人と人との初めての出会い。未知のものと相対するとき、人は言葉や仕草といった微細な情報に注意を凝らし、相手の事を少しでも多く知ろうとする。出会いの瞬間は、最も相手の事を知らなくて、最も相手の事を知ろうとしている瞬間だ。
この掌編においても、「葵」は「Clement」の言葉や仕草一つ一つを丹念に読み取り、その人となりに想像を膨らませていく。この作品は、その描写の一つ一つが実に丁寧なのだ。「葵」は「Clement」の言葉や仕草からしか相手を知ることができないから、ある程度まで想像ができても、その範囲には限界がある。「葵」の視点から得られる情報、そこから想像を広げられる範囲とその限界が丁寧に描写されている。
掌編であり、物語は実に短いものだが、その分、描写の一文に至るまで、完成された作品だったと感じた。