紫電を纏いし太古竜

 怒りの象徴たる紫電が辺りに降り注ぐ。


「危ねっ!?」

「きゃあっ!?」


 それを避けるカケルと夕姫。


 二人を見下ろす紫電を纏う竜、天災竜改め、天雷竜トゥルディオス。天雷竜が体を大きく仰け反らせる。


「ルゴォアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「ぐっ……」

「耳が……」


 《ロアリング》。咆哮によって相手を拘束するアーツ。ただし、その対象が自分よりもステータスが低い場合にしか拘束できない。


 このアーツによってカケルも夕姫もその場に縫い付けられてしまった。大声量によって二人共が耳を抑え、咆哮の中にある威圧の効果が二人の行動を阻害する。それと同時に凄絶な殺気が二人に叩き付けられた。


 殺気は慣れてしまったが、咆哮の威圧は二人にとって初めての経験であり、不覚にもその場に縛り付けられてしまう。漸くと二人が動けるようになった時には、天雷竜による第二射が放たれていた。


 黄金の閃光がカケル達に迫ってきていた。


 身体強化、剛力、金剛、神速、限界突破。次々とスキルを発動してステータスを底上げし高速思考を発動。体感速度が伸びたことによって迫りくる黄金の閃光を遅く感じているカケルは、余裕をもってその場を離脱する。夕姫は持ち前の反射神経でカケルと別の方向へ《浮遊術》を使って避ける。


 二人が離脱した直後に黄金の閃光は地面を抉り飛ばす。これを喰らっていれば、間違いなく瀕死に追い込まれていただろう。


「空中戦がお好みなら受けて立ってやるよ」


 刹那の間に天雷竜の背後へと移動したカケルがヴェガの二十八発速射をお見舞いする。着弾した先から炸裂していく魔弾。幾ら防御がカケルの攻撃力より高かろうと、さすがにこの攻撃は無視できない。スーペルノーヴァの一撃を喰らった時点で、既にダメージは相当入っている。


 カケルの銃撃に対する察知が遅れ、五発程喰らった天雷竜。しかし、すぐに翼を羽ばたかせ上昇。他の弾丸は全てが避けられてしまう。だが、想定内である。《空歩》を使って空中に足場を作り、そこに立つカケル。


 《ウェポンチェンジ》でステラカデンテに武器を持ち替え高射。先の銃撃と野生の勘で危険と判断した天雷竜はひたすら回避行動に専念する。銃口から吐き出される炸裂弾は中空を自在に飛び回るトゥルディオスには全く当たらない。それでも、構わず撃ち続ける。


 ステラカデンテの超連射。だがすぐに稼働限界がくる。銃身は赤熱化し、セーフティが働いた機関砲がその動きを止める。それを見るや、天雷竜が回避行動の勢いをそのまま利用し、高速でカケルに向けて突進してくる。


 顎門をこれでもないくらいに開き、カケルを食い殺さんと寄せくる天雷竜。目前まで迫るそれに目を向けるだけで、回避すらしようとしないカケル。だがそれは諦めたわけではなく、信頼したパートナーがいるからの行動だった。


 天雷竜の横っ面が炸裂する。


「ルグゥァッ!?」


 爆発の威力とそこから発生した爆風によって無理矢理方向を変えられ、空中に仁王立ちするカケルの脇を掠めていく天雷竜。そのまま森へ突っ込み、周囲の木々を薙ぎ倒しながら地面を滑っていく。


 カケルが左上方に目を遣れば、こちらに向けて銃剣の発射口を向けている夕姫がいた。


『助かった』

『撃たなくても避けられたでしょうが』


 夕姫のクロチェデルスッドから放たれた鉄塊が天雷竜に着弾し炸裂したのだ。高速で動き回る標的を、味方へ影響が出ないようにしつつ確実に撃ち抜く。計算ずくで為されたその銃撃はいっそ見事である。


「ルガァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 怒りに満ちた咆哮。二人揃って森を見れば、こちらを睨み付ける天雷竜の姿があった。少し溜めを作り、一息にカケル達へと飛来してくる。


