第8話 非日常

遠藤翔太えんどうしょうた

突然現れたそいつは俺に向かって容赦なく刀を振りかざした。

しかも、運命を預かりし者なんて中二病が喜びそうなフレーズ付きで。


「まあ、そう怖い顔するなって。これは模造刀。俺は熊田から頼まれてお前を助けに──、お前っていうのもアレだな。神代を助けに来たセイギノミカタさ」


そういう遠藤が持っている刀をよく見ると確かに刃のない模造刀のようだった。

あまりの非日常な出来事に咄嗟におまじないを使ってしまったが、おまじないを使わなかったとしても大きな怪我とはならなかっただろう。


「……試したな?俺を」


未だに状況はよく読み込めないが、熊田の仲間だという遠藤が明らかに普通ではないことは間違いない。

刀自体は模造刀ではあったが、素人の動きではなかった。

そして、運動音痴だという俺が運動音痴ではないと疑って試してやがった。


「ま、姫に選ばれた男がどんなやつか気になってな。神代を助けろだなんていうし、一体どんな人間なんだろうと興味が湧いただけさ」

「……姫っていうのは星影雫のことか?」

「ま、俺たちはある姫を守る隊であって野郎を守る隊ではないんだが、どうにもお前は姫にとってキーパーソンらしいからな」


星影雫の護衛部隊といったところか。

確かに、いざという時に動かせる組織が必要ではあるだろう。

そしてこの遠藤という男はおそらくその組織の中でもトップクラスの人物だろう。


「何があったのかは分からないがここは危険だ。この学園の中でこんなド派手な動きが出来るということは学園関係者の仕業だろう」


そんな危険な場所でド派手なことをやっている奴が何を言っているんだと言いたくなったがとりあえず飲み込んでおく。


「……分かった」


その答えに満足したのか、遠藤は後ろを向き体育館の方へ向かっていく。

ビープ音が鳴り響く室内は薄気味が悪く、一刻も早く離れたかった為素直についていく。

歩きながら頭の中を整理する。

星影雫を『姫』と呼び星影雫を守る組織。

星影雫から俺を守れという命により現れた遠藤という男。

ビープ音が鳴り響く部室。

画面に表示された「SERORI」というワード。

試された俺。


そして──


なぜか人気の少ない体育館の方向へ連れていかれている俺──


「──選択セレクト


咄嗟に“おまじない”を口にする。

違和感は、確信へと変わっていく。

一つ、星影雫の性格上、『姫』と呼ばれるような組織は好まない。

一つ、そんな組織がありながら、涙ながらに俺に助けを求めることが腑に落ちない。


「……今、何か言ったか?」


そういいながら振り返る遠藤。

場所は人気のない体育館裏。

そして、遠藤のもっていた刀が次第に薄くなり、消えていった──


「これは俺たちの組織が開発した“R・ステルス”という技術さ」


人気がないのに人気を感じる違和感。

そして気づけば、消えた刀とは逆に、何もない空間から人の姿が浮かび上がってくる。

黒いスーツの男たちが俺を囲んでいた。


「言ったろ?運命を変える者だってさ」


そういって笑みを浮かべる遠藤。

俺は、ギアを最大値まで上げた──


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H.L.T ~圧縮された世界~ 柏崎 聖 @kusugawasasara

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