第34話
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あの一件以来、更に言えば灰屋君と話してから尚更、私は輝に声を掛ける事ができなくなっていた。
あの日、あの夜、月すら出ていない、街灯だけが照らすあの公園で、私は輝との距離を確実に縮めたはずだった。物理的にも、心理的にも。それが逆に私と輝との距離を遠ざけてしまった。物理的にも、心理的にも。
でも、以前の、輝への想いを自覚したときとは違う。正確には、輝に近付かないようにしていた。
――俺が見る限り、輝は葉多ちゃんのこと、かなり好きだと思うんだけどなあ――
灰屋君のその言葉が、真実であればいいと思ってしまった。
だからこそ、輝に近付けない、近付いてはいけない。誰かから奪ってまで、この想いを果たしたい訳じゃない。
嘘。
町村さんから奪ってでも、輝を手に入れたいと思ってしまった。輝が、町村さんではなく、自分を選んでくれればいいと、そう、願ってしまった。
もし今輝の近くにいれば、その想いを止められない。
そんな事を自覚したくなくて、そんな自分を知りたくなくて、私は目を背けた。
だから今、視線の先にいる輝を見て、私は踵を返した。
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「この時間に寝てないの、珍しいね」
町村はそう言うと、俺の向かいの席に座る。
「で、何がしっくりきたの?」
「何でもないよ」
まさか、自分の横に萌実がいる事・・・・・・なんて言える訳もなく。
「輝さ、明日の夜空いてる?」
「ん?空いてる、けど・・・・・・吞み?」
「うん、まあ、吞みっていうか、食事っていうか。まあ、吞みか」
自分で聞き返しておいてなんだが、正直その答えには驚かざるを得ない。何せ、町村とは一度として吞みに行った事などない。二人でどころか、グループですらないのだ。
「でも、町村って家が厳しいんじゃなかったっけ?」
町村は実家暮らし、加えて一人娘。箱入りとまでは言わないにしても、門限やら外泊禁止など、このご時世二十歳を過ぎているにしては多少過保護な気もするが、そういう家で、町村自身が受け入れているのだから、俺が口を挟む事でもない。
「あー、うん、そこは大丈夫。えっと・・・・・・まあ、それについてはその時に言うね。取り敢えず、四限行こう?」
「おう・・・・・・」
色々と引っ掛かる点は無いでも無いが、明日には話すと言う手前、無理に今聞き出す必要もない。俺は荷物を持つと、町村に続きカフェを後にした。
月の影 舘口継人 @tgt_ttgc
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