第12話
木々の向こう、外灯ににわかに照らされるバンガローが見える。
百足の巨体は最早なく、バンガローにも目立った外傷はない。
構えをとかないまま、ゆっくりとバンガローを回り込む。
破壊された窓から中へ進入する。
「……いない。」
いない。 あの子がいない。
途端に不安がこみ上げてきた。
私が逃げたから? 目を離したから?
あの子は無事なの? どこに
「どこにいるの…?」
私は不安からいたたまれなくなってしまい、声をあげた。
「瑠奈……瑠奈ぁー! どこにいるの⁉︎」
あげられた声は夜半の湿った森の空気にまぎらわされてしまうばかりで、どうにも話にならない。
私はゆっくりと走り始めた。
あちこち走り回って管理棟横にさしかかったとき、未だくすぶる火の横に座り込む人影が見えた。
私は一歩一歩、案ずるように人影に歩み寄る。
……ああ、見間違えるはずもない。
「瑠奈。」
外灯に照らされた彼女は、泣いていた。
私の方に顔を向けた彼女のきれいな瞳は、一瞬とまどったような色を浮かべると、すぐにきらめきを湛える。
「仁美ちゃん…!」
そう言うなり、彼女は抱きついてきた。
「あのあとすぐ探しに行ったんだけど……
仁美ちゃんいなくて探し回って、そしたらここで地面がえぐれてたり地面が燃えてたりして、蝕手の気配もあったから私……仁美ちゃんに何かあったのかと思ってそれで……。」
私はそっと腕をまわしかえしてあげる。
「馬鹿じゃないの、この私がどうにかなるわけないじゃない。」
そう余裕をかましたつもりの私の声は、誤魔化しきれずに震えていた。
ただ腕の中のぬくもりが愛おしくて、私の視界が滲んでいく。
「無事で……よがった…っ。」
「もう、かっこつけられてないよ? ふふ」
「……うっさい…黙ってなよ。」
彼女をぐいと押し返すと、話を変える。
「ところであんた、怪我は。」
そう聞きながら目にとまったのは、彼女の肩だった。 布地がやぶれ、傷が覗いている。
「ちょっとあんたそれ…!」
「え? あ、ああこれ? へへ、少しひっかけちゃったんだよね。」
彼女はそっと傷をおさえて隠す。
「管理棟の人に包帯と消毒液を借りよう。
ほら立って?」
「あ、うん!」
ひっぱり起こしてやると、管理棟正面へ向かう。
「ねーねー、もう寝ちゃってるんじゃない?」
「大丈夫、まだ起きてるはずだから。
そういってインターホンを鳴らす。
が、反応は無い。
「おかしいな、23時までは起きてるはずなのに。」
「仁美ちゃんが暴れるから怖くなって逃げちゃったとか?」
「暴れたのは私じゃないっての! でも困ったな……。」
言いつつドアに手をかけてみる。
「開いてる、みたいだね?」
私は返事をすることなく、足を踏み入れる。
非常灯に照らされた静かな廊下を歩き、入口すぐ横の『管理人室』と書かれた部屋をノックする。
しかしやはり返事はなく、私は仕方ないとノブをひねる。
電気をつけると、簡素な事務室のようだ。
「誰もいないね。」
確かにここにはいないようだ。
私はとりあえず壁の鍵束と、非常用の懐中電灯を拝借した。
「おー?仁美ちゃんってば、ホラゲー慣れしてるね!」
「褒めてるようで縁起でもないこと言わないでよ……。」
部屋を出ると、今度は廊下の突き当たりを目指す。
この二階建ての管理棟を、とりあえず一部屋ずつ確認していくつもりだ。
一階の里山展示室、なる部屋の群れは特に何もなく、私たちは階段を登る。
赤い空 物 @Laevel653124710
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