第2話千冬と言うしょーじょ
小日向 千冬(こひなた ちふゆ)と言う中学二年の少女は一言で言えば「元気」悪く言うなら「喧しい」の部類に属する。
彼女が何かしらに関わればもれなく静寂は騒音に変わり、お通夜は祭りに変わる。そんな感じ。極端に言えばそんな感じ。
「ちょい待ちなあ?千榛さんよぉ?その評価はいかがなものかなあーーーと千冬さんは思うんだけどぉ?」
「炭酸愛好家って得てしてやかま……元気良いよね」
「謝ろうか?全国の炭酸好きさまたちに謝ろうか?即ちこのあたしに謝りましょーか?さあさあさあさあ‼」
「ごめんなさい千冬以外の炭酸愛好家さま」
「何故あたしを除外した。この炭酸オレンジを一滴いれてやるぞおいっ‼」
「うわやめて。ストローをスポイド変わりにしないで。ストローはそんな宿命を背負っていないから」
「ストローが己が業から外れたのは千榛が素直に謝らなかったからだ‼」
「じゃあ私も復讐する」
「!ああああああああああああああああああああああああ‼炭酸オレンジが深みを増した‼七味なんか入れるなあああああああああ‼」
対面に座る千冬がにっひぃ、と嬉しそうに少し身を乗り出してストローをスポイド代わりに炭酸オレンジを千榛の飲み物に入れた。……と、同時に千榛だって黙っている訳がなく。七味を千冬の炭酸オレンジにすかさずイン。
つまりはカウンター攻撃。ボクシング的に言えば「強烈な一撃が入ったああああ!」である。
ぐぬぅ…!と少年漫画のヒーロー顔負けよろしく千冬の顔がくしゃりと悔しさに歪み、ストローをぎゅうっとその手で握りしめる。千榛的にはざまあみろの領域。
一滴くらいでは痛くも痒くもない、でも気持ち的には嫌な気持ちにならなくもないそのジュースを、しかし某ちびっこ向け番組のおばちゃんが脳内で「お残しは許しまへんでえええええ‼」とお怒りなので仕方なく飲む。ちゅーっと飲むその未体験ジュースの味に炭酸オレンジと言う敵の姿は特に見られなかった。
さて、見ものは千冬である。これまで散々スープの類いやら緑茶紅茶果てはココア等々をその炭酸オレンジの中にぶちこんでやったが、王道の七味はまだ未体験。
彼女の性格上、必ず飲み干す。キングオブ負けず嫌いだから。
直ぐに意地になって、きっとコップに手を伸ばす。氷の力できんっきんに冷えたそのコップを。
「……~~よっしゃあああっ‼飲みますよ⁉飲んでやりますよ⁉あとで骨拾ってね千榛‼」
「やーだー」
「だるっだるにやーだーとか言うのはなーしー‼同じイントネーションでいって差し上げますけどなーしー‼七味入れたのは千榛なんだからよろしくいただきまーーーす‼」
立ち上がる勢いで千冬は腰に手を当てて、お風呂上がりのいっぱいぷぅはあ‼よろしく七味入り炭酸オレンジを喉に流した。ごっきゅんごっきゅんと動く喉を露にするその姿は花も恥じらう乙女とは程遠い。
小日向 千冬と言う少女は、やかましい。元気。負けず嫌い。必ず言葉を返す。
まだ三ヶ月と言う短期間の付き合いでも千榛はこれだけの性格を彼女に認識した。
そして予想も出来る。飲み干したあと、KO負けした選手よろしくテーブルに突っ伏すんだろうなと。
近い未来を想像して、確信した千榛はいつものことに動じることなく、自分のジュースをストローで啜った。
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