 空中の足場を蹴って天雷竜の軌道上から外れるカケル。夕姫もその場から弾かれたように動き、避けた直後には通り過ぎた天雷竜にピタリと銃口を向けていた。


 十分過ぎる程の魔力が蓄積されており、それを解き放つ。高密度の魔力砲が轟音を立てながら空を切り裂いて進む。脅威と見て取り、横へ回避する天雷竜。


「逃がすかぁああああああっ!!」


 夕姫は銃剣を横に薙ぎ、魔力砲もそれに合わせて動く。高密度のレーザーが天雷竜を追う。


 魔力砲が天雷竜の背後まで迫り、いよいよ着弾するという所で、充填した魔力が切れ砲撃が止まってしまう。


「チッ……」


 仕留められなかったことに舌打ちする。その直後、少し離れた場所で炸裂音が響く。そこには、ガラシアを発砲したカケルがいた。


 紺碧の雷が流星のように天を翔る。行く先には高速で飛行する天雷竜。捉えるのは容易ではないだろうに青の閃光は迷いなく放たれ空間を劈き、天雷竜の飛行線上と交錯する見事な精密射撃だった。ガラシアから放たれた高威力の弾丸は天雷竜に着弾し、またしても地に落とす。盛大なクレーターを作り、その中央に横たわる天雷竜。

 

 竜は空の覇者である。空を飛ぶことに誇りがあり、圧倒的な力を持つことで恐れられる存在。その竜が二回も地に落とされた。加えて太古竜というのは悠久の時を生き抜いている。プライドがそこらの竜とは比べものにならない程に高い。そんな竜が二回も墜落させられたらどうなるか。


 天雷竜がクレーターの中で起き上がる。


「ルガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 大咆哮。天雷竜の体から紫電が弾け、甲殻の間にある窪みと翼膜、そして六本角が濃色に発光する。元々持っていた猛々しさに禍々しさが混じり、心胆を寒からしめるような外見になった。


 天雷竜が雄叫びを上げる。突如、周囲に紫黒色の球体が浮かぶ。それは光が強まったり弱まったりを繰り返しており、ただならぬ気配を感じるものだ。カケルはそれの正体を見抜くために目を凝らす。


 球体の光は、強弱しているわけではなく、発電していた。おそらくこれが《ライトニングスフィア》だろうと当たりをつけるカケル。


「ルゴォオンッ!」


 天雷竜の一声で紫黒色の雷球がカケル達へ向けて殺到してくる。その雷球一つ一つに膨大な魔力が籠められている。魔力感知でそれを理解したカケルは危険を感じ、ヴェガを抜いて魔力だけを付加した弾丸を雷球へ向けて撃つ。


 しかし、雷球は威力こそ弱まりはしたが、相殺には至らなかった。続けてトリガーを引き、相殺できたのは三発目の弾丸。一つにつき三発分の魔力をぶつけないとこれは無効化できない。そんなものが数十も襲い掛かってきている。


 カケルはすぐにその場を離れる。雷球はカケルが元いた場所を通り過ぎる。夕姫も危機察知によって危険を感知し、即座に回避行動へと移る。体を回転させて避け、目の前まで迫ってきていた雷球を体を無理矢理捻って躱す。後続までは時間があり、そこで雷球の軌道上から抜け出す。


 二人揃ってホッとしたのも束の間。通り過ぎた雷球は遥か先で軌道を変え、カケルと夕姫に向けて驀進してきたのだ。


「追尾してくんのかよ!」

「厄介ね!」


 ヴェガの銃口を向けて《ラピッドファイア》で三発の速射。一つ雷球が消滅する。夕姫も魔力弾を撃ち出す。こちらは一発で霧散した。魔力の塊である魔力弾。雷球もまた魔力の塊であり、相殺するには相性が良かったようだ。


 一つずつ雷球を消しながら軌道線から離脱。それを繰り返していく。


 数分間のヒットアンドアウェイにより、雷球の数は四つまで減った。漸く終わりが見えてきたその時、カケルのいる場所が大きな陰で覆われる。カケルが上を見れば、紫電を発散する天雷竜が悠然と滞空していた。


