エピローグ
私は二年生になった。
あれから水原達は私に近づくことはなくなった。たまに目が合えば、ぎこちない笑顔を私に向けてくれた。新しいクラスになったことで、友達も増えていった。いじめの気配は完全に消え失せ、私は両足に革靴を履いていた。
あの後、三年達はジジイ達によって家まで送り届けられたらしい。彼らもまた、あの一件がトラウマになったようで、私に突っかかって来ることは無かった。ただ、私が頭突きをかました一人に何故か惚れられてしまい、卒業して尚も私に付きまとっている。男はよく分からない。
マグロ同好会では一年生が数人入ってきた。私も先輩と呼ばれるようになった。因みに私に合わせて入ってくれた彼は辞めてしまった。ある日、学校内で偶然会い、「ごめん」と一言だけ言われて以来、彼とは会っていない。
ジジイはもう私の前に姿を現さなかった。大丈夫と言ったものの、やっぱり会いたくなって色んなところを歩き回った。静かな校舎裏。立派な砂の城が築かれた公園。活気のない商店街…。
商店街の中を一人歩いた。辺りを見回す。誰もいない。私は少し助走をつけて、それからジャンプしてみた。
私は一メートルほど先に着地した。しばらく自分の足を見つめた。
「ジジイ……」
ポツリと呟く。何となく空を見上げて、あの日のことを思い出す。目を閉じて、一つ一つ丁寧に…。そんなことをしてたら、私の頭に何かが当たった。
何かは私の頭で一度バウンドして、地面に大きな音を立てて落ちた。
五円玉だった。
私はそれを拾いあげる。思わず笑った。それから五円玉をぎゅっと握りしめた。
「ありがとう」
誰にも聞こえないくらい小さな声で言った。前を向いて商店街の中を歩いていった。
空はまだ遠い。
前方のジジイが空を自由に飛んでった 紺ユキ @kaeda8765
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