第3話採用

 コンテナ内 


 意外とコンテナ内は、広かった。

 1LDKのアパートくらいある。

 実際にバス、トイレ、キッチンがあった。

 部屋の中に、瑞樹は1人座っている。 

 テーブルがあり、パソコンが5台あった。

 そこに名前がある。

 

 上野 孝義

 高橋 伊佐美

 飯島 史子


 おそらく昨日の、仲間達だな。

 瑞樹は思った。

 しかし意外にも、無機質な部屋だ。

 もう少し、散らかっていてもいいのだが……

 この人は、貴重品なんだな。

 瑞樹は思った。


 「お待たせしましたぁ」


 瑞樹が、振り向く。

 孝義がお茶を持ってきてくれた。

 お客様用と思われる湯のみと、馬のキャラクターのイラストがある湯のみだ。

 孝義はキャラクターの方を、瑞樹に置いた。

 

 「いただきます」

 

 瑞樹が一口飲んだ。  

 冷たいお茶だ。

 ペットボトルの、お茶みたいだ。

 孝義は少し驚く。

 キャラクターの湯のみは、ギャグのつもりだった。

 瑞樹は普通に飲んでいた。

 

 「キミ、そっちはミーのなんだ」

 「え? スミマセン」

 

 瑞樹は驚いた。

 それ以上に、孝義は驚いている。

 

 「湯のみ、こっちが来賓用だよ」

 「でも普通に、こちらを貰いましたよ」

 「まあ、そうなんだけど……」


 不思議な空気が、2人に流れる。

 

 この子、かなりの大物?


 孝義が、まじまじと見た。

 瑞樹は驚いている。

 ジーッと、見ていた。

 

 「可愛いお顔に、なかなかの器だ」


 孝義が言い切る。

 瑞樹は意味不明であった。

 

 「と、ところで、会社の概要を教えて下さい」

 「え? 概要?」

 「はい、どんな会社ですか?」


 今度は孝義が、意味不明になる。

 頭を捻っていた。

 そこにドアから、ノック音が聞こえてきた。


 「……あっ、そうそう」


 孝義ドアに行く。

 すると昨日のメンツが、2人揃っている。


 「2人も暇なのか?」

 「違うよ、自分は遊びに来たんだよ」

 「アンタねぇ、それを暇というのよ!」


 3人の掛け合いを、瑞樹は静かに見ていた。

 固まっている。

 

 「あれ? 昨日の可愛いのがいる」


 女の方が声をかける。

 瑞樹が、2人に頭を下げた。

 

 瑞樹を入れて4人のメンツが、テーブルを囲む。

 みんな思い思いの服装だが、みんな水簿らしい。

 瑞樹が一番、オシャレだった。

 

 「あのー、ここ会社ですよね」


 瑞樹が恐々聞いた。 

 3人が瑞樹を睨む。

 品定め……そんな感じだ。

 孝義はすぐに止める。 

 先程してたからだ。

 後の2人、特に女は真剣だ。

 男は前髪を払いながら、クールに決めている。

 鼻筋が高く、色白な優男だ。

 

 前世は組み紐屋で、仕事していたかも……


 この前オトンと見ていた懐かしい時代劇だ。

 その人みたいだった。

 瑞樹は思った。

 

 「可愛いわぁ!」


 よだれが垂れそうな笑顔を、女はしている。

 瑞樹は身の危険を感じた。

 

 「僕、食べ物でないよ!」


 汗が吹き出る。

 女が、は? となっていた。


 「プニ子、お前、襲うな!」


 孝義が笑いながら、冷やかした。

 

 「まあ、子豚ちゃんの大好物だからねぇ!」

 

 クール男がお茶を飲みながら笑っている。

 湯のみには馬の絵がある。

 デェフォルメされた、馬の絵だ。

 

 「アンタら、ウザイ! アタシの勝手だろ!」


 割とアニメ声であった。

 しかしそれだけだ。

 2人だけなら、食べられそうだ。

 

 「はいはい、そこまでだ」


 孝義がプニ子を止める。

 

 「まず、キミ!」

 「えっ? 僕ですか?」

 「はい、キミ! 採用!」


 指差しながら、孝義か言った。

 瑞樹はビックリした。

 いきなり、なのだ。

 

 「さすが、コウキ!」

 「いいのかい? コウキ、彼は初心者だろ?」

 

 2人が言った。

 女は喜び、男はニヒルに喜ぶ。

 

 「キミ、名前は?」


 孝義ことコウキが、瑞樹に聞いた。

 瑞樹はいきなり言われ、姿勢を正す。


 「みなさん、こんにちは、僕は中村 瑞樹です」


 瑞樹は言った。

 3人が、ん? となる。

 

 「キミ、男だよね」


 クール男が言った。

 後の2人も、大きく頷く。

 

 「瑞樹……こう書きます」


 瑞樹は近くにあった、紙切れとペンを拝借した。

 

 「へえ! 良い名前だね!」

 「うん、可愛いわぁ」  

 「まあ、なかなかだねぇ」


 3人が格好つける。

 すごい滑稽だ。

 瑞樹は、ついていけない。

 とは言え、採用されてしまう。

 瑞樹はあまり嬉しくない。

 しかし他に働き口がない。

 複雑な心境だ。

 まだ会社がよくわからないのに……


 「自己紹介だ。俺、上野 孝義! コウキで頼むわ。一応、社長だ」

 「自分は、高橋 伊佐美! イサミで頼むよ」

 「アタシは、飯島 史子! ふ……」


 「プニ子な!」


 コウキとイサミが、ハモった。

 そして大笑いする。

 プニ子が顔を真っ赤にして、身体をプルンプルンしていた。

 

 瑞樹は、どうしよう……と思う。

 しかし仕事がない。

 堪忍することにした。


 



 




 

 

 

 


 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それいけ! パカラッツ!! クレヨン @5963

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る