「な……」


 刹那。殺気がカケルに向けられ、それを認識した瞬間、裂傷を刻まれ吹き飛ばされる。


「カケル!」


 あっという間に地面が近付き、大地へ強かに打ち付けられるカケル。体には天雷竜によって痛々しい爪痕が残されており、そこから命の水が流れ落ちていく。叩き付けられた時に骨も数か所折れてしまった。


 一瞬で満身創痍になってしまうカケル。まさに指一本動かせない状態だ。意識がはっきりしている分、余計に痛覚が刺激される。


 気が遠くなる程の大激痛に苛まれる中、カケルは一点だけを見詰めている。その視界には被弾するのも気にせず、カケルの元に駆け付けようと飛んでくる夕姫がいた。


「くぅっ!?」


 横合いから雷球が夕姫を襲い、着弾と同時に爆散する。かなりのダメージではあったが、それでも夕姫は止まらなかった。カケルに向けて手を伸ばすその背後で再び爆発が起こる。爆風によってカケルの真横に落とされる夕姫。


「カケル……」


 地面に全身を強打したにも拘らず、カケルの元に寄っていく夕姫。カケル程大きなダメージではなかったようで、体はしっかりと動いている。ただ、動作に痛みが伴うのか苦悶の表情を浮かべていた。


 夕姫がカケルの傍らに膝をつく。両手の平をカケルに向け、治癒魔法《キュア》を使う。骨折を治すことも傷口を塞ぐこともできなかったが、裂傷からの出血は止められた。


「ごめんね。アタシじゃ、これが限界」

「さんきゅ……」

「うん」


 そこで二人のいる地面が紫色に発光し始める。危機察知が発動した夕姫が動けないカケルを抱えてその場から離脱する。その直後に発光していた場所から紫電が天に向かって伸びる。これこそが《ライジングボルト》だ。


 近くの倒木の陰に身を隠す夕姫とカケル。カケルの背を倒木に優しく凭れさせる夕姫。その表情から苦痛は消え、慈愛の眼差しでカケルを見ている夕姫。少しして瞼を閉じ、次に目を開けた時には決意に満ちた力強い光が灯っていた。


 天昇する紫電を目眩ましにして倒木の陰に隠れたが、見つかるのは時間の問題である。敢然たる表情でカケルを見詰める夕姫。そのままゆっくりと口付けをする。そして、徐に立ち上がって銃剣を強く握りしめる。


「カケルはアタシが守るわ」

「待て……」


 掠れたカケルの声。その声に反応して夕姫は振り返る。頬を紅潮させ、とても綺麗な微笑みを湛えていた。ぐったりとしている白髪赤目の男を見詰めるその瞳には恋慕の情がある。


「大丈夫よ。負けないから」

「お前じゃ……」

「できる。やる。ここでカケルを失いたくないの」


 大好きだから――――――


 夕姫の目からこぼれ出る一筋の涙。その雫が落ち、土に染み込む。


 そのまま飛び立つ夕姫。カケルを守りたい。その一心で絶望的な力差のある天雷竜へと果敢に突っ込んでいく。


 夕姫の姿を捉えた天雷竜が吼え、魔法陣が展開される。そこから放たれた金色の光が灰色の雲海に呑み込まれる。空は今までよりも黒くなる。それが夕姫の不安を容赦なく煽るが、そんなことを気にしていられる程の余裕はない。


 黒雲から幾重もの雷が夕姫に襲い掛かってくる。雷霆魔法Lv8《サンダーストーム》。広範囲に亘り無作為に稲妻を落とす魔法。ただし、魔力操作のレベルが高ければ、落雷に指向性を持たせることもできる。


 重音を置いていき光速で迫る稲妻。銃剣を構えて撃って相殺する時間は皆無。相殺することを考えず、反射神経に任せて左右上下へ躱す。だが、それでも光速だ。いくら神懸った反射神経でも、限界というものは存在する。それは夕姫も重々承知していることで、いつ直撃してもおかしくない。


