第33話

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「……それで?」

「それで、とは?」

 僕は大川さんと朝のカフェでテーブルを挟んで向かい合って座っていた。講義が始まるまでは僕も大川さんもまだ時間には余裕がある。

「すっとぼけないでください。あの盗撮写真、どう使うつもりなんですか」

 大川さんはカフェで提供している朝食セットのトーストを齧ると、ニヤリと笑って肩を竦める。

「大川さ――」

「るーりーさーんー」

「……瑠璃さんにしては、何かするにしては初動が遅くないですか」

「おお少年、君も私のことなかなか分かってきたではないか」

 大川さんはからかうように言うとそれ以上何かを言う素振りすら見せず食事を続ける。

「そういうのいいですから。で、何がしたいんですか」

「いやぁ、私だって悩むことはあってだね」

「とはいえ、瑠璃さん的にはどうせ幾つか候補はあるんですよね」

 この人が悩んでいると言ったって、それは“どうすればいいか”ではなく、“どれが最善か”なのだろう。剽軽に見えても、実際は恐ろしく頭がいい。既に例の写真の活用方法は考えついていて、だからこそ写真を撮ったのだろう。そういう人だ。

 しかし、そこまで言ったところで、大川さんはそれ以上何かを言うことは無く。これ以上何を訊いたところでそれらしい答えが返ってくるとも思えず、軽く溜息をつくと、僕はコーヒーに口をつけた。


****


 先週の時点でテストは大方終わり、本来なら大学も夏季休業に入っているのだが、レポート課題の提出期限に関しては八月上旬までのものが多く、追い込みを掛けようとまだ学生で賑わっている。そう言う俺はレポートなどとうの昔に終わらせてはいるものの、教授の事情で二、三度休講になった英語の補講なるものに出席するためだけに、大学に来ていた。

 いつもならこういう空いた時間には寝ているのだが、篤人の“取り調べ”以来、無駄に色々と考えてしまう。

 あの場は取り敢えず篤人の追究を逃れたものの、自分でもよく分からなくなっていた。

 付き合い始めは、篤人の言う通りだ、一方的に向けられた好意を受け入れた。町村の事を自分がどう思っているのか。考えた事も無かった。その時点で間違いなのかも知れない。


――それなら逆に。俺は萌実の事が好きなのか?――


 スマホの写真フォルダをぼんやりと眺め、その中の一枚を選択する。いつだったかのデートの時に撮った、町村とのツーショット写真。画面を落としうずくまる。目を閉じて頭の中で写真の中の町村を萌実に置き換える。

 しばらくその画を思い浮かべると、俺はふぅと息を吐きながら目を開ける。

「・・・・・・しっくりきちまうのが、なあ」

「何がしっくり?」

 思わぬ声と、突然目線の先に現れた顔に、驚きを隠せず顔を上げる。

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