ブライネスへようこそ!

第1話

 雲が厚く、月の『つ』の字も出てこないほどの深い夜、音をたてずに静かに町の塀を越える女の影が一つ、ブライネスの町に入ろうとしていた。

 女はキョロキョロと辺りを見回し『ふぅ』と一息つき、眠らない町ランキング一位の町に溶けてゆくかのように入っていった。

 『この町にはどんなお宝が眠っておるじゃろうか』となかなかに不吉なことを口走りながら。


 この町はブライネス。眠らない、いつも何かしらの事件が起きている町ランキング一位の町。
















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「うえぇ、吐きそう。もう無理。死にたい。ケティちゃーんちょっとキンタロ袋くれるー?はきそー」


「大丈夫ですか、ノラさん。はいどうぞ」


「め、めがmゲロゲロゲロゲロ、おえぇ、もう、無理だ。ケティちゃんお代もってなくてごめんね」


「の、ノラさーん!そんな、なんで、なんであなたが…ん?てめぇ最後なんていった?ち○こ切り取るぞ」


 こんな茶番を繰り広げているのはこの物語の主人公であるノラと町の一角にある酒場『オヤジのガチハグ亭』の看板娘、ケティである齢14にして酒場に来る荒くれ者の冒険者たちを気圧すほどのプレッシャーを放つスーパー少女である。

 一方ノラはというと、ただ一言、まるでだめなオッサン、略して パァン… (語り手謎の銃撃をうける。からの復活。先程までの記憶が一部飛んだ)略称などない、ただのダメ男である。その証拠に、さっきから『まだ24だし、オッサンじゃないし、酒代は適当にモンスター狩って来るからだいじょうぶだし、だから竿だけは、竿だけは!』と叫んでいる。するとケティは、


「ハァ…。しょうがないですね、毎回言っている気がしますが今回だけ特別にツケといてあげますからとっととギルド行ってお金持って来てくださいよ」


なんて言うものだからノラは涙を流しながら、


「ありがとう…ありがとう…ケティちゃん。俺頑張ってくるよ!今日の夜もまた来るからね~」


と意気揚々に走っていくのだった。


「またのご来店お待ちしております。…っと、あのカスは…」


 ふぅ、と息を吐きながらノラの使っていたテーブルをふきはじめるノラの頬はうっすらと赤い。しまいには鼻歌なんて歌い出すもんだから、周りのテーブルを使っている『ケティちゃんファンクラブ』の面々は、嫉妬半分、微笑ましさ半分の微妙な顔をするのだった。



 一方ノラは、意気揚々と店を出たのはいいものの、先程から微妙に気配を感じる追跡者をどうするか迷っていた。


(もぉ全くなんなんだよこいつ、俺そんな悪いことしたぁ?してないよね?メンドクセー次の角でケリつけるか)


 そう思いいかにも酒に酔っている風(実際に酔っているがケティのお陰で気にならないほどには回復している)を装い千鳥足で角をサッと曲がる。当然のように追跡者も角を曲がり、


「テメェ、なにもんだ?なんで俺を追う?答えろ。さもなくば…」


 というノラの声に驚き顔をひきつらせた…と、なるはずだった。

 だがノラが愛用のナイフを突きつけている場所には何もなく、代わりにあるのはタンという靴が屋根を蹴る音であり、次第に音は遠ざかっていく。

 ただそこには、すんごい恥ずかしいセリフをはいたうえに、逃げられるという失態をおかしたノラが砂になっていき、サラサラと崩れていく光景しかなかった。






to be continue

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