ドッペルさん。
雨神
第1話 嗚呼本日もドッペルさん。
この町にはドッペルゲンガーがいる。
古びた田舎町。上り坂の多いアスファルト。
木は間隔を置いて植えられ、今は七月。あちこちのプランターには紫陽花の名残。艶々とした向日葵の成長。
所々色褪せた歴史あるおもちゃ屋。立ち並ぶ八百屋、肉屋、地域でしかお目にかかれないようなコンビニスーパー。
人口密度の高くない独特の風景がこの町の魅力で。右を見ても左を見ても見慣れた顔ばかり。
その中にーーー少女たちは色濃かった。
道通りに並ぶファミレス。そこに、夕方にはお馴染みの光景は繰り広げられる。
ぴんぽーんっ♪と注文が決まりましたよ来てくださいお願いしますー!な呼び鈴を鳴らしたのは無表の方だった。
そしてそれにお怒りになられるのは表情豊かな方。
ファミレス、出入り口から真正面最奥の席。
もはや指定席と言っても過言ではないほどに度々訪れているその二人こそ、このちいさな町の名物。
ドッペルゲンガー。
「何してくれやがりましたかね千榛(ちはる)うううう!?千冬(ちふゆ)さんまだ決まってないよ!決めてないよ?」
「千冬どうせいつもと同じもの頼むからべつに良いと思うよ?巷で千冬が何て呼ばれてるか知ってる?マンネリ化だよ」
「そんなお話しりませんんんん!あたし聞いてないよそんな影口にはストーーップかけてくれますわよ!影口カッコ悪い!」
「影口じゃないよ最早愛称だよよかったね千冬愛されてるよ」
「抑揚なくノンブレス(息継ぎなし)で捲し立てられても嬉しくないわ!嬉しくないわ!え?愛称なの?じゃあそれ影口じゃないねごめんなさいだわ前言撤回だわ」
「お花畑千冬」
「それは悪意だな流石にわかる」
翡翠色の髪。その色に少し影を落とした色の瞳。肩まで伸びた髪。
そしてーーーー同じ顔。
彼女たちこそこの町有名のドッペルゲンガーそれだった。
千榛が転校してきたのは三ヶ月前。中学二年生ほやほやだった爽やかな日だった。
「こんにちは、ドッペルさん」
それが彼女の第一声だった。いやいやいやいや、そこはまず「はじめましてじゃないのかよ」と大絶賛心と声で盛大にツッコミを入れた記憶はひたすらに苦い。田舎校でクラス替えもないとは言えやっぱり羞恥は働く。羞恥くらい千冬だって持っている。
そこからたちまち噂はひろがり、狭い地域にあっさり認識された。
生き別れた双子?
いいえ違います。
影口を言っても消えない。
出逢ったからと言ってお亡くなりになってしまうわけでもない。
特に何の害もない、笑えるくらいに顔だけそっくりなドッペルゲンガーでございます。
「あ。千冬は炭酸オレンジと、ポテトで。私は紫蘇エキス配合のキャベツレタスなストロベリージュースを」
「何それ!そんなのメニューにあった?て言うかよくそんなの飲む気になったな千榛‼貴女が勇者か‼」
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