第2話訪問
翌日、午前 木曜日
瑞樹は自転車で、名刺の住所を目指す。
よくわからないけど、おもしろそう。
それだけの理由だ。
ちょっと遠いけど、家にいても片見が狭い。
自由を求めて、小さな町へ、レッツゴー!
軽い気持ちだ。
町の中は、クルマがたくさん走っている。
小さな町とはいえ、人はかなりいた。
都会ではないから、小さな町なだけだ。
実際はなかなかの町だ。
瑞樹は開放感に浸る。
サクラも咲始めた。
心がワクワクするが……
それ以上に、心臓はバクバク言っていた。
爽やかな気持ちが、バクバクで吹っ飛ぶ。
「僕、もう若くないのかな?」
緩やかな坂道を、猛スピードで駆け上がる。
ママチャリでだ。
ペダルをごく、ごく、こく……
「よし近くまで来たぞ!」
肩で息をしながら、空を見た。
青い。
そして澄んでいた。
この透明感に、ひんやりした空気が体を冷やす。
まだまだ、暖かい春は遠い。
それでも雪が溶けたから、道が走りやすい。
「よし、もう一息だ」
瑞樹は愛車を、漕ぎ出す。
ひんやりとした風が、瑞樹に吹いた。
風が瑞樹を応援しているみたいだ。
住所に来た。
名刺の住所を見る。
間違いない。
しかし違和感を拭えない。
何故ならここには、2つコンテナがあるだけだ。
周りには、公園があり、建設会社がある。
コンテナに近づくと、入口あたりに……
有限会社 パカラッツ
それも黒板に、チョークで書いてある。
食べ物屋ではよく見る。
しかし会社と名の付く場所では、違和感は増えるだけだ。
瑞樹は名刺を見た。
……ん?
固まる。
週休は火曜、水曜、とある。
えっ?
今日は何曜日だ?
瑞樹はスマホで確かめた。
……火曜日だった。
会社は休みである。
とは言っても、瑞樹は頭を捻った。
いや全ての人が、この名刺には頭を捻るはず。
休みが、火曜、水曜、まずあり得ない。
何故だ?
瑞樹が不思議そうだ。
瑞樹が頭を捻っている後ろから……
1人の男が、現れていた。
始めは誰だ?
眉をひそめていたが、昨日のアイツとわかる。
「来てくれたのかい」
男が言った。
瑞樹が振り向くと、名刺をくれた男がいた。
名刺の名前をよく見る。
上野 孝義
そう書いてある。
瑞樹は、孝義を見た。
なかなかのイケメンだ。
しかしムサい身なりだった。
「あのー、昨日の方ですよね」
「そうですよ」
「僕、就職先探してまして」
お互いがお互いを、値踏みするように見る。
特に孝義は、念入りだ。
2人の値踏みは、少し意味合いが違うようだった。
念入りに見ていた孝義が、一言……
「競馬に興味ある?」
笑いながら聞いた。
少しイヤらしい笑いだ。
「えっ、競馬ですか?」
驚きの表情を瑞樹は見せた。
この瞬間、孝義がヤハリか……
そんな感じで、瑞樹を見た。
「パカラッツは、競馬でご飯食べているです」
「つまり、競走馬を買ってるんですか?」
「違うよ、馬券を買ってるんだよ」
孝義の瞳が輝いた。
まるで子供が、宝物を見つけたようだ。
瑞樹もそんな感じを受けた。
このコンテナは、秘密基地のノリかな?
瑞樹が、コンテナを見る。
そして孝義を、再び見た。
「まあ、中に入って」
「えっ? 今日は休みですよ」
「ミーは、ここに住んでるの」
えっ!
瑞樹は驚く。
「ここに住んでるって、やっぱり驚くかぁ」
孝義がしみじみ言った。
瑞樹は孝義を見ながら……
ミーって、何なの?
そちらを、驚いていた。
風が吹いた。
春一番の埃っぽい風だ。
瑞樹は埃っぽい風が運ぶ、埃が目に入った。
「とにかく、入ろ!」
孝義がコンテナに、瑞樹を誘う。
瑞樹もお邪魔になることにした。
パカラッツの看板は、この風に飛ばされそうだった。
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