第3話 空の上での決戦

 ブロッカー少佐は白い機体が飛び去っていく後ろ姿を見て苦々しく唇を噛みしめる。


「お、おい。ブロッカー青年?」


「命令だガクト中尉!!今この場にいる整備班の人間達をFブロックに召集しろ!」


 ブロッカー少佐は悔やんでも致し方ないと考え、次の行動を考える。


「な、あれはまだ未調整の代物だぞ。まだ実践に投入できるような代物じゃぁ無い!!」


 彼の命令にガクト中尉は激しく反論する。しかし、ブロッカー少佐は全くひるまない。


「今この状況であの一つ目を撃墜するにはアレが一番の切り札だ!!今から物資をありったけ詰め込んででも飛ぶしかない。……あの白い機体も敵になったのか味方になったのか分からんのだぞ!!!」


「りょ、了解!!」


 ガクト中尉は彼の気に押されて、その命令を受諾する。そして、彼の部下達に命令を指示し、Fブロックにある切り札の準備を開始する。


「ブロッカー少佐、軍施設の半割と中枢部が撃破されました。また空軍の部隊も全滅です!!」


「……!!そうか、殉職されたか……」


(中佐……間に合わなかったか)


 ブロッカー少佐は部下からの報告に一秒だけ肩を落とす。そして、すぐに立ち直り、次の命令を出す。


「私達もFブロックに向かうぞ。生き残っている者達も集める様に施設全体に放送しろ!!」


 彼の命令に従い、また彼等は走り出す。そして、また部下の情報端末に新たな情報が得られる。


「ブロッカー少佐!」


「何だ!?」


「あの……先程の白いロボットがあの一つ目と交戦中との報告が入りました!!彼等は上空に向かって移動しています!!」


「何……!?」


(あの少年……スパイかもしれんな。平和ボケとは恐ろしいものだ……!!)


 彼等はFブロックに到着し、ハシゴの上を走って目的のモノに到着する。そして、指示管制室に入り、中央の席でブロッカー少佐は電源を入れる。


「起動準備、全てのハッチを開け!」


「了解」


 ブゥンと電気がつき、また幾つもの椅子が現れながら多くの器具が、ソレ全体が起動していく。それを見たブロッカー少佐は頷き、椅子に設置されたマイクを取る。


「施設職員に伝令、私はヤマト防衛軍中枢係のブロッカー・872・カトウ少佐である。施設最高責任者のXX中佐は殉職された。これよりこの『空中巨大戦艦バベル』の発進による脱出作戦・一つ目撃墜作戦を開始する。収容施設責任者のガクト中尉とFブロック関係者の指示に従い、職員は完全起動準備に協力せよ。繰り返す、ガクト中尉とFブロック関係者の指示に従い、完全起動準備に協力せよ!!」


 ブロッカー少佐はガチャンとマイクを下ろし、横にいる部下に顔を向ける。


「どれぐらい職員の収容は完了した?」


「量子演算システムの計算によると約40%強です!!完全収容にはあと15分はかかります!!」


「ぐっ……仕方ないか……」


 ブロッカー少佐は時間惜しさに唇を噛む。そうしていると、管制室に新たな人間達が入ってくる。


「君達は誰だ?」


 ブロッカー少佐が尋ねる。すると、彼等6名はは彼の横に並び、一斉に敬礼した。


「私達は空軍改弐零戦部隊の生き残りです。死に損なったこの身体と命、どうかこの戦艦に役立たせて頂きたい!!」


「……助かる。こちらこそよろしく頼む」


 ブロッカー少佐は椅子に座ったまま彼等に敬礼する。そして、それを見た彼等はそれぞれの持ち場へと自分で判断して座り、完全起動の準備にかかる。


「ノーマル巨砲弾、収容終了。引き続き、プロヴィデンス専用弾、収容開始」


「非戦闘員の安全区域への誘導終了しました。職員の約70%の収容完了!!残り、5分」


「核融合炉のエンジンかかりました。完全起動までのタスク残り280!!」


「重力場制御テスト確認開始します。また、ノーマル巨砲の空砲確認……終了。誤差修正開始!」


 ドンドンFブロックに人が集まり、その分だけ完全起動までの時間が短縮されていく。ブロッカー少佐も眼前にあるタブレットに表示される報告に目を通しては的確に処理していく。


