【短編】人間アウトレットモール

ボンゴレ☆ビガンゴ

人間アウトレットモール

~戯曲~


広い銀河の片隅の。

緑に光るある星の。

それこそ小さなその町の。

夕暮れ染まる路地裏で。

少女は一人で泣いていた。


少女はみんなに嫌われた。

なぜなら姿が違うから。

捨て子の少女は醜い子。

どこが違うと尋ねれば。

みんなが答える「目の数!」と。

それから「手の数、足の数!」

いつでもどこでも嫌われて。

涙の数も人一倍。


石を投げられ、なじられて。

悪口言われて、泣かされて。


15になったその夜に。

少女は死のうと決意した。

しゃがみ込んでは泣きべその。

少女の頭上へ黒い影。


現れたるは老紳士。

シルクハットにステッキ掲げ、

泣いてる少女を見下ろして、

ヒヒヒと一つ微笑んだ。


「いやあ、サブリナお元気かい?」


真珠の涙をポロポロこぼし、

少女は顔をあげて見た。


「おじさん一体誰ですか?

なんで名前を知ってるの?」


「それはもちろん知ってるさ。

泣き虫弱虫いくじなし。

この星いちの嫌われモン。

奇形のサブリナ知ってるさ」


「おじさんどこの星の人?

あなたも私をイジメにきたの?」


「いじめるなんてとんでもない。

君を迎えに来たんだよ」


「お迎えなんてしりません。

私そんなの頼んでないわ」


「そうだよそうだよ、そりゃそうさ。

君の依頼じゃないからね」


「じゃあじゃあ誰に頼まれた?」


「私は誰にも頼まれて、

いないと言ったら驚くかい?

それでも迎えに来たんだよ」


「おじさんなんだか気味が悪い…」


少女は少し怖くなり。

三歩四歩と後ずさり。

だけども男は手を伸ばし。

少女の腕を鷲掴み。

その手は妙に冷たくて。

とても人とは思えなかった。


「そんなに醜い顔をして。

私を気味が悪いとは。

みんなが聞いたら間違いない。

腹を抱えて笑うだろ。

君の顔こそ醜くて。

気味が悪いと笑うだろ。

化物女のサブリナと。

みんな揃って大笑い」


少女は醜いその顔を。

更に醜く歪ませて。

傍目気にせず泣きじゃくる。

びえーんびえーんと泣きじゃくる。


「泣いても何も、変わらない。

奇形に未熟児、障害児。

欠陥人間、B級人間。

私は探していたんだよ。

あまたの星を駆け巡り、

並べて乗せる宇宙船。

遥かに遠い異星の街で。

見せ物にして売るんだよ。

ヒヒヒヒ、ヒヒヒ、ヒッヒッヒ」


「私は嫌よ行かないわ!」


男は急に黙り込む。

男の背後に闇伸びて。

すっぽり辺りを包み込む。


「サブリナそれで、いいのかい。

今日みたいに石粒を。

ぶっつけられて、泣かされて。

それでもここで、過ごすのかい?

昨日みたいに細い針。

背中に刺されて、泣かされて。

それでもここで、暮らすのかい?」


「それは……」と少女がためらった、

とたんにハンカチあてがわれ。

意識は闇夜に落ちていく。

すわりすわりと堕ちていく……。



戯曲~完~



宇宙の片隅の緑の惑星に、そのお店はありました。

看板は宇宙語でデザインされていますが、地球の皆さんは読めないでしょうから僭越ながら代読いたします。




~人間アウトレット~




 そう、ここは全宇宙から集められた欠陥人間やB級人間を販売する巨大アウトレットモールなのです。

 下半身が馬の少年、角を生やした少女、口のない赤ん坊。夢のない子ども、なんてのも何処かにいるかもしれませんね。


 ちょっと、覗いてみましょうか。ほら、6本の足で歩く少女の隣で首だけの少年がケラケラと笑っています。蜘蛛のように這いずる少年の上に、三つ首の少女が乗っかって、本当に楽しそう。どうですか、アウトレット人間たちは。


 おや、どうしました?そんなに熱心に眺められて。どれどれ、あそこの少女が気になりますか? 近づいてみましょうか。


 ははぁ、あれは辺境の星に住む一つ目族の奇形ですね。実に不気味だ。だって一つ目族なのに目が二つもある。しかも、珍しい、手や足までも奇形だ。あの子は手も足も二本ありますねえ。あれは気味悪がられますな。

 おっと失礼。地球人のあなたの前でとんだ失礼を。


どうですか?話してみますか?


ヒヒヒ、かしこまりました。


……。



……。



……。



お買い上げですか?

 こりゃあ良かった。お客様、お目が高い。決め手はなんだったんですか? 


 え?死んだ娘に瓜二つですって?

 そうですか、そうですか。これは運命的ですなぁ、ヒヒヒ。


 では、こちらにサインをお願いします。


 あ、そうだそうだ、お客様は見てのところ、初めて人間を買われるようですので、サインの前に重要事項だけ説明させていただきますよ。

 いえいえ、大したことはありません。


 こちらの人間達はその星では奇形や障害のあるとされる、いわばアウトレット人間でございます。ですので、返品や交換は一切不可となっております。

 ま、実際のところ商品本人、自分は欠陥品だと卑下していますが、お客様からしてみたら、お買い得な商品という認識でしかないでしょう。


 私のような蒸気人間にはわかりませんが、あなたに取って、あの二つ目の少女は美しく見えるのでしょう。ところ変われば美醜の定義など逆転しますからな。


 さて、彼らは商品であっても、皆、血の通った人間であります。感情もあれば心もあります。オモチャや人形とは違うのです。


 この契約書にサインをした瞬間に、彼女はあなたの家族になります。ですから、あなたの家族として当たり前に愛すること。それが、販売に関する重要事項でございます。


 え? それだけですかって?

 それだけですよ。愛こそは全てですよ、ヒヒヒ。


 では、あの少女を連れて参りましょう。

ちなみに名をサブリナと申します。


 彼女自身、自分の名前にだけは誇りを持っておりますので、改名はご遠慮くださいませ。

 ほら、サブリナ。ちゃんと挨拶しなさい。よしよし、良い子だ。


 では、お客様、お買い上げありがとうございました。サブリナ、今度こそ幸せになるんだよ。ヒヒヒ。



 ここは人間アウトレット。

 今日も欠陥人間が売られていくのです。


 ま、欠陥なんてものは実は他人から見れば長所なのかもしれませんけどね。






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