第1話 宣戦布告

 立ち入り禁止になっている旧校舎の屋上。そこで風に流される雲を眺めるのが一条いちじょう一煌いつきの日課だった。

 気分が乗らない授業を受けるぐらいなら、ここで雲を眺めていた方がいい。

 一条が幸せな時間を過ごしていると、それをぶち壊す人物が屋上に現れた。

「おいっ!大変だよ、一煌」

 声の主は一煌の親友である峰山みねやまほまれ。声の方に視線を向けないでも一条には分かる。

「何が大変なんだよ、誉」

 どうせ誉が言う大変なんて、授業をサボったことが教師にバレた程度のことだろう。大したことではない。

 一条は、視線を空から反らさない。

「テレビ、テレビ見てみろって!」

 面倒だとは思いながらも、一条は額にずらしていたメガネ型携帯端末を目の位置に下ろすと、左のこめかみそばにある、よく注意しないとそれとは分からないようなボタンを押す。

「テレビモード機動」

 一条の声に反応し、小型携帯端末の画面は一条の目の前にヴァーチャルのテレビの画面を複数映し出した。

「チャンネルは?」

「どこでもいい……チャンネル215!」

 目の前に複数の画面が映し出されているが、映っている人物は同じだった。誉が見ろと言っているのは、この人物のことらしい。しかし、ほとんどのチャンネルで同じ人物が同時に映るなんてことはそうそうないことだ。何かとてつもないことが起きていることだけは確かだ。

「チャンネル215」

 一条は、再びこめかみ付近のボタンを押して、そう呟く。

 すると、その声に反応して目の前に映し出されていた複数の画面は一つの画面へと切り替わった。

 画面には一人の男性が映っていた。その青年は腰まであろうかという長さの金髪で、目鼻立ちのはっきりとした端整な顔立ちをしている。

「私は墓堀人はかほりにん代表、森鴎もりおうがいだ。十八年前にこの国の出生率はゼロパーセントになった。そう、いわゆるゼロイヤーだ。そのゼロイヤー以後、出生率は回復したが、生まれた子どもの中に、特殊な能力を使える人間が現れたのを知ってるか。我々はこの人間を新世代ニュージェネレーションと呼んでいる。今まで眠っていた脳のある部分が活動を始めた結果が、新世代の超能力というわけだ。つまり、新世代は旧世代オールドジェネレーションに比べて進化した人間ということになる」

 自ら森鴎涯と名乗った青年がそこまで話すと、青年の前に突然一つのリンゴが出現した。どんなトリックなのかは分からない。何もなかった空間に突然現れたとしか言いようがなかった。リンゴは青年の正面で宙に浮いていた。青年はそのリンゴを当然のように手に取ると、一口かじる。すると、リンゴは森鴎涯の手から煙のように消え失せた。

「もちろん、私も新世代だ。今日、各放送局をジャックしてまで何を言いたいかというとだ……我々、墓堀人は旧世代を駆逐し、新世代の世界を作るとここに宣言する!旧世代の墓を掘るから、我々は墓堀人だ。墓堀人に参加希望の新世代は歓迎する!我ら墓堀人に参加せよ」

 森鴎涯はそれだけ話すと、画面の外へと出て行った。

 テレビ画面には、テレビ局のアナウンサーと見られる女性が登場し、今起こった出来事についてレポートを繰り返していた。

「さっきから今のニュースを繰り返し放送しているんだよ」

 誉がそう言って事態を説明してくれた。

 なるほど、確かに一条の目の前のテレビ画面には、先ほどの森鴎涯の演説が再び流れている。

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