「職員の約100%の収容を完了。全ハッチの完全閉鎖を開始!!」


「核融合炉の完全起動までタスク残り18!!Fブロック関係者以外の職員は全員衝撃に備える様に勧告発令!!」


「EVA粒子の試験散布を開始します。戦艦内の空気構を完全閉鎖。以後は備蓄空気を艦内に放出します」


 ブロッカー少佐はニヤリと笑った。そして、それと同時にタブレットにガクト中尉の顔が表示される。


「おい、本当にどうなっても知らねえからな!?俺は責任なんか取れねえぞ?」


「ああ、分かってる」


「……チッ……」


 ガクト中尉は舌打ちして通信を切った。そして、新たにタブレットにYESとNOの選択肢画面が現れる。


「核融合炉の完全起動までのタスク残り2!!最高責任者の許可と点火作業のみです!!」


「全職員の耐ショック体勢準備も完了!!」


「EVA粒子の試験散布、問題無し。行けます!!」


 管制室に居る者達の眼、また艦内全ての者達の意識がブロッカー少佐に集まる。彼は迷わずタブレットのYESの文字を押した。すると、彼の一歩先にジャコンッ!と引くレバー型の鍵が現れる。彼はマイクを手に取ってスッと立ち上がり、鍵を握った。



「全艦内に伝令、これより、空中巨大戦艦バベルを発進する。また、君達の勇敢な働きぶりに感謝しよう。全員、発進準備!!!」



「了解!!!」


 管制室が、いや戦艦全体がブロッカー少佐の惜しみない称賛を含んだ返答に震えた。ガチャンッとブロッカー少佐がレバーを引き、鍵を開く。


「点火ッ!!」


「バベル、起動ッ!!!」


 瞬間、その戦艦は光に包まれた。そして、戦艦を囲む収容施設をまるで巨大な竜巻を引き起こすかのように破壊しながら浮遊を開始する。


「EVA粒子、バベルを囲みます。立体楕円形より、艦を旋回しつつ浮遊速度加速!」


「ノーマル巨砲弾装填!赤外線放射により敵探知開始!!上空より動く反応あり!!」


 上空100メートルにまで戦艦は浮き上がる。そして、次の指示をブロッカー少佐が出し、それに管制室の部下たちは続く。


「船体をY軸+90度転換、バックのメインブースター最大出力!!」


「了解、重力場形成により安全良し」


「船体90度転換、メインブースターのエネルギー100%流します!!」


「敵発見しました。形から母艦2隻、先ほどの一つ目1機、……謎のモビルスーツもいます!!」


 ボッ!とメインブースターの焦熱音が管制室にまで聞こえる。そして、雲の中を突っ切り、とうとうその姿を現した。


「……白いロボット?」


 管制室の一人が呟く。すると、それは視界にある母艦の1隻を破壊し、また真下から現れたあの一つ目アンノウンを撃破した。


「白い機体……あいつはまだこちらの味方か……!!」


 命令を無視した少年を思い出し、ブロッカー少佐は眉をピクリと震わせる。そして、新たに敵影が現れる事を確認した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、行こうか」


 銀河連合の母艦から一機の機体が現れる。ボシュッ!と発進直後からブースターを最大にして現れた新手にアキハは戸惑った。


「な、何だあれは。速いっ!!」


 ズンッ!!と迫りくる敵を避けようとするガブリエルの足が掴まれる。


「はははっ、遅いッ!!」


 それは大きく振り回して投げた。


「後方カラサラニ接近。数5。目的ノ変更ヲ推奨スル?」


 ガブリエルがアキハに悠々と語りかける。それに対して、アキハは強い重力に耐える事で精一杯だった。


「う……うう……クソ、目眩がする……」


 アキハは周りを囲もうとするザク5体と先程自分を振り回した敵を見る。


「紅い色?あれがリーダーなのか?」


「肯定スル。アレハ銀河連合ノ中デモ実力ヲ認メラレタ存在デアルト推測サレル」


「そう……つまり、あれがボスってことぁ!!」


 アキハとガンダムはボボボンッと至る所から撃ち出されるアルカディアンのレーザー攻撃を避ける。


「クソッ!しつこい!!」


「敵ノ動キヲ計算スル。予想移動ポイント表示」


 ピピピッと周りの画面に赤い点が表示される。アキハはそれに従って照準を合わせて撃った。すると、ズムッ!とアルカディアンの一機が撃墜される。


「よし、この調子で……うわっ!!」


 ビシュッとガブリエルの腹にレーザーが掠り、アキハの隣に損傷を報告する表示が現れた。そのレーザーを撃った犯人を捜す。すると、雲の下から先ほどの紅いアルカディアンが現れる。それはまたも足を掴もうとするが、ガブリエルは二度と同じ手を食わないらしくそれを避けた。


