はい、刑事さん…」
「わかったら座んなさい」
静かに、諭されるように、そう言われた千冬は泣きそうになる情けない気持ちを堪えて「はい…」と静かにその場に腰を降ろした。
ぐすっと鼻をすすり、今後を改める。そうだ、田舎のお母さんが悲しむ。そんなのはいけない。
これからきちんと真面目に授業を受けよう。そして正しい日本語をマスターしてお母さんを安心させるんだ…!
そんな尊い決意を固めて、千冬はウインドウから涙に滲む夕日を仰いだーーーーー。
「ーーーーーってバカああああああっ!騙されるか流されるか千榛ううううううううう!」
「………」
「無視したらいけませんってお家の人に教わらなかったかーーーー!」
氷室 千榛と言う人物はまだまだわからない。
ただ油断すると平気で人を喰う。そんな奴だ。
ドッペルさん。 雨神 @manjusyage
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