第2話 異世界にて生きる
---と、カッコつけてみたところで、実際に移動したのは委員長だけで、僕は半歩たりとも動いていない。委員長が不思議そうな顔で振り返るのを確認した。
実は、少し前から僕はこの瞬間を待っていた。
僕が『同行者』から『解説役』にジョブチェンジする、この瞬間を。
どちらにせよ主人公職には程遠いが、生存率が全然変わってくる。なにせ、『解説役』は死亡フラグが立たせにくいキャラなのだ。死ぬことがない、とは流石に言えないけど脇役の中じゃ五本指に入るくらいの生存率を誇る。ちなみに、1位は『ライバル』じゃないかと思っている。主人公と同じ力量を常に保持しているわけだしね。およそ、僕には向かない属性だけれど。
なんて、つらつらと思考しているといい加減痺れを切らした委員長が尋ねてくる。
「何か言いたげな顔していますけど、不快なので仕舞ってください。」
「顔を仕舞うってなにさ!?」
そして、質問しろよ。
あ、ダメだ。僕がツッコミを入れてしまったせいで妙に納得した顔で遠くを見つめだした。
お前にハングリー精神は無いのかい。
おいおい、委員長。もっと熱くなれよ!
「……………ふぅ。」
長い沈黙のあとに溜息をつくと、僕の方を向いて言い放った。
「同性の構ってオーラ程気色悪いものは無いと教えて下さったお礼に、話を聞いてあげましょう。」
慈悲深い言葉の割には視線が冷ややかなんだけど、気のせいだと割り切って『解説役』をまっとうして見せよう。
「まず、委員長。キミは無策に突撃していってあの怪物に勝てるとでも思っているのかな?」
「それは、あなたがどうにかなると仰っていたじゃないですか。」
「言ったね。でも、怪物をどうにかするとも言ってないよね。」
「……ふむ?」
少し興味がわいてきたのか、若干頬を緩めながら、僕の次の言葉を待つ。
さて、どう切り出せば更に興味を引けるか。
「まずは、委員長。ここはどこだかわかるかな?」
僕は驚いた。考える活動を優先とした先進的な米国流の授業を彷彿させるような問いかけが自分の口から出たことに。高校に上がってしまうと頻度が激減してしまう授業方式だが、僕はこっちの方が好きだったりする。教師になって、クラスを持ったらこんな授業をやりたいなどと語ったこともあるくらい、好きだ。
「ここはどう見たって砂漠です、先生」
僕の心を見透かしたように言ってくれやがるは、僕の初めての生徒、委員長だ。
「正解。じゃあ、あの化物のいる場所は?」
「砂漠でしょう?」
「なんだ。案外わかってるじゃないか。」
それがどうした、という表情の委員長を出来るだけ煽る様に笑いかける。
ちょっとはその頭で考えろ、と言いたいところだが、こいつならすぐに答えにたどり着いてしまうだろうから言わない。
焦らし、煽る。過負荷というのは人間の思考力を最も簡単に落とす方法だ。
焦らされ、ストレス。煽られ、ストレス。
委員長みたいな勤勉タイプには特に有効だろう。
「つまりは、何が言いたいのですか?」
ほら、来た。
普段の委員長なら、答えが出るまで自分で考えるのに、今は僕に言わせようとしている。
なんだかんだと聞かれたら、答えてやるが世の情け。確信に迫っていきやしょう。
「化物達は、なぜあそこにいるんだろうな?」
詐欺しめいた笑顔を自覚しながらも、僕は投げかけた。
石ころ使いの気ままな日常 なんとかさん @Nanigashi_Nantoka
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