B-1 ステーションからお送りします。

 ジャガイモの芽をくり抜くみたいに、使い物にならない場所を「なかったこと」にしてきたツケがようやく来た。学生に配る地図帳は毎年更新された。小さな町はくっついて大きな国になって、大きな国は姿を消した。

 小さい頃に習った星の一生みたいに、僕らの星も終わろうとしていた。

 いざとなったら、というのが彼らの口癖だったが、あらゆる国は「いざ」となった。大きな魚が得意げに小さな魚たちを呑み込むも、自重で海の底へ沈んでいった。ビンゴゲームみたいな食料表に空白よりもバツが目立つ頃、僕も「いざ」となった。

「いよいよ今日だってね!」

 あなたは窓の外から、コロッセオみたいな形の宇宙鉄道駅を見つめていた。

 皿に乾燥豆をカラカラと数粒転がして、煮沸して冷ました水をテーブルに並べた。

「わたしねぇ、火星に行きたい!」

 行くといいさ、と僕はあなたを抱きかかえて、椅子に着席させた。

「またまめー?」

「嫌なら食うな」

「くうけどぉ」

 スプーンでかちゃ、かちゃと下手なすくい方で、豆をすくっては口に運んだ。

 あなたが食事に夢中になる頃、また国がひとつ無くなった。

 テロップは淡々とそれを流し、画面では今日の天気が伝えられた。

「よかったな、今日晴れだって」

「え? やったあ」

 僕は抽斗から茶封筒を出して、紙きれをあなたの目の前に差し出した。

「これ、なに?」

「ん? 誕生日プレゼント」

「紙?」

「そう」

 窓を開けて、タバコに火をつけた。

 僕の食料表の、バツ2つ分のタバコ。

「またタバコ吸ってる」

「いいんだよ、これがご飯なんだから」

 よくもまぁ、ここまで暴動のひとつも起こらないもんだ、と心底感心した。

 宇宙鉄道が1度きりの片道切符なんてこと、僕以外にも気づいている人がいそうなものなのに。みんなこの期に及んで、神さまに祈るのに必死なんだ。

 来世への投資はすでに始まっている、というわけだった。

「これ何の紙?」

「乗車券。なくすなよ。お前のじゃないんだから」

「わたしのでしょう?」

「……そうなんだけどさ」

 あの日、僕の目の前でチケットをひらひらと、嬉しそうに掲げた名も知らない少年のチケットだ。この、もう終わってしまった星から逃げ出せるはずだった彼の。

「列車、夕方出るから。荷物作っときな」

「どこ行き?」

 あなたは、たぶんその乗車券に書かれている文字の半分も読めないだろう。

 今日のことを、大人になって、忘れてしまうのだろう。

「知らん。食器片づけとけ」

 天気予報通り、その日は一日快晴だった。

 何かが起こりそうな気配なんて、なにもなかった。

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廃線にて @katasumi

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