それいけ! パカラッツ!!

クレヨン

第1話はじまり

 春うららかな日、今年も始まる予感を 中村 瑞樹は感じていた。

 ヒマな瑞樹は、自宅の部屋でゴロゴロしている。

 ボサボサの髪を掻いていた。

 腹はでてはいない、しかしチビだった。

 牛乳は今でもよく飲んでいる。

 効き目はない。

 しかし止めたら、縮むのでは?

 そんな恐怖感から止められない。

 元々大好物なのだが、そんな屁理屈を付けていた。


 瑞樹も今年、地方の大学を卒業した。

 名前ばかりが勇ましいが、世間からは三流扱いされてる大学だった。


 瑞樹は地元の情報誌を読んでいた。

 見ているページは、求人欄である。

 つまり卒業したが、受け皿がないのだ。

 正直、意味のない卒業だ。

 落ち目のアイドルが、ファンに「私、卒業しまーす」と同じノリだ。

 

 「完全週休2日、大卒初任給150000円」


 瑞樹が溜め息をつく。

 嘘ばっかり……

 そんな溜め息だ。

 

 高望みをしている訳ではない。

 条件は、悪くはない。

 ただこの条件が、正しいかは疑問だった。

 求人欄はみんな、小さい会社ばかりだ。

 

 「僕、だまされないよー」


 瑞樹がそう言うと、近くにある牛乳を飲む。

 紙パックは、コンビニで買ったものだ。

 

 「うーん、いい会社ないなあ」


 瑞樹は、起き上がる。

 出掛けるのだ。

 何故か?

 うるさいオカンが、帰ってくるからだ。

 

 「オトンと兄ちゃん帰るまで、避難避難!」


 瑞樹は着替える。

 バッ! と、着替えて自転車に跨がった。

 何年ぶりの相棒かな?

 瑞樹は少し嬉しく、懐かしく、ペダルを漕ぐ。

 相棒は今でも現役だった。

 素晴らしく乗り心地が良い。

 数分乗っただけだが、懐かしさはなくなった。

 手足になった。 

 まだ寒い空気を、自転車が進む。

 行き先は、別にどこでも良かった。

 オカンから避難できるなら。


 瑞樹の家は、ぽつんとあった。

 まわりが田んぼで、隣の家まで距離がある。

 田舎だ。

 しかし相棒を使えば、数分で町が見える。

 小さな町だが、ここが瑞樹の住む町であった。

 自転車を漕いで、コンビニを見つける。

 それは町外れ、瑞樹の家からは近くにあった。

 先程の牛乳も、ここからのだ。

 

 「僕、また入ろう」


 瑞樹がコンビニに入った。

 そこへ1台のバンが、コンビニに駐車した。

 中から2人の男と、1人のポチャ子が出てきた。

 三人ともスーツ姿だ。

 同じくコンビニに入っていく。


 瑞樹は財布と会話していた。

 

 「財布は万年、ダイエット……」


 勝手に痩せる財布に溜め息が出る。

 お金という、点滴が必要だ。

 ただでさえ超スリムなのに……


 瑞樹の近くに、スーツ姿の男が顔を出す。

 いきなり!

 そんな感じだった。


 「スミマセン、そこどいて頂けませんか?」

 「え? あっ、スミマセン」


 瑞樹がスーツ姿に気づいて、慌ててどく。

 しかし背中に変な違和感があった。

 スッゴイ柔らかい……

 2回頭で押してみる。


 「きゃ! ちょっと」


 後ろを振り返ると、そこにスーツ姿の女がいる。

 目の高さに超腫れた胸があり、そこを後頭部が直撃していたのだ。

 

 「あっ、スミマセン!」

 「気を付けてよね」


 女がスゴイ顔で睨む。

 なかなか可愛い……体は緩いゴム鞠みたいだ。

 そう思った。

 

 「プニ子! お前邪魔」


 近くにいた、スーツ姿が言った。

 先程の、「どいて」だ。

 よく見ると、キリッとした目元が凛々しい。

 モテそうだな。

 瑞樹は思った。  

 もし、僕が女なら……

 いやその気はない。

 第一男だ。

 

 「あら、可愛い!」


 ポチャ子が言った。

 瑞樹の照れた顔が、子猫のようだ。

 

 「プニ子ちゃん、襲ったらダメですよ」


 スーツ姿のポチャ子の後ろから……  

 どこか知的なメガネ優男が、現れた。

 見た目は頭良さそうだが……


 「バカね、襲う訳ないでょ!」

 「本当かい」

 「人前じゃない!」

 

 『人がいない場所なら、襲うんですか?』


 声にならない、心の叫びを瑞樹は上げる。

 

 『骨の髄まで、吸われそうなだ』


 これは顔に出た。

 

 「止めろ、スイマセンです」

 

 どいて、が謝った。

 瑞樹は頭を下げると、その場を離れる。  

 牛乳を買う。

 そして会計を済ますと、外に出た。

 自転車でどこかに、さ迷う。

 そう思った矢先に、バンに目が止まった。

 バンには何か書いてある。

 右側には……


 勝馬投票は融資だ!


 そう書かれてあった。

 そして、左側には……


 有限会社 パカラッツ


 気合いのこもった執筆がある。


 「有限会社 パカラッツ?」


 瑞樹は、興味深々だ。

 少しバンを見回している。

 バンは白で、少なくとも6人は乗れそうだ。

 中を見たいが……


 「それは失礼だね」


 そう瑞樹は、1人納得していた。

 さてと自転車で……

 

 「ねえ、キミ! ヤケにクルマを見てたね」


 声の方向を見る。

 先程の3人だ。

 

 「アナタ、働いてるの?」


 ポチャ子が聞いた。

 

 「いえ、今からハローワークへ行こうと」


 とっさの嘘を言った。  

 とは言っても、家には帰りたくない。

 ハローワークも行かないと……瑞樹は思った。

 

 3人の内、かっこいい男が、瑞樹を見る。

 じろじろ、じろじろ……

 値踏みしているようだ。

 そして……


 「キミ、競馬、もとい! 馬券に興味ないか?」

 

 瑞樹に聞いて来た。

 瑞樹は、「え?」となる。

 いきなり何なんだ!

 そんな表情だ。


 「社長、興味ないようですよ」


 メガネのニヒルが言った。

 レンズが、ピカリと光る。

 

 「……そうか、まあ、これも縁だ」


 そう言うと、社長が名刺を出した。

 瑞樹は2つ驚いた。  

 1つは名刺を貰ったこと。

 もう1つは、若いのだ。

 見た目、どう見ても20代半ば辺りだ。

 それも3人揃ってだ。

 

 「まあ、良かったら、ここに来てくれ」

 「ボク、またね!」

 「まあ、こういうメンバーも必要ですね!」


 3人がそう言うと、バンに乗り込む。

 駐車場には、自転車とバンだけ。

 つまり彼等が、持ち主なのだ。

 名刺をくれた男が、運転席でウインクをする。

 バンは町に向かい、走り去った。


 瑞樹は名刺をみる。



 『有限会社 パカラッツ


  代表取締 上野 孝義』


 その下に携帯番号、住所があった。

 どうやら職場に、スカウトされたようだ。

 瑞樹はしばらく考えて、今日は帰ることにした。

 明日、住所に行ってみよう。  

 そう思った。

 この決断から瑞樹の競馬人生……

 そしてたくさんの、仲間達との物語が始まる。

 

 




 

 


 

 


 

 

 

 


 

 

 


 

 






 

 

 

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