第0話 破天の空は終わりの空
光がある。
しかし、その光は空のみであり、大地には何一つ明かりはない。
そう、
人がいると、その証たる明かりは何一つ、なかった。
闇が支配すると言っても過言ではない。しかし、それは、空から見た光景であって、大地からは天から降り注ぐ明かりで非常に明るかった。
とは言っても、
やはり、天から降り注ぐ明かりが無くては明るいとは言えなかったが。
そんな暗闇が支配する大地に立つ姿が目に映る。
立つ姿は一つや二つではない。
それよりもずっと多くの姿が映る。
その群れの一番手前に、人に近いが、人とは決して言い難い姿がいた。
鎧を纏う様に身体を金属に近い色をしている分厚いという程の厚さをしている鱗、というべきか、それに近い印象を与えるモノに全身が覆われており、両の二本の腕は肘関節で繋がれることなく、虚空に漂っている。人と呼ぶより、化け物と。そう言った方が適切であるように思えてくる。
しかし、手前の化け物より人間離れしているとしか言えない者たちが後ろにいるのを見ると、彼は人に近いといえるのかもしれない。・・・・・・化け物としか言えないが。
前方を見ながら、彼は誰に言うのでもなく、言葉を口にする。
『「聖光」の。』
その言葉に、右後ろから光が現れ、
「はっ。御身がお傍におりますれば。」
膝を地に着けながら、そう応える女性の声がした。
『「剛殻」と「疾風」、』
それと、
『「剣戟」は
その疑問に、女性はチラッと後ろに目配せをする。直後、彼ではない声と新たな姿が現れた。
『「剛殻」、推参した。・・・・・・遅くなった、「破天王」。連中、骨が折れなくてな。中々に時間が掛かった。』
そう応えるのは彼と同じく、分厚い装甲に身を覆った者であったが、「破天王」と呼ばれた彼よりかはまだ人間味がある様に見える。
その隣に、一陣の風が吹くと共に、
「『疾風』、ここに見参しました。
・・・・・・遅れてしまい申し訳ありません、『破天王』。
この遅れは如何なる処分であろうとも、私は謹んでお受けいたします。」
長い両耳をした二人と比べれば、軽装だという他ない少女が現れる。彼女は一つの弓と何本かの矢が入った筒を肩から垂れ下げていることから、狩人かそれに近い印象を覚えた。
膝を地に着け、遅れたことを謝罪する彼女に、『破天王』と呼ばれた彼は、
『良い。気にするな、「疾風」。』
と後ろを振り向かずに、彼女にそう言いながら片手を降ろしながら応える。その反応に、
「・・・・・・ハッ!! 有り難き幸せ・・・・・・っ。
貴方に、絶対なる忠誠を。」
「流石に、それは言い過ぎなのではないのでしょうか? あのお方は、」
えぇ、
「我らが『破天王』はそれ位ではお怒りになられませんよ?」
冗談交じりに光が彼女に言い、その言葉に彼女は目くじらを立てる。
だが、それも一瞬のことで、
『で、「剣戟」はどうした?』
いくら何でも、
『ヤツは早々にくたばりはしないだろう?』
という疑問に応える声がある。
『大丈夫だ、「破天王」。ヤツはくたばらんし、』
それに、
『ヤツの
と答えたのは、『剛殻』と呼ばれ、応えた男であった。
『・・・・・・で、あったか。』
『応ともさ。』
ま、
『ヤツの剣を二、三本折ってやったのは、俺だがな。』
「ですけど、『剛殻』。
貴方、その後にきちんと打ち直してあげたじゃないですか。」
『まぁな。』
まぁ、
『別に剣の一本や二本くらい、治すのは得意分野なんでな。』
ハハハッ、と応える男に、
「・・・・・・性格が悪い。」
『あぁ!? なんか言ったか、「疾風」?!』
「・・・・・・さぁ?」
『いや、絶対言ったね! 今、絶対性格が悪いみたいなこと言ったろ、お前!』
「まぁまぁ。落ち着きなさい、『剛殻』。『王』の御前ですよ?」