「通信傍受、受ケルカ?」


「なっ、こんな時に誰から!?」


 アキハの戸惑いに対し、ガブリエルは紅いアルカディアンを拡大して表示した。


「敵が?……分かった、受けよう」


 アキハはまたガブリエルが計算したポイントに狙いを定めて、アルカディアンを撃墜しながら通信を受けた。すると、画面には仮面を被ったハスキーボイスの黒髪男が現れる。


「やあこんにちは、我らが造りしジャンヌダルクに乗る者よ」


「君は誰だ!?」


「失礼、私はトェイク・アルバ―という者だ。少年、話をしないか?」


「話?」


 紅いザクは何かの指示を出したのか、残り3機のザクの動きが止まる。そして、二人の話が続けられる。


「ああ、私達の目的は君が乗るジャンヌダルクだ。君がこちらにそれを引き渡してくれれば、ここからは撤退しよう」


「……僕は、無理だ。これを君達には渡せない」


「ほう、何故?」


 アキハは小声でガブリエルにアルカディアンを狙う様に伝える。そして、さらに新しく現れていた敵の母艦よりも巨大な戦艦を発見する。


「――僕は君達が何者か知らないけど、お前達に渡すことは出来ない。これはとても危険な代物だ」


「君が持っていれば安全だと?」


「……ッ!!いや、それよりも僕が君達にガブリエルを引き渡したとして、僕の安全は保障できないだろ?」


「ふむ、確かにな。ならどうするべきかな?やはり君を殺してでも奪うべきかな?」


 紅は太いアルカディアン足からジャコンとナイフ状の武器を取り出す。そして、それの先端を引き延ばすと、剣身に青いビームが発生した。


「……ガンダム、通信を切れ!」


「交渉成立ならずか……残念だ。しかし、ガブリエルという名前は中々気持ち良い名前だな」


 アキハの目の前から仮面の男の顔が無くなる。代わりに、紅いザクが急接近してビームを纏ったナイフを振りかぶってきた。


「ガンダム、こっちにもナイフ状の武器はあるか!?」


「ビームサーベルヲ推奨」


「分かった!!」


 アキハはグリップのボタンを操作して、銃から新たに二の腕部分に取り付けられていた棒を取り出す。そして、それを操作して細長いビームを発生させ、迫ってきた紅いアルカディアンの攻撃を食い止める。バチバチッと何かの化学反応が起こり、それは強力なイメージを浮かばせながら交差する。


「ほう、ビームサーベルか。だが、それは本来は奥の手とも言うべき武器。すぐに残量が切れて使い物にならなくなるソレで私からどう逃れる!?」


 ザクが背にあるブースターを強くして、ガブリエルを押す。しかし、ガブリエルも推進力では負けておらず、むしろ押し返し始めた。


「んん……やはり通常のアルカディアンでは駄目か。流石は特機兵器だけある。だからこそ、面白いッ!!!」


 アルバ―はガブリエルから離れて、一瞬の内に銃に持ち替える。そして、後方に下がりながら正確にガブリエルの腕や足を狙う。


「くそっ、あっちは本当の手練れなんだ!!こっちよりも判断速度や動きは断然鋭い……!!」


「肯定スル。私ノ能力ヲ貴方ハ使イキレテイナイ。ソノ為、相手ノ方ガコチラヲ全体能力値デ数倍モ上回ッテイル」


「勝機は薄いってことか……じゃあ、あの戦艦に協力を求めるかな……?」


「ソノ策ニハ条件付キデ同意スル。条件ハ、紅アルカディアントノ距離ヲ5キロ以上離ス事ダ」


「難しい条件だな……!!」


 アキハはビームサーベルをそのままもう一方の手に持たせる。そして、紅アルカディアンに向かっていく。


「来るか少年!!ジャンヌダルクの力……いやガブリエルの力、特と見せてみろ!!!」


 紅ザクはビームナイフに持ち替えて、互いに衝突でもするかのように特攻する。しかし、


「ガンダム!前方にいる通常アルカディアンを狙うぞ!!」


「了解。ブースター最大出力ニテ移動開始」


 ガンダムは紅アルカディアンの攻撃をギリギリ紙一重で避けた。


「な、何っ!?」


 アルバ―は当然向かってくるものだろうと勘違いしており、急ブレーキをかけるも機体は止まらない。そして、アキハとガブリエルは慌てて撃ち込んでくるザク達のレーザーを避けながらザク一機の懐に飛び込んだ。


「斬れろおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 アキハはビームサーベルをザクの心臓部に突き刺す。そして、横に薙ぎ払い、その場から離脱した。


「クッ……一撃離脱とはぬかった……!!」


 機体を止めたアルバ―は身を翻してガブリエルの後ろを追う。しかし、さらに新たな追撃がガンダムの横を入れ違って、もう一体のアルカディアンの身体を貫いた。


「ノーマル巨砲弾、敵ロボットに着弾しました。一機撃墜!!」


「ノーマル巨砲弾、次弾装填します」


「急げ、次は母艦を狙うぞ!!」


「白いモビルスーツがこちらに向かってきます!?」


「援護しろ、ソイツは味方だ!!」


 アルバ―は仮面の下にある目で、その戦艦を見つける。そして、ブロッカー少佐も拡大された映像から紅アルカディアンの姿とその推進力を見ていた。彼等は言う。


「厄介な奴だ」

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アルカディアスより来たれし救世王 一人暮らしの大学生「三丁目に住む黒猫ミケ @iai009

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