 果たして夕姫の危惧通り。落雷が左肩を貫く。


「くぁあっ!?」


 激痛に顔を歪ませ呻き声を上げる。吹き飛ばされながらも態勢を立て直し、再び飛行を開始する。動きが止まれば間違いなく畳み掛けられる。それがわかるからこそ止まれなかった。


 飛来する雷を避けていき、どうにか見つけた隙でクロチェデルスッドの引き金を引く。銃弾は天雷竜の動体に吸い込まれるように着弾し爆発する。扱いに長けているからこそできた反撃だ。


 爆発の衝撃で集中を切らした天雷竜。強力無比な雷の雨が止む。その代わりに、天雷竜から殺意の奔流が溢れ出し紫電の光球が作り出された。それは夕姫にとって死の宣告にも等しいもの。しかし、諦めるわけにはいかなかった。自分の死はカケルの死に直結するのだから。


 迫りくる無数の雷球から逃げる夕姫。先と同じ方法で一つずつ消していくが、余りの数に減った感じは微塵もしない。それは同時に、夕姫に対するプレッシャーにもなる。これほどまでに死を身近に感じたことはなかった。エテルノの麒麟戦では傍に織音がいて、安心して防御を任せていた。それ以前ではなおのこと死を感じなかった。




 誰の助けもなく一人で戦い続ける夕姫を見ていたカケル。


(俺はこんなとこで何してんだよ……)


 夕姫は徐々に追い詰められている。紫電球を相殺しては逃げるを繰り返しているが、カケルはわかっている。夕姫が死の重圧に圧し潰されかけていることを。自分ではどうしても天雷竜に勝てないと理解していることを。そんな中でも、カケルのことを想って死地に身を置いていることも。


(いつまでここでくたばってるつもりだ?)


 何もせず夕姫に任せっきり。そんな自分に嫌気が差す。


(俺が夕姫を失う? そんなこと認めるわけがねぇだろ!)


 力が籠る。半開きだった瞼は完全に持ち上がる。その瞳は苛烈な怒りに満ちている。憤怒の感情が胸中で膨らみ、それは全て一つの想いへと収束していく。カケルが幼い頃からずっと抱えていた想い。


(夕姫は俺が守る!)


 頭の中に響く無機質な声。勝利を手中に収めるための力。


 カケルの全身から深紅のオーラが迸り力が増大する。これまでとは比にならない程の強化に肉体が悲鳴を上げるが、夕姫を守るということしか頭にないカケルは、そんなものを完全に無視する。


 《限界突破》の条件達成によって派生進化したスキル《天元突破》。限界突破はステータスを三倍したが、天元突破は更に上。ステータスを五倍にする。


 《天元突破》と同時に《高速思考》も発動。全てがゆっくりと動く世界の中でカケルは一人、高速で動ける。地面を蹴り砕き爆音を轟かせながら飛翔する。その先には天雷竜の《サンダーブレス》が迫り、今にも存在を焼失させられそうな夕姫がいる。


 瞬く間に夕姫の元へと辿り着いたカケルは、夕姫を横抱きして空歩によって生み出した足場から更に高く跳ぶ。


「カケルッ!?」

「よう。ちょっとの間にボロボロじゃねぇか」

「誰のせいだと……」


 そこから先は言葉にならなかった。ぽろぽろと大粒の涙を流し、しゃくりあげる夕姫。愛おしく想う夕姫を見詰め、カケルが口を開く。


「さっきの言葉。お前に返してやるよ」

「……?」

「お前は俺が守る」

「っ」


 遂に感極まってカケルの首元に抱き着く夕姫。まだ怪我はほとんど治っていない。それどころか天元突破の行使によって、現在進行形で体が傷ついていっている。


 だが、ヴェガを媒体としたアーツ《マジックバレット》の一つ。《リバイバルバレット》で一時的に負傷を快復させる。しかし、天元突破を解除するつもりがないため、一時的という言葉は本物だ。