『なっ!! おい、「聖光」!! お前、それ言うの反則だぞ!!!』
子供の喧嘩のようなやり取りをし始める三人に、彼はため息を一つ吐きながら振り返り、
『・・・・・・「剣戟」。お前、いつからそこにいた?』
左右の腰にそれぞれ二本、背に二本の刀を付けた鎧武者に近い姿が三人から少し離れた位置にいた。その疑問に、『剣戟』と呼ばれた武者はこう答える。
『・・・・・・「剣戟」。・・・・・・推参。
・・・・・・遅刻。・・・・・・謝罪。』
二文字で応えそう言うと、武者は腰を折った。彼は二文字でしか口にしない。
であれば、それ以上は、口にされたことと二人の言葉から、おおよそを判断するほかするしかない。
『よし、少し待て。・・・・・・「剛殻」、「疾風」。
確か、お前らさっきまで、一緒に行動してたんだよな?』
『ああ。そうだが?』
「はい、『破天王』。その通りです。」
頷きながらそう応える二人に、
『お前ら、三人いて、・・・・・・なんで時間が掛かった?』
そう彼は訊いた。
だが、その疑問にはすぐには応えずに、『剛殻』は苦しまぐれという様に鳴りもしない口笛を吹く様にして、それに対し『疾風』は何も言えずに黙って俯いてしまう。その様子に再び彼は疑問に思ってしまう。
何故なら、
二人ともこことは異なる世界の実力者だからだ。
それを言ってしまえば、彼に微笑む様子で佇んでいる『聖光』も、六本の刀で武装している『剣戟』の二人も、異なる世界の実力者なのだが。
しかし、二人が答えを言わないということに彼は疑問する。
強い・・・・・・、とは言っても彼よりかは劣ってしまうが、少なくとも其処らにいる連中よりかは腕は立つはずだ。そんな二人・・・・・・、いや、三人が倒すまで時間が掛かってしまう程のモノとは一体なんなのか。
それについて思考していると、
「『破天王』!!! ご無礼をっ!!!」
光が立ったままの彼を押しのけた。その事に、
『・・・・・・っ、「聖光」っ!?』
彼は疑問の声を出そうとして、直後。
数瞬まで彼がいたところに、何本かの矢が突き刺さった。
「・・・・・・っ!!! 何奴!?
我らが王たる『破天王』に矢を向けるなど!!!」
その事実に、彼は一つの可能性を捨てる。
・・・・・・矢が来たのは後ろ。弓矢となれば『疾風』だが、あいつは俺の正面にいた上に、構えたのは今。
とするなら、と彼が考えようとした時に、地面に刺さった矢が消えた。
その事に、成程、と彼は納得することにして、
『先程は幻術、か。幻術で惑わそうとしたか。・・・・・・愚かな。』
そう言いながら、彼は振り返る。
そこにいたのは、
極めて劣勢だという他ない事実に、彼は絶望に身体を任せるよりも前に、笑みを浮かべる様に笑ってみせ、
『「聖光」。』
「ここに。先ほどは油断しましたが、種が割れてしまえば、問題なく。」
自身の右後ろに、そう言葉にする光を感じる。振り返らずに、言葉を続ける。
『「剛殻」、「疾風」。』
「問題なく。この身尽きるまで貴方の傍におりましょうとも。」
『同じくだ、「破天王」。へっ、さっきの挽回させて貰おうかね。』
横に並ぶ音と、戦いやすい位置にずれる風を感じる。
『「剣戟」。』
『・・・・・・承知。・・・・・・抜刀。』
鞘から刀を抜く音と共に、そう応える声が聞こえる。
敵よりも数が少ないのは事実。
されど、
自身が信じるに値する“友”と呼ぶに相応しい者たちがいるのも事実。
ならば。
ならば、戦わなければ、男は
と、考え。
彼は、『破天王』と呼ばれた彼は、誰よりも早くに先陣を切った。
破天世界の破天王 田中井康夫 @brade
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