才あるバカの、すべきこと

@touyamaus

Prologue:Rebirth of the Philosopher

 5月3日、薄暗い部屋で少年が一人ベッドの上で頭を抱えながらでうなされている。本来彼、土雲令作つちぐもれいさくの頭髪は黒一色のはずだが、所々、徐々に白くなり始めていた……


 数時間前のこと、令作れいさくは帰宅してリビングに入るやいなや、この一言に出迎えられる。

「「「「「ハッピー・バースデイ!!!」」」」」

 誕生日になぜか叫ばれるその掛け声を発していたのは、彼の両親と、隣の家に住む照波てるなみ一家だ。

 反応できずにぽかんとしていると、

「誕生日おめでとう、令作」

 と言いながら父親が彼の胸ポケットに1つの小さな箱を滑りこませた。

「うぉっふぉ…… そっか、今日俺の誕生日だっけ。いやー、ハハハ、忘れてた。覚えててくれてありがとう、父ちゃん、母ちゃん。それに照波さん達まで、ありがとうです。」

 そう謝辞を述べている間、後頭部をガシガシ掻いていたのは仕方のないことだろう。なにせ誕生日を忘れているのは毎年恒例になってしまっているのだから。

 それからは夕飯を食べながら思い出話に花を咲かせ、ゲーム・映画などを嗜むうちに夜もふけ、やがて解散となった。随分と雑な要約だが、特にこれといったことがなかったのだから致し方ない。ちなみに夕飯は令作の家族である土雲家が用意していた普通のカレーライスと、お隣さんの照波家が持ってきたインドカレーというものだった。インドが何を指すのかは不明である。


 午後11時、部屋に戻った令作はベッドの足元まで来ると、ふわっとジャンプをしてうつ伏せの大の字で布団に着地した。枕に埋まっている口からは、長い長いため息が漏れている。16才の1日目の夜にしては低すぎるテンションには、とある理由があった。

 今年の4月から高校一年生として暮らしている令作だが、中学時代と比べても生活内容に根本的な変化がないことに苛つきと諦念を募らせていたのだ。朝起きて着替えて歯を磨く。朝食をキッチンのギデンから取り出して、急いで食べ終わったら家の前に停まっているフローターに乗って学校へ向かう。学校ではろくな授業もなく、バカをネタにいじられながら日替わり全校参加イベントをひょうひょうと過ごし、放課後はどこかのテキトーな部活に仮入部する。帰宅時間になればまたフローターに乗って帰宅し、夕飯を食べ、部屋に戻り、タブレットでメッシュを周回したのちゲームをして、眠くなったら寝る。

(繰り返しの毎日、何か変わんないかなぁ)

 なんて心のなかで願ってしまうのは、とても自然な反応だと言えよう。


 ふと胸のあたりに違和感を覚えた令作は、胸ポケットの小さなプレゼントを思い出した。

(そういえば父ちゃんになにかもらったな。今開けるか)

 うつ伏せから仰向けに寝返り、例の小さな箱を手に取る。

(随分古臭いな)

 箱の表面は令作の見たことがない素材で、しかも擦り傷でうめつくされていた。小さくてランダムな多角形がランダムに組み合わさった焦げ茶色の模様が見て取れる。とにかくなんとなく古臭い。しばらく仰向けのまま頭上で回しながら眺めていたが、外面に飽きて中身に興味が湧いたのか、今度は比較的腕に力の入る肘を立てたうつ伏せに再度寝返った。

 箱を一周している隙間を水平にし、下部と上部それぞれを両手の指でしっかり持ち、上下に引っ張った。しかし、少しも開く様子はない。令作は一瞬めんどくさそうな表情を浮かべるも、それはすぐに挑戦的な笑みへと変わった。

「ふんッ!」

「ほッ!!!」

 と瞬発的な力を込める度に、隙間が広がっていく。何度目かにとうとう開いた箱は、埃を吐き出すとともにキラリと光る何かを落とした。埃をもろに顔面に受けてしまった令作は、目がどうのと叫ぶことは叶わず咳き込み始めてしまった。

 一分ほど経って落ち着き、目尻に涙が溜まっているものの視界を取り戻した令作は、布団の上に転がっている一辺2cm程度の四角い物体を見つける。銀色のそれは角の1つに穴が空いており、そこから細い銀色のチェーンが出ている。

「なんだこれ、ネックレス?」

 とつぶやきながら四角い部分を手に取ってひっくり返えすと、裏側には銀白と漆黒の二色が不思議な模様が刻んでいた。一見ただのカクカクとした線の集まりにしか見えない。しかしそれは令作になんらかの影響を及ぼしていた。

「ぁ」

 模様を目にしてすぐ、令作は脳内のいたるところで飛び跳ねる水のよう走る激痛を感じていた。

「ちょッ……」

 目を限界まで開きながら全身が強張りながら苦しそうな叫びを上げる。しかしその声は誰にも届くことはなく、すぐに一切の筋力が消失したかのように布団に崩れ落ちた。

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