 そこに紫電の光球が一気に襲い掛かってくる。


「カケルッ!」

「安心しろ」


 ヴェガを殺到する雷球群へ向ける。そして、《ラピッドファイア》を発動。全ての弾丸が別々の方向に撃ち出される。


 さっきは三発当てなければ相殺できなかった《ライトニングスフィア》。だが、今のカケルのステータスはこれまでよりも遥かに強化されている。雷球一つにつき一発で十分な威力だった。


 撃ち逃しは一つたりとてない。全ての雷球が消えていた。


「凄い……」


 さっきまで苦戦していたことを目の前で、何でもないことのようにあっさりとやってのける。その姿を見て静かに感嘆する夕姫。


 そんな夕姫の耳元に顔を寄せるカケル。夕姫はカケルの突然の行動に狼狽し、顔を真っ赤に染める。


「夕姫」

「ふぁい……」

「アレを使う」


 カケルのその言葉で真っ赤になっていた顔はすぐにその熱が消え、真剣そのものの表情になる。そしてゆっくりとカケルから離れる夕姫。その目にさっきまであった絶望は皆無だった。


「あの蜥蜴を足止めすればいいのね?」

「あぁ。やれるか?」

「ふふっ。任せなさいよ」


 同時に飛び出す。目前には《ライトニングスフィア》が迫ってきている。ヴェガの速射。魔弾が雷球の如くを相殺する。次いで夕姫のクロチェデルスッドから弾丸が吐き出され、天雷竜に当たり炸裂する。追い打ちを掛けるようにカケルの放った魔弾が天雷竜に直撃して数度の爆発を起こす。


「“フェールドラゴン”!」


 メモーリアが光り魔法陣が虚空に浮かび上がる。その魔法陣から光沢のある鉄龍が現れ、すぐに天雷竜を拘束する。


 逃れようともがく天雷竜。夕姫は残りの魔力をありったけ籠めてこの魔法を放っている上に、その後も継続的に魔力を注ぎ込んでいる。この拘束から逃れるのは、いくら天雷竜といえども容易ではない。そして、夕姫が全力でした拘束は最後の一撃を放つための時間をしっかりと稼ぐ。


 鉄龍によって空中で磔にされている天雷竜。その遥か後方にカケルがいた。二メートルはあろうかという長さの銃を天雷竜へ向けている。


 単なる細長い直方体にグリップを付けただけという無骨な造りをしている。しかし、銃身にはまるで血管のような筋があり、そこは仄かに赤黒く光っている。かなり不気味な銃、その名はモルテ・フチーレ。アーツ《バレットオブカタストロフィ》を放つ時のみ使用する破壊の魔銃。


 モルテ・フチーレの薬室に装填された一発の弾丸に魔力が凝縮されていく。魔力の充填具合を表すように赤黒い光は強まっていく。その膨大な魔力に気付いた天雷竜がより暴れ、拘束を解こうとする。


「滅びろ」


 その言葉と共に引き金を引く。モルテ・フチーレから一発の弾丸が放たれる。それは全てを破壊し尽す必滅の一撃。《バレットオブカタストロフィ》。


 一直線に突き進む破滅の弾丸は天雷竜に見事着弾。暗黒の閃光が天と地の双方を貫く。天雷竜がいたであろう所に現れた漆黒の柱。それは神の降す断罪の一撃のようにも見える。


 漆黒の柱が霧散したその場に天雷竜の見る影はない。天雷竜はこの世界から跡形もなく消え去った。残ったのは戦闘の激しさを物語る荒れ果てた森だけだ。天雷竜の死を確信するカケル。


 天元突破の効果が消える。魔力切れだ。一気に魔力を消費したことも手伝い、急速に意識が遠くなるカケル。空中の足場もなくなりそのまま自由落下する。


「カケル!」


 温かい何かに包み込まれるような感触。さっきとは逆に夕姫から横抱きされるカケル。それを薄っすらと開けていた目で理解する。


「わりぃ……もうムリだ……」

「うん。お疲れ様」


 優しさに溢れた夕姫の言葉を受けて、カケルは意識を手放した。

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クラスメイトごと召喚された世界がゲームの世界だった件。 ヴァイス @summons

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